第9話「気になる人」
蓮香さんに連れられて訪れたカフェは、大通りに面したお洒落なところだった。
木の香りがする落ち着いた空間。ランプはステンドクラスの傘を被り、淡いオレンジ色の光を放つ。
どこからかコーヒーの香りが漂い、わたしの鼻をくすぐる。
「最近見つけたお店なのだけれど、入ってみたらとても素敵でね。あなたを連れてきたいと思ったのよ」
木目の浮かぶ白みがかったテーブルを挟む形で座ったわたしたち。
向かい側に腰かける蓮香さんが優しく微笑みながら嬉しそうに語る。
その度に顔の横へと流した三つ編みの髪が揺れている。
そうしているうちに紅茶が二つ、運ばれてきた。
目の前に置かれた白いティーカップには真紅の液体が注がれていた。
立ち上る湯気からは甘酸っぱい香りが爽やかに香ってくる。
わたしはカップを手に取り、唇を寄せた。
「おいしい……!」
「でしょう? わたしがあなたに進めるんだもの。おいしいに決まってるわ」
わたしの思わず零れた言葉に蓮香さんは嬉しそうに声を跳ねさせる。
「最近はどう? そろそろ誰か気になる人でもできたかしら?」
彼女は小首を傾げて尋ねてきた。
目を見て尋ねてくる彼女の瞳にとらわれて、わたしは思わず顔を引きつらせた。
「あら?」
思っていた反応と違ったのか、蓮香さんは不思議そうに声を上げる。
「もしかして、まだ……引きずっていたりする?」
申し訳なさそうに、控えめに問う。
しん、とその場の空気が冷えた気がした。
「そう、かもしれない……です」
絞り出すかのように告げた言葉にわたしは持っていたカップをソーサーの上へと戻した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます