第6話 シルビーさんの優雅?な1日(2)
家に戻ると、早速両親の説得を開始しました。最初は難色を示していましたが、今日の様な事がまた起きることを心配したのか、最後には魔法学園入りを許可してくれました。翌々月になるとレーネンベルク領に旅立つ準備は万全でした。レーネンベルクまでは父が送ってくれる事になりました。
父と一緒に出た始めての旅は驚きで一杯でした。村からほとんど出る事に無かった私にとっては見るもの聞くものが全て新鮮でした。子供の私が徒歩で旅するのも大変だろうという事で、父が馬車を雇おうと提案してくれましたが、これからの生活でどれ位費用がかかるか分からなかったので、そのまま歩いてレーネンベルク領に向かう事になりました。1週間程で魔法学園があるマリロットの町に着く事が出来ました。
マリロットに着いて最初にしたことは、何をおいても入学の手続きでした。もしも早い物順だったりしたら1日の遅れで涙を呑む羽目になるかもしれなかったからです。
魔法学園の建物は、さすが貴族様が経営しているだけあって、平民向けとは思えない程立派なものでした。
「ふわ〜、これがレーネンベルク魔法学園ですか〜」
「立派なものだな、おいシルビー、あっちで受付をやってるみたいだぞ!」
「本当ですか〜、早速行ってみます〜」
受付らしき場所に行くと、お姉さんが1人座っていました。
「済みません〜、ここで入学希望を受け付けてもらえるんですか〜?」
「はい、入学希望の方ですね。こちらの書類に記入して下さい」
お姉さんが1枚の紙を渡してくれました。私は紙に書かれている通り、名前や住んでいる場所、年齢等を書き込んで行きました。そして書き進めて行くと、”使用出来る系統魔法”という項目が目に入りました。”土・水・風・火”と書かれていて、丸を打つ様になっていました。それを見て私は急に不安になってしまいました。
「お姉さん、この”使用出来る系統魔法”ですけど〜、皆さんは何系統か使えたりするんですか〜?」
「ああそれね、それは、得意な系統を知る為の質問なの、大抵の子は1系統しか使えないわね、稀に2系統使える子もいるけど」
「良かったです〜」
私は続きを書き上げ、お姉さんに提出しました。あ、そうだ、推薦状も出さなきゃいけませんね。
「お姉さん、これもお願いします〜」
「あら、何かしら?ふーん推薦状ね、珍しい物を持って来たわね」
「役に立ちますか〜?」
「うーん、どうかしらね、魔法兵団の団員が保証してくれるのはかなりのプラスに働くと思うけど」
これを聞いて私は、改めてマルコさんに感謝しました。
「これで手続きは終わりね、入学試験は3日後の予定よ、それまで町で宿をとって待っていてね。この札を持っていけば無料で泊まれるわよ」
お姉さんはそう言って、1枚の木の札をくれました。
「あの〜、父も一緒なのですけど〜」
「ええ、もちろん保護者の方も一緒に泊まれるわよ」
「わ〜、すごいんですね〜」
「もちろんよ、魔法学園はレーネンベルクが今一番力を入れている事業の1つなんだから!それじゃあ、また3日後の朝に、ここに来てね」
「分かりました〜」
私は父の所へ戻ると、宿を取るためにマリロットの町へ戻って行きました。
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3日後、入学試験がありましたが、これは、はっきり言って拍子抜けでした。普通に得意な魔法を何回も標的に向かって放つという単純な物だったからです。今考えると、魔法の威力や精度、魔力の総量などを調べていたんでしょうが、当時の私は緊張していて、言われるままに魔法を放っているだけでした。それでも何とか入学試験に合格する事が出来ました。
入学が決定すると、直ぐに寮の部屋が割り当てられました。父とはここでお別れでしたが、これから始まる寮生活の方が私にとっては重要でした。父に別れを告げると、そのまま寮に向かいました。割り当てられた部屋に行くと、もう先客がいました。
「貴女が同室の子?私はシモーヌ、貴女は?」
「シルビーといいます〜、よろしくです〜」
私の返事を聞いた、シモーヌちゃんは複雑そうな顔をして、
「その喋り方は、地なの、態(わざ)となの?」
と聞いてきました。
「これは生まれつきです〜」
「ばかね、生まれて直ぐ喋れるはずがないじゃない!」
「でも、覚えている限りずっとこの喋り方ですよ〜、もしかしたら生まれてからずっとかもしれないじゃないですか〜」
「そんな訳ないじゃない、態(わざ)とじゃないなら、もう良いわ、疲れそうだけど我慢するわ」
「それは良かったです、これからよろしくね〜、シモーヌちゃん」
「シモーヌちゃ!はぁ〜、まあいいわ、好きなように呼びなさい」
それだけ言うと、シモーヌちゃんは自分の荷物の整理に戻ってしまいました。これが私とシモーヌちゃんの出会いでした。こう振り返ってみると、あまり良い出会いでは無かったですね。なぜシモーヌちゃんは未だに私の友人であってくれるんでしょうね?
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入寮して3日後から始まった魔法の授業は、両親にしか魔法を教わって来なかった私にとっては、ものすごく新鮮に感じられました。先ずは普通に呪文を学び、次に練習して、最後に実習するという3ステップは意外に私に合っていたようです。
1年目はコモンマジックと各系統魔法の初歩を、2年目には少し高度な系統魔法を、3年目には得意系統の魔法を重点的に習いました。私の得意系統はやはり土で、その次は火、水と風はほとんど使い物にならない様です。2年目には少し高度な錬金魔法について習いましたが、意外にも錬金の才能があったらしく、担当のガストン先生が熱心に錬金を専門にやらないか?と誘ってくれましたが。やはり亜人退治をして人の役に立ちたいという気持ちが強かったので断ってしまいました。
各年度の最後には進級又は卒業試験がありましたが、努力の甲斐あってか結構優秀な成績を修めることが出来ました。入学当初はドットだった魔法の腕もラインにまで上げる事が出来ました。
卒業試験の結果を確認していると、一緒にいたシモーヌちゃんが、
「結局1回もシルビーに勝てなかったわね、こんなポケポケ娘になんで勝てなかったんだろ?」
「失礼ですね〜、私の口調はこんなですけど、実はしっかり者なんですよ〜」
「シルビーがしっかり者?冗談でしょ、しっかり者なら、あんなに沢山失敗はしないわよね。例えば1年の最初の授業の時・・・」
「わ〜、シモーヌちゃんそれは言わないって約束したじゃないですか〜」
3年も一緒に暮らしていると、知られたくない失敗も沢山知られてしまっています、困った物ですね。えっ、シモーヌちゃんの失敗ですか?男子寮に忍び込んだのを見付かって寮監さんに大目玉を喰らったというのがありますよ!
「それで、ポケポケ娘のシルビーさんは本当に警備隊に入るつもりなの?」
「え〜、私の夢だって何度もはなしたじゃないですか〜」
シモーヌちゃんは真剣な目で私を見つめていました。
「それは耳にタコが出来る位聞いたわよ。でもね、貴女は優しすぎるから心配なの」
「シモーヌちゃんこそ大丈夫なんですか〜?錬金隊といっても、何年に1度は警備隊に派遣されるっていう話ですよ〜」
「私は大丈夫よ、土と水だから後方支援が精々でしょう。でも貴女は違うわ、直接亜人や盗賊なんかと戦うことになるのよ。貴女に人殺しが出来るの?」
「必要があればやってみせますよ〜、オーク鬼に戦いを挑んだ話はしたでしょう〜?」
それでも、シモーヌちゃんは心配そうです。
「分かったわ、でも無理だと思ったら、直ぐに転属依頼を出すのよ?貴女の錬金の腕なら引っ張り凧だわ」
「心配してくれてありがとう〜」
優しい言葉に、思わずシモーヌちゃんに抱きついてしまいました。
「ちょっと、離してよ」
「ダメです〜、ずっとお友達でいてくださいね〜」
「うん、そうね」
それでも、二人の進む道は一度分かれることになりました。私は、警備隊に配属されこの町を離れることになりました。シモーヌちゃんは錬金隊に配属され、この町で盾や剣を錬金するそうです。
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それから、私は兵団の警備隊本部からの指示で、とある伯爵家の領土にある町に向かいました。そこを拠点に活動している魔法兵団の警備隊第11班に配属になった為です。町で話を聞くと、兵団の人達が泊まるという宿を教えてもらえました。教えてもらった宿屋に着くと、元気な女将さんが迎えてくれました。
「いらっしゃいお嬢さん、泊まりですか?」
「あの〜、こちらに魔法兵団の方々がいらっしゃると聞いて来たんですが〜」
「ああ、魔法兵団に依頼かい?2階の一番手前の部屋が会議室になってるから、そこへ行ってみな」
「依頼ではないのですが〜、分かりました〜」
私は、早速会議室へ向かいました。そこには思ってもみなかった再会が待っていました。
「失礼します〜」
「お!お客さんか?」
「も、もしかしてマルコさんですか〜?私です〜、昔お世話になった、シルビーです〜」
「この特徴的な喋り方は確かに、シルビーだな、大きくなったな!もしかして、この班に配属されてくる新人メイジってシルビーなのか?」
「はい、そうです〜」
「そうか、あの小さかった女の子が、もう一人前のメイジになったんだな」
マルコさんは感慨深そうに呟きました。
「マルコさん、セリフがおじさんっぽいですよ〜」
「何〜、俺はまだ・・・!まあそんな事はどうでもいい、俺達警備隊第11班は全員で22人のメイジが所属している、シルビーを入れて23人になったな。これが大体。2〜4班に分かれて、活動している。今は、ほとんどが出払っていて、おれが留守番って所だな。何か質問はあるか?」
「警備隊のお仕事は、亜人退治なんですよね〜?」
「なんだ、そんなことも知らないで警備隊に入ったのか?警備隊の仕事は、担当する地域の治安維持全般だ、亜人退治を始め、盗賊団の討伐や、犯罪者の捕縛なんかが主な任務になるな。騒動が起こっていない時は、巡視も忘れちゃいけないな。俺達が見回っているということを知っているだけでも、住民は安心出来るからな」
「はい、先輩、分かりました〜」
「いや、ここは”副隊長”という所だな」
「え〜、マルコさんが副隊長なんですか〜?」
「そうだぞ、昇進したばかりだけどな、敬意を持ってマルコ副隊長殿と呼ぶように!明日からはビシビシ鍛えて行くからな」
「はい〜、がんばります〜」
翌日から戦闘訓練が始まりました。2週間程の訓練の後、実戦に参加することになりました。実戦といっても、単なる犯罪者の捕縛等の簡単な任務からだったので、問題なく班に馴染むことが出来ました。2月もすると、今回の新人は使えるという評価をしてもらえるまでになりました。その評価は私が採用した”おとりゴーレム作戦”による物が大きかったです。
”おとりゴーレム作戦”は対亜人用の作戦です、特に知能の低い亜人には有効でした。(逆に盗賊団などには空振りだったんですが)
亜人たちは、より近くにいてより大きな目標に攻撃を仕掛ける習性があります。この習性を利用して、亜人の近くに大き目のゴーレムを作成して亜人に攻撃させます。亜人はゴーレムを脅威と感じ、ゴーレムに攻撃を集中します。その間に私達は亜人に攻撃し放題となる訳です。ゴーレム自体は単なるおとりなので、ほとんど制御する必要もなく、1人の土メイジが多数のゴーレムを作り出しても、制御不能になったりしないのも有用性を認められた理由でした。
前衛役の居ない魔法兵団では、亜人に接近されて死傷者を出すことが多かったので、この”おとりゴーレム作戦”は警備隊中に広まることになりました。
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