第27話「相棒」
アリアの自宅に午前五時、謎の女兵士ドリス・ハイネマンがやって来た。これまで様々な事業を計画し頓挫し続けていたが、結局観測兵を継続することに決めたらしい。彼女は朝っぱらから英雄的な任務に赴こうと誘うが、アリアは寝ていたので不快感を露にする。ドリスはこれまでにアリアと自分が成し遂げた栄光ある業績について熱く語るが、そのすべてに覚えがなかった。
「結局あなたは何なの? そういう妄想があるの? それとも何かのファントムのせいなの? どちらにしてもひどい話だわ」
「何を言うのだアリア。わたしは君の名前にRが増える前からともに働いてきた仲じゃあないか」
「私はずっとこの名前だけれど」
「いいや、君はかつての偉大なる戦いで魂魄に致命的な傷を負い、それは回復したが名前がARIAからARRIAに変更されたという経歴を持っているではないか。あの叙情的な戦闘によって我らは強き絆で結ばれたのだ」
「結ばれてないわよ」
そのときアリアは思いついて、シェリル・オズワルドを知っているかとドリスに尋ねた。
「もちろん知っているさ。シェリルと私は同期でね。我らの初陣では〈ガルガンチュア〉七体を仕留め、アンブローズ隊長より国宝級の財宝をたらふく授かったものだ」
「それが本当なら、本人に確かめてみたいのだけど?」
「構わないとも。シェリルとも久々に会うからな。積もる話もある」
そうしてシェリルの自宅へ向かいノックすると、早朝にも関わらず彼女は起きていた。部屋の中は相変わらずごちゃごちゃしていて、銃器がそのまま何挺も投げ出してあった。近くギャングの抗争か何かでもあるのではないかとアリアは顔をしかめた。
「そんでアリア、そっちの人は誰だい」
「この人は――」
「久しぶりだな、シェリル! 我が最初の同胞よ」と、いきなり抱擁するドリス。「あの混沌街の戦いを覚えているか? あそこは絶望的な死と輝ける生の同居する戦場だった。君がガルガンチュアの心臓を貫いたとき、世界は新たなる夜明けを迎えたのだ。今日はかつての誉れある戦果について語り明かそうではないか」
「何だって? あんたは誰? 同業らしいけどあんたと会うのはこれが初めてだよな?」
「何を言うんだシェリル、我らは前世より強き絆で結ばれた姉妹も同然……」
「二人の仲を邪魔しちゃ悪いので私はこれで」
そう言ってアリアは部屋を出た。ひとまず今日のところはドリスをシェリルに押し付けることに成功したし、今後もこの作戦でいこう。
どうやらドリス・ハイネマンは、あらゆる観測兵とともに戦い、絆で結ばれた思い出を持っているようだ。
ならば、生け贄として押し付ける相手に困ることはないだろう。
翌日シェリルに会うと、やたらとくたびれた顔をしていた。
「やってくれたじゃないかアリア、あの女マジで何なんだよ」
「先輩の旧友」
「わかってるくせに。あいつと会ったことなんかないよ。疲れる体験したけどいくつか分かったことがある。あいつの思い出は妄想じゃなくマジなもので、あたしじゃないシェリル・オズワルドとともに過ごした時期が実際にあるっぽいね、あたしが前に体験したことがやつの記憶に断片的にだが練りこまれている。あるいはこっちの記憶を読んでそいつをもとにしてるか。いずれにしてもこっちから『挟み込む』こともできる。普段ファントム相手にしてんのとおんなじだよ。
例えば、あたしが過去にやばい強敵と戦った際にやつがかばって代わりに腕に傷を受けた、とこっちが言ったら、あいつはそんなこともあったな、と肯定してその傷を見せた。今しがた書き込まれた古傷だよ。
それを利用すればやつを抹消することなど容易い。あたしは昨日飽きたんで、やつを射殺しようかと思ったけどもっとイージーな解決法を思いついた。ドロモンド大通りにいたパット・モーって野郎を覚えてるか? あの災厄の主だよ。三ヶ月前にやつは周囲六キロをすべて消し飛ばして、そのすべてが未だにサルベージ不可能な状況で観測兵ですら誰も復活していない。そこであたしはドリスに対して、お前はパット・モーの相棒だったよな? 固い絆で結ばれてんだよな? と聞いた。するとやつは待ってましたとばかりに、その通りだ、栄光ある戦いがなんとかかんとか、とまた始めやがったので、あたしは三ヶ月前のあの日も一緒にいたんだよな? とダメ押しした。あの災厄の日だよ、と。やつは頷くと同時に消えた。うるさいやつがいなくなって嬉しいだろ、あんたも」
アリアはそうだと言って、口先だけの感謝をした。
しかしその翌日、ドロモンド大通りの消失地点に、パット・モーとドリスを含む消え去った物体と生物が、なんの前触れもなく現れた。
これもドリス・ハイネマンの絆のなせる業か。
復活したドリスはまたシェリルの家に入り浸っているので、アリアとしてはしばらくは安心だ。
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