第6話「大盤振る舞い」

 そのあともトレヴァーとコニーとは何度か街で遭遇した。


 この二人はとりあえずその場のノリで騒いだり、賛美したり、恐怖したりするが、二分くらいで飽きて去っていくことが多かった。


 他の観測兵にも会うことがたまにあったが、全員話す内容が不統一で専門用語やスラングらしいものを多用し、あまり意味が分からなかった。


 アリアはというと、日々奇怪な幻視を何度か見た。


 巨大な空中戦艦が街を焼き払ったり、カエルが口から無数のガラス球を吐き出していたり、大学のときの同級生が割腹自殺をしたり、意味があるものではなさそうだったので気にしないことにした。


 あるときファーストフード店で朝食を取っていると、アンブローズ隊長が来て向かいの席に座った。


「デイ、調子はどうだ。破竹の勢いだと聞いているけど下手をすると浄化機構に目を付けられるかもしれないので、そのときは俺の名前を出しても構わないから」


「浄化機構とは?」


「やつらはファントムを利用して我が国の支配をたくらんでいるんだ。実際、やつらの魔の手が庶民の生活に及んでいる。お風呂でシャワーのお湯がなかなか出なかったり、休日なのに気づいたら夜になっているのは九割やつらのせい」


「倒したほうがいいわね」


「そうだ。俺はこんなところで君と話している場合じゃない。浄化機構を倒し、自由を取り戻してみせるぞ。邪魔をするなよ」


「しないわ」


 力強く頷いて隊長は立ち上がり、「ここの支払いは俺に任せてくれ」と、テーブルに札束を置き、また別の束を取り出して店内にばら撒き、「皆、今日は俺の奢りだ! 好きなだけ食ってくれ!」と叫ぶが、店内にいた誰もがちらりと隊長のほうを見るだけで無視し続けていた。


 数日後、アリアが道路で小石を拾い集めていると隊長と遭遇した。


「アンブローズ隊長。浄化機構は滅したのですか?」


「ああ、もちろんだよデイ。だけどまだ四個しか滅していない」


「四個? 複数存在するの?」


「七十五個の浄化機構が存在してすべて性質が違う。あと七十一個あるけどそれは順次やっていく」


 アリアは、隊長もシェリルと同じく口では威勢のよいことは言うが、先延ばしにして結局やらないタイプなのではないかと指摘した。


 隊長はシェリルと同一視されることがかなり嫌だったらしく、むっとした顔になり、


「そこまでの侮辱をするというなら、今からすべて滅してこようじゃないか。あとでほえ面をかくんじゃない」


「その言葉、そっくりそのままお返しするわ」この台詞を一度言ってみたかったのでアリアはそれだけで満足した。


 隊長は結局浄化機構を滅したので、報酬として七十フレイムもの大金を得て、気をよくして酒場で三千フレイムもする高い酒を客全員に振舞うという暴挙に出た。


 それを聞いて後日、隊長になぜそんなに金をばらまくのかと聞いたら、貧乏人に金を恵むと優越感を覚えるから、という明瞭な答え。

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