第14話
「まず最初に、インフェルノマーダー達が何なのかについてお話するのが最初ですね」
「ああ。一体何なんだあいつらは?」
あの巨躯、あの力。そして結界を張るなどの特殊能力。クセモノであることは間違いない。
一体どんな恐ろしい存在なのか?
「平たく言いますと。トイレに間に合わなかった人達の、怨念と怨霊の結晶です」
「……」
「あ、突っ込みは最後に纏めて下さいね。多分きりが無いです」
先手を打たれた。ちくしょう。
「構成する要素は二つありましてね。一つは、この世にトイレ絡みの強い恨みを残して死んでいった人間の怨霊で、これが大多数を占めています」
「なんか同情してきたぞ俺は」
「敵に同情は不要です」
ここに来て結構な鬼畜発言だ。
「そしてもう一つは、少数なんですが、残留思念のようなものですね。トイレに間に合わなかった時の、強烈な感情の発露。大いなる意識の混乱。それらは、まるで焼き鏝のようにその場に「魂の痕跡」を……残留思念を残します。それらの集合体こそが、「魔念人」なのです」
「な……ななな、なるほどな」
なるほど、何もおかしくはないな。
しかし、これでジョグが自分を「我ら」と言っていた理由も納得できる。あいつは一であり多数、多数であり一、というわけか。
「でも、何か変じゃないか? 何で一か所に集まるんだよ。その場に留まるんじゃないのか?」
「集まるのではないんですよ。集めたんです。彼らは「集めなければいけない」のです」
「集めなければ?」
「はい。発生した怨霊や残留思念は、時間経過と共に風化していきますが……その間、悪さをするケースがあるのです。そしてその悪さというのが、誰かがトイレに行くことを阻む。自分と同じ目に遭わせるというものなのですよ」
「自分と同じ目に……何でそんなことを!?」
「考えてみてください。トイレ絡みの恨みを持った人間の怨霊と、間に合わなかった直後の残留思念なのですよ?」
「あ……」
「世界を、強く呪っています。己が穢れているという事実を薄めるために、未練がましくこの世に残り続け、世界を同程度に穢し続ける。それこそが、怨霊達の本能的な目的なのですよ」
そうか。それこそが奴らの目的。
限りの無いはた迷惑である。
「だからこそ、日本中に散らばる彼らを集め、風化するまで一か所に封印しておく必要があるのです。……そして、その封印場所を管理する一族こそが、私の家系なのです」
「なるほどな……それがジョグなのか」
「正確に言いますと、違いますね。「ジョグ」という個体は、現在の「主霊」……他の霊達を束ねることが出来るほどの強烈な怨霊の一つです。大量の砂鉄を集めている大きな磁石だと考えていただければ大体合ってます。まあ、集めておいていた場所のボスがジョグであったと考えて下さい」
一気にスケールダウンするような喩えだったが、まあ分かりやすい。
「全国放送もあったみたいだが、その時の奴はジョグじゃなかったみたいだぞ。複数いるのか? 魔念人って」
「そうですね。集合場所である塚は複数あるので、その分魔念人が存在します。いつもならば一人二人単位でしか同時に復活はしなかったのですが……今回は事情が違かったんです。五人同時に目覚めてしまったんです」
「五人?」
多いのか少ないのかは分からないが、陸前の口調の重々しさから何となく察せる。
「はい。それだけに、今回は脱走を許してしまったのです。ぶっちゃけ、相当な失態です。何とか陸前家のネットワークを駆使して彼らを捜索したのですが、彼らは見つかることなく潜伏し続けて……そして昨日に至ったのです」
「ああ、なるほど。で、その潜伏期間の間に俺に話をしようとしたんだな? いざという時に戦えるように」
「そゆことです」
「つまり、うん。めちゃくちゃ言いにくかったんだな? 日本の危機なのに? 大体陸前の家の失態なのに?」
カタカタカタカタカタカタ。ガガガガガガガガガガガ!
「~~~~~~~!」
「あ、す、すまん! お前が反省しているのはよくわかった!」
「い、いい、一応、これでも頑張ろうとはしたんですよ? きょ、今日だって、本当は朝に切り出すつもりだったんですよ。何せ、移動中の魔念人が目撃されたって話だったので、いい加減にしなきゃなって。その覚悟にどれだけの時間がかかったと思ってるんです? 鬱になる一歩手前でしたが?」
「わ、分かった分かった! な! 落ち着け!」
まあ、終わったことを責めても仕方ない。これ以上責任の追及はやめることにしよう。問題は、これからなのだから。
「でもここまでで、何となく話が見えてきたな……。もしかして、魔念人の封印ってのに使ってるのが、神器って奴なのか?」
陸前も数秒間で繕って、いつもの完全な無表情に戻った。回復力はつくづく高いらしい。
「はい。鎖であり楔であり、剣でもある。それこそが、魔念人に対する唯一の対抗手段・「神器」です」
そう言って、陸前は自分の髪留め――金色に輝く「弓」と「剣」を指さす。
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