第12話「後悔」
そうして自宅に帰りついた頃には、すでに陽は落ちあたりは暗くなっていた。
街で見かけた尾崎先輩の姿が目に焼きつき、離れてくれない。
わたしは頭を冷やそうと思い、バスタオルと着替えを抱え、バスルームへと向かう。
シャワーのコックを捻ればたちまち水が上から降り注ぐ。
「冷たっ」
思わず声を上げると、それは狭いバスルームに反響し、自分の耳へと戻ってきた。
ゆっくりと水が湯に変わるのを離れて待つ。
そしてようやく湯に変わったところで、わたしはシャワーの下へと潜り込んだ。
頭の上から勢いよく湯を流し、それを被る。
髪を伝い顔を伝い、湯が落ちていく。目は閉じたままだ。
数分、そのままでいたわたしは、コックを逆に捻り湯を止めた。
顔を手で拭い、バスタオルで身体を拭く。
置いておいた着替えに手を通し、部屋着姿になったわたしはキッチンへと向かった。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、フタを開ける。
ここらの水道水は少々苦く、わたしの口には合わない。そのため、こうしてミネラルウォーターを買い置きしている。
ごくごくと音を立ててミネラルウォーターを喉に通すと、半分くらいを残しフタをした。
それを机の上に置くと、わたしはベッドへとダイブする。
顔を枕に埋め込み、唸り声をあげた。
頭を冷やしたはずなのに尾崎先輩の姿がフラッシュバックする。
「何でよ、何なのよ……」
わたしの唇から思わず愚痴のような言葉が零れた。
これはきっと、まだ尾崎先輩のことが吹っ切れていないからだ。
直感でそう思った。
蓮香さんに聞かれた時もはっきりとは言わなかったものの、まだ先輩のことが気になっていたのだ。
今のわたしはきっと後悔しているのだ。
あの時、部活動に行かなくなったことを。尾崎先輩から逃げ続けたことを。
だから、わたしは尾崎先輩のことが吹っ切れない限り、新しい恋ができないのだ。
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