獣の狩人

朝陽乃柚子

プロローグ

一つ、二つ、三つ、四つ......かつて人として存在していたものの残滓。それが今は一人とは呼べないモノとして存在し、この場所をより悲惨なものとさせている。


「これで......終わり......?」


 足元に転がる首を見て、ショートカットの髪を自分で撫でながら、少女はそう呟く。


 「いや、まだだ」


 彼女をはるか下に見下ろしながら、長髪の男はため息をつく。さっきの戦闘で酷使された長身の体、その状態がいかに困難な任務であったかを語っている。


 目標は六人。要人、この国の骨幹を担う重要人物をことごとく殺害してきた暗殺集団。その壊滅にこの二人は駆り出された。


 「ここにあるのは四人だけだぞ。お前、足し算くらいの計算はできんだろ。」


 「ごめんなさい......」


 「ここへ来た時の気配は最初から四人しかなかった。つまり残り二人をこの広大な首都の中から探さなきゃならん。全く面倒だ。一人狩るだけでも骨が折れる相手がまだ二人も残ってやがる。」


 「でも、それは別働隊が......」


 そよ風が吹いただけで飛んでしまいそうな少女の声に、男はこいつがパートナーだなんてだ俺はツイてない、という感情を隠すこともせず、邪魔くさそうな態度で話す。


 「おめえも自分で相手したんだからわかるだろ。生半可な相手じゃなかった。もし探し当てたとしても確実に狩れたという保証はない。」


 「はい......]


 「一旦戻ろう。上の連中に報告する。二人で四人も狩ったんだからこれで上がらせてくれると助かるんだがな」


 そう言い二人の男女はこの場を去る。そして常人では即死するであろうビルの四十階、窓ガラスが全て砕け散り、外の空気とむき出しの場所から、二人は躊躇なく飛び降りる。そして何かの霧のようなものが二人を包み、ゆらりと大地に着地した。

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