第3話「交わさない言葉」






あれから1週間ほど経った。


わたしは変わらず、授業後に体育館へと向かう。


「鴻上さん、いらっしゃい」


今日は部活動の人よりも早く来てしまっただろうかと思った時、突然体育館から佐藤先輩が顔を出した。


そしてわたしの後ろへと視線をやると小さく口角を上げた。


「尾崎、珍しいじゃん。お前が早く来るなんて」


わたしの後ろに立っているのであろう人物に話しかけた。


後ろを振り返りながらその人物に道を譲るべく横にずれる。

ふと顔を上げて見てみるとそれはあの先輩だった。



「あっ」



思わず声が漏れる。

背後で佐藤先輩が笑いを堪えているような気配を感じる。


見上げたわたしは言葉を失った。

なんと言えばいいのか、全く頭が働いてくれずわからない。



「珍しくもないだろ。いつもこんくらいだよ」



彼はわたしに構わず佐藤先輩の言葉に言い返した。

体育館の中へと進んでいった彼ーー尾崎先輩は持っていたタオルとスポーツドリンクを隅へと置くとストレッチを始めた。



「ふたりって話したことあるの?」


唐突に佐藤先輩が訪ねてきてわたしは咄嗟に口を開いた。


「一度だけ。部活紹介の貼り紙の前で」



ふーん。と鼻にかけたような声で相槌を打つと、佐藤先輩は「そっか」と言い残し練習へと向かった。




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