第2話「授業後の秘密」






「ないしゅーっ!」


ゴールにボールが入れば所々からそんな声が上がった。

聞きなれた言葉だ。


わたしも小学校の頃、二年間ほどバスケをしていた。部活動に入っていたから。

ただ、六年生の時は書類を提出し損ねて部活動には参加しなかった。


元々身体を動かすこと自体は好きで、スポーツも好きだった。

だから本当は部活動も運動部に入ろうと思っていた。


けれど先輩と出会って、わたしは少なからず彼に影響されたらしい。

今こうして体育館の入口から隠れて試合を見ているのはそのせいだろう。

部活動には結局入らなかった。代わりにこうしてバスケ部の様子を見にくる毎日だ。


試合は見てて飽きないから、そこは利点だった。元々やっていたスポーツというのも苦にならない要因だろう。



「鴻上さん、また来たんだね」


不意に後ろから声をかけられ思わず振り返る。

タレ目ぎみの、肌の白い男。バスケ部の二年生で次期キャプテンの佐藤先輩だった。


「佐藤先輩……びっくりさせないでください。大声出ちゃうじゃないですか」


わたしが少し不貞腐れたように言うと佐藤先輩は「ごめんね」と、下がっている目尻をさらに下げた。


「また見にきてるんだなぁって。ウチに誰か気になる人でもいるの?」


「あっ、いえ。そういうわけじゃ。ただ、試合を見るのが楽しくて」


図星をさされて一瞬戸惑った。

けれど本心を知られるのが嫌で、わたしは無理矢理笑って見せた。


佐藤先輩は「ふーん」とそれだけしか言わなかったけれど、何かを察したかのような表情を浮かべている。


「そういえば、先輩は部活に参加しなくていいんですか?」


「あっ、しまった。忘れてた」


佐藤先輩はわたしの一言で思い出したかのように言葉を零すと慌てて体育館の中へと駆けていった。


その背中を見て、思わず笑みが零れる。

また一人になったわたしは試合観戦を再開させた。





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