第17話「死神」
これまでアリアが戦ったことのないほどの強敵が出現した。
既に戦闘は一時間以上続いている。場所は午睡横丁近くの通りだが、周辺では通行人の死体、炎上する車、そして昏睡した観測兵などが横たわる修羅場。
これまでも厄介な敵は多数いた。現実を改変し、ちょっとでも気を抜けば最初から生まれていなかったことにされてしまう〈片付け屋〉。休日ごとにあわられ、高い戦闘能力、そして永遠に次の日に進めなくする〈休日の人〉。なるべく目つきの悪い少女を殺傷することと、その眼球の蒐集を好むシリアルキラー〈凶眼嗜好者D〉。何らかの違法な薬物を吸食し、周囲の人間を殺傷したために敵対的ファントム指定された〈シェリル・オズワルド〉。熱圏に首を突っ込むほどの体躯と、一歩歩んだだけで未曾有の地震を起こし、破壊をふりまく巨人〈
そして一週間で六回も共和国を瓦礫に変えた〈至高竜〉。
しかしこの敵はそのどれをも凌駕していた。
そこにいるだけで死をばら撒き、絶対に勝てないのではないか、という恐怖をもたらす。
生まれてきたことを公開するほどの絶望。
すべてを凌駕するパワーとスピード。
そして恐ろしい顔。
アリアはこの〈死神〉と呼ぶべき相手としかし、互角に戦っていた。
それは彼女が、虫けらのようにあしらわれていることに対する怒りによって、膨大なトルメンタ波動を発生させていたからだ。
だが、それは風前の灯であった。
疲弊し、顔中に傷を負い、血を垂れ流しながら戦うアリア。
あと一撃でも攻撃を受ければ、倒れるのは間違いなかった。
〈死神〉は余裕の表情でアリアを見下ろしている。その姿は人間のようであり、あるいは見たことのない怪物のようであり、猫、犬、いや、馬に似ているような気もした。もしくはロボット、恐竜、鮫、林檎、炊飯器、近所に住んでる太ったおじさん、アメンボ、そのすべてであり、すべてでないようにも見えた。
アリアは最後の賭けに出た。真正面から死神に攻撃を加えてやる。
どうせ死ぬなら、最後に一矢報いてやるのだ。
錆びた刃を握り締め、アリアは神速で渾身の力を振るった。
結果は無残だった。刃は中ほどから折れてしまった。
これまでどんな強敵との戦いでも壊れなかった潮の刃は、ただの錆びた剣に戻ったようだった。
「錆びてぼろぼろの剣だからこそあえて強い」という逆説のトリガーを、死神のトルメンタが凌駕した瞬間だった。
だが。アリアの心はまだ折れていなかった。
「鋭い刃が錆びてより強くなる。ならば、それが折れたのならどうかしら? あなたは私に、さらなる武器を与えてしまったのよ、〈死神〉」
アリアは折れた刃を再び振るい、相手の心臓を貫いた。
何物も斬れぬはずの剣は、最強のファントムという不滅の存在を穿ち、あっけなく滅ぼしたのだ。
何が死神を滅したのか。アリアの熱情か。怒りか。
いいや。彼女の、自らが住まう街を守りたいという純然たる願い。
それこそが、この戦いに勝利をもたらしたのだ。
その後、かけつけた援軍はアリアが〈死神〉を倒した、と言うと「マジで、すごいね。偉いね」と言って六フレイムをくれた。
その他のみんなも、それはすごい、お前こそ最強だ、と言ってくれて、数日間はアリアはちやほやされたが、その後、とある学生がSNSに、生きたウナギをコンビニやスーパー、酒場に放ち、人々が混乱する映像をアップすると、誰もがその話題でもちきりになり、それもすぐに、ある名作漫画の実写化の話題で埋もれてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます