第116話

「終わらせぬウウウウウウウウウウア!」


 それは、兼代の頭上を通すように。

 三叉の豪槍が、レオスの一撃に食いついた。


「!?」


 圧倒的な力の突撃。目に映った将蔵の体は全身が虹色に輝き、尚且つ全身の筋肉に血管が走っている。先日体を破壊した男とは思えぬ豪の力が、レオスを兼代から離し行く。


「お……! おのれ、陸前 将蔵! 邪魔をするか!」

「邪魔はさせてもらう!」


 将蔵の眼にも声にも、一切の怯えは無い。


「私は陸前家当主・陸前 将蔵! あのような雑魚の処理に徹していては、この名が廃る! そしてこの大恩人が最後の戦いの力にもなれぬとあっては! 未来ある若者の力にもなれぬとあっては、一人の大人として失格! そして!」


 奇襲による力の発揮の遅れから、レオスは遂にこの空間の最奥まで叩きつけられた。

「……!」


 豪槍が白色に輝く。それが破壊の光であると、他の誰でもない自らが知っていた。

「少しはいいところを見せねば――父親として廃るわ! 黄泉之彩蝕腕、奥義! 『天濫黄泉路七星連灯(てんらんよみじしちせいれんとう)』!」


 放たれたのは、杭打機のような爆発的な勢いで伸長された槍だった。

 その破壊力は、レオスの剛腕を上回る。レオスの鋼のような胸板を貫通し、背後のパネルを紙よりも容易く打ち破り、全面に巨大なひび割れを形作る。異形の磔が如きその光景の登場人物達はしかし、互いに闘志を燃やし続けていた。


「こ、の……! 敗北者がアアアアア! 生意気なことを!」


 レオスは自らの体に起こっている異変に気付いた。

 自らが取り込んだ怨霊が、貫いた槍を通してどんどん吸収されていく。これは力の減少とイコールのことだ。毎秒何十、何百と言う怨霊が吸収されるのは、刃が常に接しているからだろう。


「……!」


 レオスは蹴りを将蔵に叩き込んだ。

 強化が施された一撃は、かつて骨をへし折った位置を正確に捉えていた。最早激痛ではない、意識が飛ぶような衝撃。

 だが、飛んだ意識を、頭脳が創り出すよりも更に強い意識が掴んで戻す。

 将蔵の力は更に強まり、レオスの体を槍で抉り、背後のパネルを――そして、己の体をも破壊しながら持ち上げる。


「ヌオオオオオオオオオオオオオオオオオ! 受けるがいい、レオス・グランディコマンダアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 槍が更に輝きを増す。


「天濫黄泉路七星連灯オオオオオオオオオオ!!」


 そして槍は、レオスの体を貫き切った。


「……!」


 穂先はレオスの体を通して更に伸び、天井をも突き破った。

 伸長の勢いでレオスの体は更に抉れ、主霊には僅かに届かずとも胸の大穴が確かな痛打を告げている。


「小癪なアアアアアアア!」


 全身に巡る激痛を味わう中、レオスは身をよじって将蔵を殴り飛ばした。しかし、無茶に無茶を重ねた身。その身はあっさり弾き飛ばされる。

 だがその貌には、安らかな安堵が刻まれている。


「これ、くらい、で……届くだろう……」

「何……!?」


 レオスは目の端に捉える。

 復活して向かってくる若者の姿。両手に握った光の剣の輝きを。

 レオスは即座に体勢を立て直し、その剣を受ける。

 唐竹割の一撃は、


「!?」


 先ほどのレオスと兼代の構図を、真逆に再現した。

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