【金曜日、24:23】

(昨日も今日ももう一人の『俺』が出てきてもう散々だ。一昨日の朝、途中で出てきて一人で急に歌いだすんだもの。俺の歌が思いのほか下手だって気づけたのが収穫だったけど、それ以外に得なんてもの何にもない。あんなのただただうっとおしいだけだ。帰りは常にゲラゲラ笑ってて疲れも相まってイライラで殴りそうになったし。んでもって今日の朝、暑かいからってアイツがスーツ着たままシャワー浴びてたのはちょっと羨ましかった。よし、帰ったらすぐにでもシャワーを浴びよう。明日は休みだからやりたい放題。しがない一人暮らしの男の休日だ、何をやってもいいだろ。ああ、ここまで長かった。)


仕事繁忙期の週末ともなれば終電まで残業が伸びるのは当たり前で今日も例外ではなかった。

車内はほとんどの乗客が座っていて、それでも空席が目立つほどに乗客は少ない。俺はこういう時こそ居眠りして乗り過ごさないよう降りるまで立つことにしている。

(どうせ、また出てくるんだろうよ。さっさと出て来いよ。)

扉をにらみつける。


「次は~△△浜~△△浜~」


プシュ~と音が鳴り扉が開く。もう一人の『俺』が乗り込んできた。

もう一人の『俺』はいつの間にか車内にひかれていた布団の上に倒れこみ、スーツのまますやすやと眠り始めた。


(うんうん、俺が普段使っている布団だな。てことは俺は無意識に寝たいと思っているんだな。そりゃ眠たいさ。)

俺の足元でもう一人の『俺』は幸せそうな顔でいびきをかいている。

(お前がそんなにやれって言うんだったら俺が代わりにやってやろうじゃねぇか。お前はそれさえすれば満足なんだろう?)

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