第2話「入隊」
「昨今は異変が多く起きているじゃない。都市じたいのトルメンタ波動の上昇が原因で、それによって人心も荒れて悲惨なアクシデントが発生するわけよ。具体的にはアートのポルノ化、ポルノのアート化といった履き違えた現象とか。
それから、うちのマンションの真下の住民がどうやら悪魔崇拝者だってのが濃厚になってきてね、異端審問官を呼ぼうとして電話したら電話が通じなくなってたんだ。すわ破壊工作かと思いきや電話代払ってないんで止められてたのを失念してたってわけよ」
アリアとシェリルは地下鉄で移動している。化石博物館前の駅で乗って、既に三駅過ぎている。水門駅で一人の男性が乗ってきた。軍服じみた、灰色のコートを纏い、異様な事に、時代錯誤なフリントロック銃を腰にぶら下げている。この国は銃の所持は禁止されていたはずだが、とアリアが訝っていると、彼はシェリルの隣に座った。
「オズワルド、その子が幻信で言ってた後輩?」
「そうです、アンブローズ隊長。悪くないトルメンタ波動を所持してると思うんだけど。失業したばっかで困ってるんです。助けてやってよ」
「ちょっと待て、実際に話してみよう。初めまして。俺はエミール・アンブローズ、この対六型ファントム特務部隊の長で、そこのオズワルドから後輩の世話をしてほしいと呼ばれて来たんだけどうちで働きたいんだって? こっちはいいよ、さっそく仕事して欲しいんだけど」
矢継ぎ早に言われてさすがにアリアは困惑する。
「今すぐですか? どういう仕事かも分からないんですけど」
「今言ったように六型ファントムの討伐だよ。三型とか十一型みたいに即死したりしないし、毒とかも浴びたりしないと思うから、たぶん。君のトルメンタの強さによるけど、ああでも大丈夫かな。四百超えてるし」
「え、マジで、隊長?」
「マジ。すごいね。才能あるよ。フィルベルグの噴煙くらいの才能。多分虚空キマイラとか朝靄坊主、あと祝日の人にも勝てるくらいだよ」
「我が後輩ながらこれほどとは嫉妬しちゃうなあお姉さんは。誰にだってひとつくらい才能あるんだな」
言いながら乱暴に頭を撫でてくるシェリルに対しいらつくアリア。
「何だ? 彼女のトルメンタが五百を超えたぞ。オズワルドが無礼な発言をしたからか。そうか、怒りをトリガーとしたファントムなのだな。もっと何か言え、オズワルド」
「淑女なあたしが無礼なことなんか言うもんかよ、隊長。しかしアリア髪質悪いね」
「七百に到達せんばかりじゃないか、すごいけどちょっと危ないな。もういい、分かった。さっきは俺もちょっと焦りすぎた。さすがに今日から働くのは無理だ。武器も衣装もないし。じゃあ明日、そうだな、オズワルドの家に来てくれ。そこで物資を渡すよ。ああ、そうだ、前金をあげよう」
そう言って隊長は無造作に百フレイム紙幣を三十枚くらいばら撒いて帆船公園前の駅で降りていった。
※一フレイム=百円くらい
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