第5話 本題〈ホンダイ〉
木々のざわめきも弓道部の声も一瞬静まり返り、これまでの空気の流れは遮断された。
俺はこのタイミングを逃すまいと、直球を放り投げる。
「そんなことより本題に入ろうぜ」
「そうだね。
「いま把握しているのは、自分の考えが相手に伝わってしまうっていうことぐらいか」
「うん……
ばっか、俺ほど良識的な範囲で性欲と向き合っている男子高校生は珍しいと思うぞ? コンビニの
「おい、
「わー、何言ってるのかいまいち分からないけど、ごめんなさーい」
普通に謝っちゃうのかよ。
「とにかく、分からないことだらけだし、この現象を止める方法なんて
「そうだねー。そもそもなんでこんな非現実的なことが起きてるんだろう」
昨日感じた違和感が再び襲ってくる。
人が電車にはねられる光景を目の当たりにしておいて、翌日に忘れるなんてありえるのだろうか。いや、この現象自体がもはや世の常識から逸脱しているわけだし、可能性はゼロじゃないのかもしれない。
おれは
「なぁ、
「5時半? たしか、渋谷で友達と遊んでてちょうど渋谷駅のホームに着いたぐらい……あ、そういえば、駅に向かう途中で街頭インタビューされかけたんだけどその友達がお腹壊しちゃって、インタビュー受けずに駅の中まで猛ダッシュしたんだよねー。
ツッコまねえからな?
「こ、この現象が始まったのもそのぐらいだよな。駅のホームでなんか変わったこととかなかったか?」
「んー……何もなかったと思うけど。
「遅延……他には?」
うーんっと
「遅れてたものの電車はちゃんと来たし、乗ってすぐにこの現象が起きたから……思い当たることはないよ」
雲一つない青空の下で俺は、雷に打たれた。
俺だけが知っている真実。これを
記憶の塗り替え……駅のホームから自宅までの瞬間移動……意味不明な現象……いよいよ普通の男子高校生には手に負えなくなってきた。
俺は現実逃避でもするかのように、呟く。
「この現象、神様のいたずらなのかもな」
「え?
「ポエマーだとナルシストみたいでなんか嫌だわ。せめてポエットにしてほしい」
日本人ってなんでもかんでもerをつけたがるよな。そのうち歌手のこともミュージシャンじゃなくてミュージッカ―とか呼び始めるんじゃねえの? それはないか。
そもそも、今の俺は
ポエットってなんか響きがかわいい、とかどうしようもなくどうでもいいことを呟いている
「とりあえず最低限の確認はできたし、そろそろ帰るか」
前かがみになって、地面に放り投げていた鞄を手に取ろうとしたそのとき、頭の上から
「あ、
「っえ?」
俺はかがんだ状態で顔を上に向けた。白い肌が垂直に伸びている。ふくらはぎから太もも、そしてその先には……この世で最強の布切れ。そう、それは紛れもなくパンツだ。
おっと、これは凝視する以外の選択肢がありませんねえ。
前かがみの状態から元に戻そうとしていたはずなのに、その動作は完全に緊急停止してしまった。
「ねえ、
「いやー、待って待って。暴力はダメ絶対。すまん、悪気はないんだ、信じてくれ」
俺は電光石火のごとく体を起こした。
「じっくり見てたこと自体は否定しないんだね」
心なしか彼女の目が死んでいる。けれど、先ほどと大して変わってないような気もする。……本当に表情がぶれないなぁ。なんなの? 日本人形なの?
「まぁ、目の前にパンツがあれば見ないわけにはいかないよな」
「もういいよ。もうわかったよ、
呆れた様子の持田は、さらに話を続ける。
「そんなことより、確認したいことがあるんだけど。まだ、時間大丈夫?」
「ん? 予定はないし、問題ないけど。何?」
俺は目で続きを促した。すると
「ちょっと……デートしよ?」
一瞬、時が止まったかのような静寂が訪れ、すぐに弓道場のほうからパンっという破裂音が響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます