第10話「トラウマ」
わたしは歯切れ悪く告げた。
何故ならその気持ちに確信が持てなかったから。
「いつまでも引きずっていないで、新しい恋でも始めたらどうなのかしら?」
前向きに考える蓮香さんらしい返しが返ってきた。
その手にはカップがあり、言葉を発したあと、それは唇へと引き寄せられていく。
喉が微かに揺れるとカップが離れ、ソーサーへと戻っていく。
「わ、わたしは別に」
「別に、なぁに?」
言い返そうとした矢先、彼女に言葉を遮られ、その後に続けるはずだった言葉が失われた。
「何よ。早く言っておしまいなさい。うずうずするじゃないの」
蓮香さんは頬を膨らませ、急かすように告げる。
わたしは渋々、口を開くことにした。
「別に、気にしていないわけじゃない。ただ、怖いの。先輩に冷たくされたみたいに、好きになった人に嫌われるのが。……トラウマ? みたいなもの」
わたしは言い切ってしまうと、カップを手に取り唇に寄せると大きく傾けた。
その様子に蓮香さんは眉尻を下げて小さく口角を上げた。
「それなら、しかたないわね。無理強いをしてしまったみたいでごめんなさいね」
「いいんです、気にしないで」
すかさず笑みを浮かべるとわたしに視線を向けたまま、蓮香さんは紅茶を口に含んだ。
「また、何か発展したらすぐに教えてちょうだいね。話が聞けるのを待ってるから」
「うっ……わかった」
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