第15話

「普通の武器じゃあダメなのか? あいつらに」

「はい。彼らはあくまでも、霊体ですからね。魂を持たない武器類では、決して触れることが出来ないのですよ。対抗するには、現世と幽世の狭間の物質……半物質とでも言うべき素材で出来た「神器」が必要なんです」

「その半物質ってのは量産とか出来ないのか?」

「何でも、現世の物質を幽世の世界に持ち込んでまた戻すことで出来るらしいです。作ってくれますか?」

「いや、遠慮しとく」


 というよりどうやって作ったんだ、そんなドファンタジーな物体。製法もどうやって知りえたのか謎だ。


「更にこの神器は、初代の封者……ああ、私の祖先の、魔念人を封印する人なんですけど、その人が幽世のモノ絶対封じるマンだったらしくて。幽世の者にダメージを与えると、その場で狭間の世界に閉じ込めてしまう能力を持たせたらしいんです。まあ、つまりダメージ与えた時点で封印しちゃうんです」

「強くないかそれ?」

「戦争とは大抵、大差のうえで行われる一方的な蹂躙じゃないですか?」


 闇が深い眼をしていた。こわい。


「ですが一つ問題がありましてね。この神器、普通の人には能力を引き出せないんですよね」


 と、頭から「剣」の形をした神器を外す。


「力を発揮するには、神器に認められなきゃいけないんですよ。そして神器に認められる条件というものが、ちょっとかなり特殊なものでして。なかなか私の家系以外の者で使用者が表れなかったみたいです」

「特殊な条件……ってなんだ?」

「初代封者と体質が似ている人じゃないと、ダメなんです」


 何だか嫌な予感がビンビンしてきた。


「それってつまり」

「はい」

「うん」

「それはそういうことですね」

「ごめん、俺帰っていい?」

「ダメです」


 駄目なのか、畜生。こんなバカバカしい神器の話なのに。


「まあ、落ち着いて聞いて下さい。これにもちゃんと理由があるんですよ。魔念人を相手にするには、まず最初にですね? 「催していないといけない」という条件があるんです」

「ちょっと待て、何だその最重要項目!? 何で催してることが前提なんだよ!」

「そもそも彼らは多くの場合、催している人の前に姿を現します。だから封印できる人が多くエンカウント出来た方がいいというのは自然な流れでは?」


 あいつらはあいつらで哀しい習性に生きてるな、ホントに。


「それにですね。雑魚の木っ端共でしたらそのまんま倒せたりするんですが、主霊は自分の霊の部分を他の霊魂で覆っているんですよ。しかも神器って一回の攻撃で一体分しか封印出来ないんです」

「ザコいな」

「手首の関節が壊れてますよ。これほど見事な掌返しはお目にかかる機会が少ないですね。ですがたった一つだけ、彼らが主霊の本体をむき出さなければいけない機会があるのです」

「……もしかしてそれが」

「はい。「捕食時」です。直接、生成されたばかりの思念を吸収して、彼らはより強さを増していくのです」


 まあ、つまり、うん。

 ベルリンの壁崩壊後の話か。


「つまり俺に社会的に死ねと言ってるのか?」

「まあまあ、待って下さい。いくら人の業100連発させることを生業としている彼らでも、本当に人の業が出てしまったのかまでは感じ取れません。だからこそ、多くの場合はその前に主霊を解放しています」

「つまり……その間にそれを突いて撃破しろと?」

「そういうわけです」

「お腹がパンデミックのカタストロフなのに?」

「だからこそ、神器は選ぶのですよ。お腹が弱いだけではなく、それでもなお屈しない精神力と一部の筋力が強い人を。貴方にはその素質があると見ました」


 俺は思わず肘を突いて頭を抱えた。

 自分がこれから向かおうとしている戦い――覚悟はあった。しかしまさかこれほどに過酷な運命が待っていようとは、一体誰が想像出来ようか。


「だからこそ。私は貴方に、共に戦って欲しいのです。あの者達を再び封印するために」

「……」


 だが。どんなことが待っていようとも。


「ああ……予想以上に過酷だけど……」


 意志は決して変わらない。

 全ては、人に約束されるべき最低限度の清潔と、名誉と、安寧のために。


「その神器、俺に預けてくれるか?」

「あ、手は洗いました? そういえば」

「洗ったよ! 石鹸でゴシゴシ水でジャバジャバ! 何でこのタイミングで嫌悪する!」

「前二回のお返しです。ざまあですね」


 俺は、この神器を受け取ろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る