第39話「昇進」

 アリアが勤務外の時間、買い物しようと艦橋第五商店街を歩いていると、仕事帰りらしいアンブローズ隊長と遭遇した。開口一番彼は重要な話がある、と言った。


「なんですか、タイムセールあるので早くして欲しいのだけれど」


「あせるな、めでたいニュースだ、デイ。昇進についての話だ」


「それは確かにめでたいわね、これといって活躍した記憶もないけれど、正直あまり関心はないわ」


「活躍とか関係なく、時期が来たということだ。お前が上級観測兵になれば、うちの隊も信頼度、戦力両方の面で高まるだろ」


「え、私? ああ、てっきり隊長が昇進してよそへ行くのかと。それで、その上級になるとどうなるのかしら?」


 アンブローズ隊長は上級観測兵になれば給料も上がるし、今まで手を出してはいけなかったヤバいファントムも倒せるので誰にとってもいいことばかりだと述べる。

 昇進の条件として、まず勤続半年以上というものがあり、このたびそれを満たしたのでこうして昇進の話が出たそうだ。


「次に重要な条件としては、因縁のある強大なファントムが必要だ。お前の場合あれでいいだろう」


 隊長は二つ目の太陽、パーヘリオンを指差す。


「あれがどう関係しているのよ」


「デイ、例えばの話だがチェスをしている最中にその場に隕石が落下してきたらどうなる?」


「どうなるって、死ぬんじゃないの」


「チェスの結果はどうなる?」


「結果もなにもチェスどころじゃないでしょう、無効よ」


「そのとおりだ。逆に言うと、好きなときに隕石を落下させられる者は決してチェスで負けることはないと言えなくもないのではないか?」


「は?」


「上級観測兵は〈切断因子〉と指定されたファントムを持つ。例えばお前がものすごく強大なファントムと戦っているところにパーヘリオンが突如として闖入し、戦いを無効化する。そのままパーヘリオンが最大限の破壊をもたらす。そして果たしてアリア・デイはパーヘリオンに勝てるのか? その命は? といったところで世界が切断され、最初に戦っていたファントムは永続的に虚空へ追放される」


「パーヘリオンはどうなるの?」


「そんなことはどうでもいいだろう。さて、お前が上級になると今言えばなれるがどうする?」


 アリアはこの不毛な話を早く終わらせて立ち去りたかったので「じゃあ、なるわ」となげやりに言った。


「よし、ではこの時よりお前は上級観測兵だ。おめでとう、もう〈切断〉が使えるはずだ」


「何がなんだかわからないけれど、じゃあこれでお給金のほうもよくなるのね?」


「もちろんだ。さらに今後――」と隊長が言いかけたところで突如、パーヘリオンがとてつもない光を放ち、ウェスタンゼルスじゅうが白く染まった。


 こんなことは初めてだ。魂魄が最大限の警報を鳴らしている。パーヘリオンの異常活性? いったい何が原因? このままだとウェスタンゼルス、いや世界全体が――という思考すら白く染まり、アリアは意識を失った。

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