第36話「労働実験」

 それからしばらく太陽が存在せず、パーヘリオンだけがぼんやりと淡い光を放ち続けている夜が続いた。

 定期的に太陽光を当て続けないと狂うファントムに憑かれた人が千人以上いたらしく、彼らは街で暴動を起こし、ほどなくして鎮圧された。


 ファントム調査隊が新人ジャネット・ニューマンに興味を示し、さまざまな仕事を、嫌がる彼女に割り当てた。


 伝令、使い走りのような仕事をさせた場合、ほぼ毎回太陽が消滅し、既にない場合最も近い電灯が破裂することなった。


 指定したファントムの駆除をさせた場合、ウェスタンゼルスのどこかに武装した巨人型ファントム(〈ニューマンズバディ〉と命名された)が出現し暴れた。こいつは身長七メートル半、左手に巨大なライフル型観測銃、右手に槍型の潮の刃を持ち、未知の金属でできた全身鎧で覆われ非常に頑強である。あるとき、ジャンのすぐ近くに出現したのだが、ネズミ型ファントム相手に苦戦している彼女には興味を示さず街を破壊することに専念し、まったくジャンの助けにはならないことが判明した。


 特定のファントムに関する調査を任せる。資料室で書類のコピーを取って来ただけで、ラプタニア帝国バルニブルグ東部に直径五キロの大穴が現れ、その深さは不明。死亡者、負傷者多数。いつもながら軍は帝国の詰問に対して知らぬ存ぜぬを通した。


 武器の手入れ(潮の刃を水溜りとかドブに突っ込んでさらに汚す)。謎の光の球が都市上空に出現、目撃者が全員ミイラ化して風化する。


 近隣地区のトルメンタ波動値の解析。近くの書店に〈死者の書:大学編〉というタイトルのハードカバーが出現。内容は異能を持った主人公が学生生活を送りつつ、秘密裏にヒロインとともに魔物の討伐を行うというもの、とてもつまらないので一冊も売れず。


 ジャネット本人がこの辺りで怒りだしたために調査は中断、その後アンブローズ隊長が飲み会に無理やりつき合わせ、これも仕事の一部みたいなもんだから、と発言したためか、共和国人口の二十パーセントが突然死。


 いずれにしろ、甚大な被害が発生することがほぼ確定したので、ジャネットにはとりあえず人手が足りてるなら仕事を任せてはいけない、という努力義務が制定された。ひたすら何もせずにそこらをぶらつき、給料だけは支給されている。もちろん給金ではなく寄付という名目で。ジャネット・ニューマンは兵士ではなく軍に扶養される者となった。

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