第60話

「とわけです。3年生の総合学習の時間に、体育館でお願いします。子供たちは、まあ、話を聞かない子もいますけど、そこは何とか……」

「ええ、任せておいて下さい! ぼく……いや、私達が、がっしり心を掴めるようなトークをしますから!」


 先生の相手はほぼ百目鬼が単身で相手をしてくれていた。別に事前に打ち合わせをしていたわけではないのだが、天性の悪魔とコミュニケーション能力に大いに難のある生物には任せられるはずもなく、俺のような凡人は完全に百目鬼の下位互換。結論・百目鬼一人による相手が最適となったのである。

 まあ、表面上の特別講師というのはあくまでもこの学校に堂々と入り込むための

「仮の目的」でしかない。本当の目的は、この学校の何処かに潜んでいるという残留思念だ。


――しかし、残留思念となると結構発見が難しいんですよね


 ひかりさんに連れ去られた後に戻って来た陸前から聞いた話だ。


――何せ、普段戦ってるヒトガタ相手ってことですからね、感情そのものでなく、焼き付いた感情の影を追いかけるようなものですから。存在そのものが虚ろで不確かで不定形。それが残留思念です。そもそも怨霊と違って、明確な悪さをすることは少ないんです。それというのも存在が微弱なので出来ることの幅がかなり小さいんですよ。怨霊がポルターガイスト現象を引き起こせるとしたら、残留思念の悪さなんてカーテンを揺らすくらいのことですから。その存在の弱さといったら、そもそも本人の顔とは違うこともザラですし、当時の行動を延々繰り返すのが主な行動です。場所に縛られてるから、一定以上思い入れの強いとこを離れると、強制送還されるっていうおまけつきですし、恐ろしく自分が弱い意志薄弱共なんですよ。


 そしてそんなのどうやって見つけるのかと訊くと、陸前は無表情を極めた虚表情とでも言うべき顔でこう言うのだ。


――それはまあ、相手が相手というか、まあ。行けば何となく分かると思います。とにかく兼代君がキーです。兼代君にしか、多分見つけられない相手ですから。


 何で? と訊くと、一向に教えてはくれなかった。はぐらかしにはぐらかしを重ねて、しまいには涙目になってしまったので問いただすのは中断した。


「はい! じゃあ、後はお任せを! バッチリやり遂げてみせます!」


 俺にしか見つけられない残留思念。この一等級の神器を持っていることと何か関係があるのだろうか。そもそも何で、カーテンを揺らすくらいしか出来ない残留思念なんてものを討伐しろと?

 ふと見た陸前と、目が合った。

 驚いたことに、そこには表情があった。

 唇をいつもより固く引き結んでいて、何かを決意しているかのような、強固な表情。

 いったい百目鬼 月日星さんに、何を聞かされたんだろうか?

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