光柱

 「あーあ……」


 レンは戦いながら溜息を吐いた。

 「あれ」は小さく見積もっても30メートルはある。伝説のヒーロー、仮面ビオダーの必殺キックでも、例えば自分の手持ち武器の最大チャージ攻撃でも流石にあれは手に余る。


 漆黒のドラゴンは口から火球を吐き出すと、周囲の街を手当たり次第に焼き始めた。

 レン達のすぐ頭上を真っ赤な炎の塊が通り過ぎ、二つ向こうの区間を直撃して大きな火柱が上がった。


 アリエンジャー五人の戦闘ビークルを合体させた巨大ロボ「アリエカイザー」なら戦える。せめてアリエファルコンが来てくれたら……!


 そこまで考えて、レンはふと思い付いたことがあった。


「レン殿!」

 戦いの中、モンスターを斬り伏せながらレンの元に駆け寄る騎士の姿があった。

「ご無事で!」

 この世界に到着した時、最初に会った二人の騎士の内の若い方、確か名前は……。


「エレン! 助かったぜ!」

「なんの! そもそも首都たるこの都を、民を護るは我らが務め!」

 言いながらエレレナンシュタトは彼に斬りかかって来た鎧を着た熊のようなモンスターの頭を兜ごと両断し、一撃で葬った。その見事な太刀筋に口笛を吹いたレンはエレレナンシュタトの剣が仄かに、霧のようにぼんやりとした光を放っている事に気が付いた。魔法の剣か。


「アンタは、俺が嫌いなんだと思ってたぜ!」

 レンもまた奇声を上げながら遅い掛かってきたゴブリン二匹を、斬撃の往復で連続で倒す。

 雑魚モンスター達は数は減ったとは言え、まだまだ二、三百は居そうだった。数の上では魔物の軍勢の方が優勢だ。だが人間の騎士達は士気は高く、装備は上等で良く訓練されていた。

「それは……ご無礼を。何分にも異界の方とまみえるのは、レン殿が初めてなれば、その……」

「何人だ?」

 位置を変え、エレレナンシュタトと背中合わせに陣取ったレンは、次々と挑んで来る敵を殆ど一刀の元に斬り捨てながら彼に訊いた。

「は?」

「召喚される異世界の英雄だよ! 俺とあっちで戦ってる仮面ビオダー。二人だけか?」

「いえ! 召喚される英雄は三人、と訊いております」

「アンタ達の魔法使いは? ドラゴンをやれるか?」

「まさか! 原初の力を身に宿すドラゴンはどの系統の魔法にも強い抵抗力を持っております。それに残念ながら我が軍の魔術師は最早魔力の殆どを使い切り、暫くは魔法を行使できません。レン殿達の武器や技では?」

 レンは首を振った。

「いや、流石にデカ過ぎる」

「魔物の軍勢が急に現れて不思議に思っていたのです。あの竜が、闇に紛れて近くまで魔物たちを運んだに相違ありません」

 エレレナンシュタトは意を決したように言った。

「レン殿! ここは引きましょう!  活路は我々が拓きます。相手がドラゴンなら退いたとて恥ではありません。都は捨てても、王家と民が無事なら再建はできます。ここは……」

「その必要はねーんじゃねーかな」

「……どういうことです?」

「俺の想像が当たってりゃ……」


 その時、異変が起きた。


 ドラゴンが着陸した近くに一筋の光が真っ直ぐ天に昇った。その光は見る間に輝きを増し明るく太くなると、巨大な白い光の柱を形成した。


「あれは……アンタらの魔法か?」

「いえ、あのような術は……見た事が……」

「ちょいと失礼!」

「え? レン殿の何を、うわっ⁉︎」


 レンはエレレナンシュタトを軽々と肩に担ぐと跳躍し、積まれた樽、民家の軒を足場に更に屋根に上がり、そこからまた更に高い別の屋根に駆け上った。


「よっ、と」

「何をされるのです!」

 若い騎士は顔を紅潮させて抗議した。

「ゴメンゴメン! ま、そう怒んなって。ほら、見てみなよ」


 レンに促されたエレレナンシュタトは、

「おおっ……!」

 と、思わず声を上げた。


 燃え盛る街の炎に照らされてその威容を暗闇に浮かび上がらせる漆黒の竜。

 そして少し離れた所に垂直に屹立する巨大な光の柱。

 その柱の中に、一層光の濃い部分が生じると、それは瞬く間に右手を高々と差し上げた銀色の巨人の姿となった。

 背丈は城の一番高い尖塔よりまだ高い。赤と銀に彩られた屈強な肉体はしかし衣服のようなものは纏っておらず、感情を感じさせない起伏の少ない顔は儀礼の面か、異国の神像のようだとエレレナンシュタトは思った。

 光の巨人は完全に実体化するとドラゴンに対して前屈みに構えを取りながら、


「ジュアッ!」


 と、独特な気合いの声を上げた。


「紹介するぜ、エレン」

 エレレナンシュタトの隣にやって来たレンが、エレレナンシュタトと同じ光景を見ながら言った。


「彼はウルティマン。俺達の世界の銀河の果て、光の星からやって来た怪獣退治の専門家だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る