【月曜日、9:23】
(久々に気分良く月曜日を迎えられたぞ。とは言えさすがに週一であの体たらくな生活はキツイ。こんな事続けてたら絶対に体を壊すからもうこれっきりにしたい。んでもってアイツが出て来なけりゃ最高なんだけどな。)
「次は~○○坂~○○坂~」
プシュ~と音が鳴り扉が開く。幾人かの乗客が降りて、その後に降りた人と同じくらいの人数が乗り込んでくる。そして、俺は今日もその乗客の中にもう一人の『俺』の姿を見つけてしまった。
清々しい気分が吹き飛ばされた。それどころか、俺の無意識の欲望に思わず戦慄した。
もう一人の『俺』はセーラー服を着て平然と立っていた。
ご丁寧にアイドル風のカツラもしっかり付けてやがる。
「嘘だろ?」囁くようにつぶやく。
中肉中背でお腹が張った『俺』の女装は自らのコンプレックスを何倍にも増幅させてみせた。
(もうやめてくれ、いい加減にしてくれ、こんな気持ち悪い奴を毎日見ながら会社になんか行きたくない!もうお前なんか見たくもない!)
目をつむりながら強く願った。それでも、もう一人の『俺』は当たり前のような顔で見るに堪えない格好をしたまま変わらずそこに立っていた。
これ以上もう一人の『俺』の醜態を見続けていたら醜態まみれの生活に連れていかれてしまいそうだ、どうにかしてもう一人の『俺』を一刻も早く視界から外さなければ。そのことで俺の頭はいっぱいだった。
(もう一人の『俺』を見そうになる自分を早く抑え込まないと、
もう一人の『俺』が見えていることが誰にも悟られぬようにしないと。)
その時隣から女性の声が聞こえた。
「何でこんなことしてるの!!ねぇ、それ返してよ!」
不自然に人一人分空いた網棚のスペースに手を伸ばしている新入社員と思わしきスーツ姿の女性がいた。
(もう一人の『彼女』が見えている彼女には悪いけど、代わりに視線を受け止めてもらおう。そうでもしないと生活に支障が出てしまう。俺もこんな風に見えてたんだな・・・)
ほとんどの乗客は彼女に冷たい視線を送っている。俺も同様に冷たい視線を送っている。
電車は混雑時のちょうど半分の乗客を乗せて淡々とスピードを上げていく。
冷たい視線を送る乗客の思惑が同じだということは誰も知る由もない。
月曜日の分身 野良ぺリカ @nora_perikan
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