第16話「封じ込め」

「おたくなんだっけ、マリー? マリア? そうだマリアだ、だよな」


「アリアよ。私の名前はアリア」


「あー。そうだったわねぇ。アリア。アリアか。えっとあれだわね、第六、エリアスとかトレヴァーとか、ああ、あとシェリル? あいつもいるとこよね」


「そうよ。普段はもっと東のほうにいるんだけど、量子バエを追いかけてこっちに来たのよ」


「まあ遠征お疲れさんだわ」


「今日は来んの大変だったろ。やたら道混んでるし。なんかの祭りあったらしい。魔女祭か? 第三の」


「第二じゃね?」


「第二は四月だろ、違うっけ」


 銃声。


「違うな。第二は三月だろ。これは第四じゃねえか」


「第四? そんな何回もしてるわけないでしょぉ」


「分かんねえけどとにかく混雑カンベンだわ、ガキどもははしゃぐし、マスコミの取材もうっとおしいし」


「奇祭だかんね。衛生的にどうかって話もあったけど」


「影通りのやつらなんざ衛生って言葉すら知らねえだろ。臭いが錠前屋小路にまで漏れてんぞ」


「ところでマリア、第六型ファントムってのはどういったやつらだ? 燐寸投げみたいなやつらか」


「あれは第八よ。あと私はアリア。アリア・デイ」


「デイ? そういう名前なのか? じゃあアリア・ナイトっつうやつもどっかにいんのかね、二人で交代すりゃぶっ通しデイ・アンド・ナイトで働き続けるだろうさ」


「そういう名前の人と会ったことはないわ」


「お頭、酒買ってきやしたぜ。あとミイラの腕」


「おお、でかした。これで〈砂の甘露〉が作れるぜ」


「それ呪われるわよ」


「大丈夫だってアリア・デイ。その呪いが酒にコクを付与するわけよ」


「私この仕事に就く前はミイラ屋で働いてたんだから。結構な人数がそのカクテルのためにミイラを買って、三人に二人は呪われて心臓麻痺で死んでたわよ」


 銃声。


「そうか? だけど残りの一人は生き残ってたんだろ?」


「死んだわよ。心臓麻痺じゃなく喉を掻っ切っての自決。死にたい人だけ飲むのを薦めるわ」


「いい考えがあるわぁ。認識を拡散させて飲めばいいじゃない」


「それじゃ酔えねえじゃねえか」


「もういい、ドブに捨てろ」


「そっちのが呪われそうだが」


「そんでアリア、この前〈面従〉のあまっこがまた暴れたそうじゃねえか」


 銃声。


「マギーね。あれでものすごい経済的損失が出たらしいわね。最後は海に突っ込んで魚介類を虐殺し、戦艦をひっくり返したとか」


「オブザーヴァーなんざ関わりたくねえな。触らぬ神になんとやらさ」


「なあ、〈八方塞がり〉と〈面従〉が戦ったらどっちが強いんかね」


「それならヒューゴーじゃねえか? オレはちらっとしかあまっこのほうは拝んだことはねえが、たぶんあの赤毛野郎が勝つだろうさ」


「ほう、なんでだいチェスターの兄貴」


「決まってるだろ、ヒューゴーのほうが外套がぼろぼろだったからな。あれに比べりゃ、マギーのやつのは新品同様だぜ」


「なるほど、そりゃ明確だ」


 銃声。銃声。


「おいロックハート、一発ずつだ。弾を無駄にすんなって言ってるじゃないかい」


「すいやせん、ついはずみで」


「チリも積もれば、なんとやらだぜ。体力を温存すんだ、長丁場だからよ」


「これを一日中続けてるの?」


「そうだよアリア。それがあたいらの仕事さね」


「ラクに見えんだろ、だけど退屈でイカれちまうぜ、こんなんやってたら。でもこいつが任務なんだからよ」


「もっといい方法があるんじゃないかしら」


「みんなそうおっしゃるがね、これが一番なんだ。いろんなやり方をこれまで試してきてな。最初は奴さんを殺そうとした。それが無理だと分かると、がちがちに閉じ込めようとした。けどだめだった、ほっとくと空間歪曲で脱出よ。だけどあいつが何かをするタイミングで、すかさず出鼻を挫けば安心だってのが分かって、ずっとそれをやり続けてるのさ」


「あたいらがただくっちゃべってるように思えるかい? だけど常にあの化け物のトルメンタを読んで、何かしそうになったらぶっ放すのさ」


「例えばこうだ」


 銃声。


「そんでもたまに全員酔っ払って、逃がしちまうけどな、あいつを」


「そしたらしゃかりきになってとっ捕まえるのさ」


「全力でぶっ倒れるまでがんばるんだ。それでもやつを殺すことはできねえから、またここに閉じ込めて撃ちまくるしかねえ」


「まあ、見方によっちゃラクかもな。他のやつらみたくうろつく必要もねえし」


「最初はゲロ吐くほどたまげたもんだが、今じゃあいつの顔もかわいく思えてきたしな」


「的のでかい射的と思えばね」


「そう。それじゃ私はそろそろ帰るわ。道を教えてくれてありがとう」


「おう、またなアリア・デイ」


 銃声。


 人でないものの悲鳴。


 兵士の軽口。


 笑い声。


 銃声。

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