第58話
「何でボクが週に7日しかない貴重な休日を使って君達に会いに来たのか、分かるかな?」
「うわ、マジでダメ大人だったこの人! 若者が見ちゃいけない類の人だ!」
「株で儲けてるの。あとは趣味のカフェ」
「これが噂のネオニートというものですか……これが私の理想像……ごくり……」
「君も大概ダメな思考してそうだね」
変な所ではまともな感性持ってるな、この人は。
「んでね。ボクはちょっと君達と、ビジネスの話をしに来たのさ」
「ビジネス?」
「そ。ほんのちょっとだけ大人な話をさせてもらう。こと、陸前家にはわりかし重要な話だから、ちょっとだけ耳をかっぽじってくれると、君にとっては有益だと思う」
月日星さんはぎょろっと、陸前に注視する。
「実はボクらの家は、ちょっと陸前家から協力を仰がれててね。魔念人のアジトを突き止めることを依頼されてたのさ」
「私の家から協力……?」
「え……それって、まさか?」
聞いたことがある記憶が呼び起こされる。陸前の父親が言っていた、「政府へのアドバイザー」に協力を仰ぐと言う話。
点と点が結ばれて、体に寒気が走った。
「すいません、月日星さん。もしかして、月日星さんの一族って――」
「ん? ああ、知ってた? そうだよ、ボクらの家系は代々、日本政府へのアドバイザーをやってるよ。まあ今は母さんがやってるからボクはよく知らないけど」
「え、政府のですか? 凄すぎませんかそれ」
「まさか百目鬼が……」
百目鬼がそんな裏社会の話の登場人物だったとは。さらりと明かされた真実は、小さくない衝撃を俺に与える。
「ま、それはどーでもいいんだ。そんでもって、母さんは忙しいからってボクに依頼を回されてね。国が絡んだヤマだったからサボるわけにもいかなくて、渋々引き受けたのさ。そして、突き止めることに成功したんだ」
「突き止めたんですか!? 魔念人のアジト!」
「うん。ちょちょいと突き止められたよ」
ちょちょいなんだな、この人にとっては。
しかし、これは純粋にグッドニュースだ。今までは迎え撃つだけだった魔念人達のアジトに殴りこむことが出来れば、一気に戦いを終わらせることが出来る。
それだけの戦力が無くとも、アジトの場所を知っているというだけで大分戦局は違うはずだ。
「で、だ。こっから重要だ。この仕事は、金銭や品物なんかで取引をしないという条件で引き受けた。仕事は仕事で取引をするという契約にした」
「仕事は仕事……つまり、何かをしてもらう代わりに何かをするということですか?」
「うん。そういうこと。そして仕事をしてもらうっていうのが」
にゅるにゅるした気持ちの悪い動きで指さしたのは、「俺」。兼代 鉄矢だった。
「君だ。君に一つ仕事を依頼する。それを達成したら、君らにこの情報を渡そう」
「兼代君にですか? 私の家の依頼じゃないですか、それってちょっと変ですよ?」
「ボクは元々変だよ。それに君も協力はしてもらうからOK。メインが兼代君ってだけだ。大丈夫大丈夫、アブナイ仕事ではないから。かなーり敵はザコいし、すぐに終わるような仕事だよ」
敵? つまり何かを倒して欲しいという依頼なのだろうか?
「魔念人の構成要素は、陸前ちゃんがよく分かってると思う。怨霊と、残留思念だ。そしてそれは放っておくと悪さをする。だったね? 陸前ちゃん?」
「はい、その通りです」
「だから討伐か封印をしなきゃいけない。でも、陸前家だって何人もいるわけじゃない。日本全域のそれを封印することなんて不可能だし、今も生まれいずるもの。だからまだ漂っている奴がいるのも不自然じゃない。そうだね?」
「はい。基本、情報が入ったら現地に向かって封印しますから、認知されていないものや「それ」だと理解されないものはそのままですね」
「そうだそうだ。そしてボクは一つ残留思念の存在を知ることになってね。順当に、君に依頼したいんだよ。それの封印を」
異世界の眼が俺に向く。何度見ても、不気味な瞳だ。
「そしてそれの場所っていうのがねえ」
ぬるぬる、を一段階キモくした、むしろずるずるとした動きで俺を上目づかいで見た。だらんと両腕を垂らして急に猫背になり、今にもゴキブリのような急加速で動き出しそうな体勢だ。
「少し訳ありなんだ。だからさ、まずは陸前ちゃんだけに教えたい。いいかな?」
「? 何で陸前だk……」
ゴキブリのような急加速が、陸前に襲い掛かった。
「うわ」
「り、陸前んん!?」
スーパーボウルのタックルにも匹敵するであろう、月日星さんの猛烈で俊敏なタックルは、陸前の体を容易く押し切った。そして倒れる前に肩に担ぎあげ、ガサガサガサガサと大変にキモイ動きで路地裏に消える。
「くっ! あの変人、何なんだ!」
俺もすぐに追いかけようとした。
しかし、
「待てよ、カネシロ」
後ろ髪をひかれる(物理)を喰らった。
思いっきり動こうとしていた俺は、毛根に大ダメージを受ける。
「い……いてええええええ!? な、何だ、誰……!」
振り返った先には、
「誰とは失礼だな。年上のくせにみっともない」
マジで誰? な子が腕ぐみして立っていた。いかにも不機嫌そうな中学生で、眉間にしわが寄っているほどだ。折角可愛らしいのにその表情と、沼のように真っ暗な瞳が全てを台無しにしてしまっている。
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