第8話

「我が名は、ジョグ・インフェルノマーダー! そして我らはある目的により、貴様らをここまで連行したものであーーーーる! 言うまでもないが、抵抗など考えるな! 何もしなければ手出しはせぬが、抵抗すれば相応の対応をさせてもらおう!」

「生け捕り……ってことかな。すると何かの実験目的っていうのがオーソドックスなとこだけど」


 百目鬼はこの状況でも推察を進めているようだ。胆力までもが人並以上の百目鬼、さすが超絶完璧人間だ。


「更に! 外に助けなど期待するな! 今は電波妨害を兼ねた結界を張っている! 如何なる者もこの敷地には入ることとは出来―――ぬ! よくよく頭に叩き込んでおけーーーーーい!」

 ざわざわ、と学校側の騒ぎが大きくなる。さっき百目鬼が言っていた、何かしらのジャミングというものの正体か。


 外への助けを求められない。外へと脱出することが出来ない。戦力差は文字通りに絶望的。現実を突きつけられたこっち側は、じわじわと絶望が伝搬していっているかのようだ。

 しかし俺に限って言えば、最早そんなことすらどうでもいい。

 とにかくトイレに行きたい。

 その一点だけだ。

 何かに俺達を詰め込んでどっかに連れて行くとしても、その中にトイレがあればオールオッケー、と考えるくらいには、今の俺の状態はマズい。このままでは俺のパンツを、誰もが恐れる暗黒大帝に闇堕ちさせてしまう。


「お……お前ら! い、いい、一体、何が目的なんだあ!?」


 こっち側から、たまらず発声する人が表れた。

 すると、ジョグは声がした方向に体を向けて、ぐふふと下卑た笑い声を出す。

 声出した奴、誰だよ。さっさと連行されようぜ。ここにギリギリの奴がいるんだぞ。


「恐ろしいことだ。それはそれは、如何なる苦痛の中でも比類なき苦痛と屈辱……。それを貴様らに味わわせるのだ」

「な……!」

「苦痛の中でも……!?」


 うっせえなデカブツ。こちとらその苦痛と屈辱の最中にいるんだぞオイ。

 そしてこっち側、いちいち泣いて喚くんじゃねえ。お前らより遥かに泣きわめきたい奴がここにいるんだぞ。泣きわめく余裕すらないんだぜ俺は。


「だ、大丈夫かい、そんな真っ青な顔をして! 希望を捨てるんじゃないよ、絶望に呑まれないで!」

「知ってるか百目鬼。絶望するっていうのは贅沢なことなんだぜ」

「あ、そうか……そうだったね」


 全ての感情に優先する。それこそがこの絶対的なまでの危機だ。


「よかろう! ならば、聞けーーーーーい! 我らの目的を、この場で教えてやろう! 『選別』はその後に行わせてもらう!」


 遂に、この襲撃の目的が明かされるのか。ほぼどうでもいいけど。

 そんなことよりも早くトイレに行きたい。行かせろ。行かせて下さいお願いします。

 俺の脳内は既にそのことでいっぱいだ。選別とかいうニューワードが出たがそれはそれ。早く、早く、早く、早くしてくれ。

 静まり返るこっち側。

 得意げな顔をしてそれを見回すジョグ。

 そして口を開き、遂に明かされる、その目的は――


「我らの目的は、貴様らを……!」


 俺の頭で考え得る、最悪で最低な目的。

 それを数段階は飛び越すくらいの――ぶっちぎりで最恐のものであった。





「トイレに間に合わせないことなのだああああああああああああああああああああああ!」

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