第14話「戦友」
シェリルとトレヴァーとともに酒を飲むことになった。竜林檎亭は店主がこの前死んで閉店したので、程近いチェーン店〈銀貨泥棒〉通称ギンドロへ来た。
ハイボールなど飲みつつ、トレヴァーに対してなぜずっと片目に眼帯をしているのかと質問した。アリアはこれまで、ずっと怪我し続けているのではないかと憶測していた――治りかけるとなぜかまた怪我するファントムに憑かれていると。
「こっちの目で見るとそいつが死ぬんで危ないから隠してるんだよ」
「というとピグミー・レビヤタンみたいな感じかしら?」
「ピグ……? そいつは知らねえけどたぶん同じような。しかも感染する」
「感染?」
「そうそう、死ぬって言ってもすぐじゃなくて三十分後くらい。その間、そいつの目もこれと同じ〈死に目〉に変わるわけ。それで、その三十分間に見た相手全員の目も〈死に目〉になるからどんどん増殖するんだよね。しかも直接見なくてもいいんで、例えばオレがテレビのアナウンサーとかをこっちの目で見ると、その人の目が〈死に目〉になって視聴者全員に感染すんだ」
「ああ、あのときは大変だったね」シェリルがそう言った。どうやら過去に最低一回はやらかしているらしい。
「そうだ、ちょっと余興で今からこの酒場の全員を見てみようか?」と、トレヴァーが眼帯を外しかけたのでアリアは止め、梅酒を注文する。
それが運ばれてくるころ、コニーが遅れて入店し、何も注文することなく唐揚げを食べ始める。アリアはこの前コニーが自分に食事を奢らせるために記憶操作をしたことを指摘する。
「あれ? 思い出したの? さすがにアリアには通じないのかぁ。参ったな」
「お前はオレが病気で苦しんでいるときにそんな破廉恥なことをしてやがったのか。その代金はアリアに今すぐ返せよと言いたいところだけど、いつもどおり財布持ってきてねえんだろ?」
「勿論」
悪びれぬコニーへの怒りによりアリアが魂魄を鳴動させはじめたところで、シェリルが自分がとりあえず立て替えておくと言い、ついでにこの店の代金も支払うと言い出した。アンブローズ隊長の真似事をするつもりかと内心訝るアリアだったが、シェリルは何やらいいものが手に入ったらしく、その報酬で懐が潤っているらしかった。むろん非合法なものだろう。
「ん? あそこにいるのはヒールド軍団長じゃねえのか」
トレヴァーが指したのは、カウンター席で飲んでいる白髪の老人だった。
「誰? 知り合い?」アリアがシェリルへ聞くと、
「伝説的な偉い人だよ。ちょっと挨拶してくんね」
と、彼女は軍団長の所へ歩いていった。
何事かを少しばかり話して、シェリルはすぐに戻ってくる。
「なんか友人待ってるとか言ってたな。もうじき来るらしいんで、邪魔しちゃ悪いし戻ってきたよ。こういう言い方失礼だけどあの爺さん、友人とかいたんだな。寡黙だし、プレイベートが謎だし。仕事一筋って感じでね」
「何をした人なの?」
「ジャイアントキリングをした人」
「ジャイアントキリング?」
「つまり巨人をやっつけたんだよ。そいつがものすごくでかくて身長五百キロメートル、手には刃渡り二百キロメートルの潮の剣を持っていて、しかも口からすべてを焼き払うビームを出して世界を混乱に陥れる〈アラビアータ〉って名前のファントムだ。こいつはしかも瞬間移動ができて、世界中のどこに現れるか分からない」
「それをあのお爺さん――軍団長はどうやって倒したの?
「知らないけど頑張って倒したらしいよ。しかもその戦いの後、その巨人とのあいだに友情が芽生えたらしい――ん?」
「友情?」
その言葉を聞いてどうも嫌な予感がしたアリア。他の三人も気づいて、この後起こる出来事を想像し、なんとも言いがたい表情になる。
軍団長が何かに気づいて酒場の入り口を振り返り、片手を挙げて挨拶した直後、とてつもない衝撃と破壊がギンドロを襲い、すべては粉々になって吹っ飛んだ。
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