第5話「素っ気ない態度」




「鴻上さん、さっきは助かったよ」



部活動が終わり帰路につこうとした時、背後から佐藤先輩の声が追ってきた。


振り返れば微笑みを浮かべる佐藤先輩がいて、その後ろを尾崎先輩が歩いてきていた。



「いえ、お役に立てて何よりです」



同じようにわたしも微笑むと、佐藤先輩が後ろにいた尾崎先輩に声をかける。


「さっきの。教えてくれたんだよ」


耳打ちするように告げる。

佐藤先輩に向けていた視線を言葉の後でわたしに向ける。


久しぶりに向き合った気がした。


けれど彼は「どうも」と告げるだけで他には何も言わず、わたしの横を通り過ぎていった。



わたしは尾崎先輩を視線で追うことすらできなかった。


とても素っ気ない態度をとられたような気がして、思わず身体が強ばった。



「あっちゃー、尾崎がごめんね」


項垂れた頭を支え、視線だけをこちらに向けると佐藤先輩は申し訳なさそうに謝罪する。



「あ、いえ。構わないです」



苦笑しながら答えるわたしは全然平気ではなかった。

けれど先輩にそれを悟られまいと、わたしは「帰りましょう!」と明るく言い放つのだった。






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