シルビー 本編26話読後にお読みください
第5話 シルビーさんの優雅?な1日(1)
カーテンを通した、朝日に照らされて目が覚める所から私ことシルビーの1日は始まります。
「くぅ〜」
今日もお仕事頑張っていきましょう!
「すうすう」
誰ですか、こんな良い朝にまだ眠っているのは?
「むにゃむにゃ」
さては、シモーヌちゃんですね。困ったものです、そろそろ起してあげなくちゃいけませんね。そこまで考えると、急に身体が揺すられます。
「シルビー起きなさい!」
そして耳元で私を呼ぶ大きな声がしました。
私は慌てて飛び起きました。横をみると同室のシモーヌちゃんが腰に手をあてて怒った様な表情で立っています。
「あれ?シモーヌちゃんおはよ〜、もう着替えたの?さっきまで寝てたのに〜」
「まだ寝惚けてるの?さっきまで寝ていたのはあなた!私はもう朝食すませてきたわよ?」
「あう、夢の中では目を覚ましていたんですよ〜」
「それは普通熟睡中というわね、いいからしゃんとしなさい!また朝食食べられなくなってもしらないわよ?」
「それは困ります〜、すぐ起きます〜」
こうして改めて私の慌しい朝が始まったのでした。
===
私がメイジを志したのは、7歳の頃だったと思います。私は、トリステイン王国のほぼ中央に位置するある子爵家の領地にある小さな村に生まれました。両親共に土メイジでしたが、貴族とかではなく一農民でした。魔法の力で植物を育てていたので村の中では結構裕福でした。
ですがそんな生活も、突然の侵入者によって簡単に崩れ去りました。村の近くの森にオーク鬼の群れが住み着いてしまったのです。幸い負傷者等は出ていなかったと思いますが、家畜には酷い被害が出てしまいました。血だらけの馬小屋を見てしまった時は、数日気分がすぐれなかった事を覚えています。
村長が村を治める子爵様宛に、オーク鬼の群れを退治してくれるように依頼を出したのですが、良い返事はもらえなかったようです。そのままの状況が2,3週間続きました。私達はなす術も無く、用事は全て昼の内に済ませ、夜は布団を被って家の中で震えているしか出来ませんでした、遠くから聞こえる家畜たちの悲鳴を聞きながら。
そんな恐怖に満ちた日々も、トリステイン魔法衛士隊のグリフォン隊の介入で速やかに終焉を迎えました。グリフォンを従えた魔法衛士隊の勇姿は、今でも思い出す事が出来ます。
翌日から、私はメイジの修行を始めました。両親は困った様な表情でしたが、それでもメイジとしての教育を私にしてくれました。それから数年、両親によるメイジとしての修行が続きました。幸いメイジとしての才能は両親を遥かに上回っていた様で、この数年で、両親が知っているほとんどの呪文を使う事が出来るようになりました。
両親によるメイジとしての教育が終わったのを機会に、私は両親に、
「魔法衛士隊に入りたいです〜」
と告げました(このおっとりとした口調は昔からでしたね)。父は困ったように、
「魔法衛士隊には貴族の子弟しか入れないんだよ、お前はグリフォン隊の活躍に憧れたんだろうが、彼らがオーク鬼の群れを退治したのは、我々の為ではなく彼らの戦闘訓練の一環だったのだよ」
と教えてくれました。私の頭の中は真っ白になってしまいました。憧れだった魔法衛士隊に入ることも出来ず、それどころか、憧れ自体が的外れだったと言われたのですから。私はしばらく落ち込みましたが、そんな状況も長くは続きませんでした。
以前、オーク鬼の群れが住み着いた森に、またオーク鬼の姿を見たという噂が村中に広がったのです。村長はその噂を聞くとすぐに何処かに使者を送り出しました。その時は、多分また役に立たない領主さまの所だと思いました。その時はある計画で頭が一杯だったので他の事にまで頭が回りませんでした。
数日すると家畜に被害が出始めました。私は自分の計画を実行に移す時が来たと確信しました。今思うと、無謀だった事ははっきりしています、1人でオーク鬼に挑むなんて。その頃の私は、グリフォン隊の真実を知って自棄になっていたのでしょう。
1人きりで勇んで森に向かった私でしたが、森に入った途端、恐怖で身体が強張っていくのを感じました。それでも、私は振り返らずに森の奥へ進んで行きました。しばらく進むと、一匹のオーク鬼を見つけました。私は杖を取り出すと、私が持っている中で最強の呪文を小声で唱え始めます。両親に危険だから人に向かって使ってはいけないと言われた呪文です。
「地爆散(アースボム)」
私の声が回りに響くのと同時に、オーク鬼の足元の地面が爆発しました。やったと思ったのはほんの一瞬でした。土煙が晴れると、オーク鬼はまだ立っているのが確認出来てしまったからです。
「グワーッ」
そしてオーク鬼は叫び声をあげると一直線に私の方に近づいて来たのです。私はパニックに陥りました。足をもつれさせながらも、懸命にもと来た道を走って引き返して行きました。そのまま村に帰ったらどんな事になるかを想像している暇もありませんでした。
私にとって幸運だったのは、先程の呪文でオーク鬼が足を痛めた様で追ってくるスピードが遅かった事です。ですがその幸運もそれ程長続きはしませんでした、子供の足ではオーク鬼を引き離す事が出来なかったのです。それどころかだんだん差がつまってきている気がしました。それを見て、足を速めようとした瞬間でした、私は木の根に足を取られ転んでしまいました。
もうだめだと思った時、救いの手が差し出されました。その手を頼りに立ち上がると、その手の持ち主は既に呪文を詠唱し終えていました。
「火炎球(ファイヤーボール)」
次の瞬間、炎の玉がオーク鬼を捉え爆発を起します。
「みんなこっちだ!」
その声を聞きつけ、数人のメイジらしき人々が駆け寄って来ました。そして息も絶え絶えのオーク鬼に次々と呪文を放って行きました。オーク鬼が息絶えるまでそれほど時間はかかりませんでした。
「お嬢ちゃん、怪我は無いかい?」
私はまだ声が出せず、頷き返すことしか出来ませんでした。
「怪我が無いなら上等だ、みんな1度村へ帰るぞ!」
「子供一人で、オーク鬼に挑むなんて無茶はもうするなよ!」
「両親に心配させるなよ!」
「無事でよかったな!」
私を助けてくれた人達が、次々に声をかけてくれました。私は状況の変化についていけず、ただ頷き返す事しか出来ませんでした。そして村に戻ると、心配した両親と村の人々が、私達を迎えてくれました。それから私は両親にこっぴどく叱られましたが、私はその言葉を半分も聞いていませんでした。説教が終わると早速両親に先程の人達について尋ねました。
「あの人達は、レーネンベルク魔法兵団だよ」
「レーネンベルク魔法兵団ですか〜?傭兵団ですか〜?」
「いや、彼らはあれでもと言っては失礼かな?この国の北東にあるレーネンベルク公爵家の家臣なんだよ」
「なぜ、レーネンベルク公爵家の家臣の人達がこんな村に来てるんですか〜?」
「それは村長が、魔法兵団に依頼を出したからだよ」
「依頼ですか〜、それだけで傭兵団でもないのに、こんな村までメイジが派遣されて来るんですか〜?」
「それはな、レーネンベルク魔法兵団が我々平民の味方だからだよ」
それから、父はレーネンベルク魔法兵団の功績について熱心に語ってくれました。ここ数年、魔法の修行に明け暮れていた私にとっては、信じられないことでした。貴族が平民の為にメイジを組織して活動させている何て聞いたら、普通の平民は冗談だと思うでしょう。ですがその時の私には一筋の光明に見えました。
私を救出した後、魔法兵団の人達はまた森に戻り、オーク鬼が残って居ないか捜索に出ていました。夕方になる前に、彼らは村に戻って来ました。彼らは、森の中で何匹かのオーク鬼を発見してそれを全て退治して来てくれました。幾つかのオーク鬼の首を運んで来たことからもそれは間違い無いことの様でした。
魔法兵団側にも、軽傷者が何人か出た様なので、その晩は村に泊まって行く事になりました。私はこの機会を逃さず、魔法兵団の人達に接触を試みました。彼らに割り当てられた空き家に、ノックをして入って行くと魔法兵団の人達が思い思いの格好で寛いでいました。私に気付いた、最初に私を助けてくれた男性が、話しかけて来ました。
「おや、お嬢ちゃんじゃないか、どうかしたのかい?」
「今日は助けてもらって、どうもありがとうございました〜」
「こっちは仕事だからな、気にするな。俺の名前はマルコだ、それにしてもあんな無茶な事をする割には、おっとりとした話し方だな」
「これは生まれつきです〜、それより私、魔法兵団に入りたいのですがどうしたら入れますか〜?」
「生まれて直ぐは話せないと思うけどな、ああ、お嬢ちゃんが魔法兵団に入りたいって?」
「お嬢ちゃんじゃないです〜、シルビーって立派な名前があるです〜」
「そうか、シルビーかいい名前だな、だが子供は魔法兵団には入れないぜ」
「じゃあ大人になったら入れますか〜?」
「いや、大人になってもメイジとしての腕がしっかりしてなきゃ無理だな。少なくとも、オーク鬼一匹位は1人で何とか出来ないとな」
「うぐ〜」
私の知る限りの呪文では、オーク鬼を足止めする事さえ出来ませんでした。
「どうした、メイジとしての腕に自信がないか?ああ、そうかこんな小さな村じゃ、魔法を習うことも出来ないか」
「そうなんです〜」
「それなら、魔法学園に入学したらどうだ?」
「魔法学園ですか〜」
「ああ、正式には”レーネンベルク魔法学園”と言ってな、シルビーみたいに魔法を習いたい平民のメイジが通う、魔法を教えてくれる場所だよ」
「是非、是非行きたいです〜」
「うーん、熱意があるんだか無いんだか分からない返事だが、そうだな、俺が推薦状を書いてやろう」
そう言うとマルコさんは、近くにあった鞄から、紙とペンを取り出すと、推薦状を書いてくれました。
「これを魔法学園の受付に出してみな、少しは役に立つかも知れないぜ。もっとも俺程度の推薦じゃあ、あまり役に立たないだろうがな。ははは」
「何か急に不安になって来ました〜」
「まあそう言うな、何も無いよりマシだろう?」
そう言うとマルコは苦笑しながらも、私に推薦状を渡してくれました。
「ありがとうございます〜」
「確か、再来月の中頃から、魔法学園の入学者の募集が始まるはずだぜ」
「分かりました〜、早速準備を始めます〜」
私は兵団の人達に挨拶すると、推薦状を大事に抱えて、家へと帰って行きました。
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