【水曜日、23:02】
(もう一人の『俺』のことを考えてたら仕事が全然手に付かなかったし、またあのクソハゲ上司に叱られるしでもう最悪。でも大体わかってきた気がするぞ。
1.もう一人の『俺』は通勤電車に現れる。
2.もう一人の『俺』は俺以外に見ることはできない。
3.もう一人の『俺』は俺のやりたいことをやっている。
4.もう一人の『俺』に干渉することはできない。
そのパターンを考えていたら「近々死が訪れる」と言われているドッペルゲンガーとは別物のような気もしるんだけど。)
「次は~△△浜~△△浜~」
プシュ~と音が鳴り扉が開く。いつも通り幾人かが乗りこんで来る。
(今夜は何をしやがるってんだ?さっさと出て来いよ。)
心の中のつぶやきに答えるかのようにもう一人の『俺』は車内に現れた。その手にはロングの缶ビールを持っている。
(そうだよな、こんなに暑かったらビールでも飲みたくなるもんな。どうせ朝みたいに俺の目の前でグビッとやるんだろ?)
一人で酒盛りはしないこともないんだけど、寝坊してしまうんでないかとヒヤヒヤしてしまう、だから翌日が休みでないと一人飲みはやらないことにしている。
(金曜日にやるから安心しろ。今日はまだ水曜日、まだもうちょっとの辛抱だ。)
そう自分に言い聞かせた。するともう一人の『俺』は缶ビールのプルタブを指で引っ掛けた。
「プシュっ」とした音が辺りに響く。俺は今朝と同じようにもう一人の『俺』を見ながらつばをごくりと飲み込む。
(くっ、勝手にしてろ!!お前を見てるとイライラしてくる!!どうせ何やっても無駄なんだろ!?)
怒りを胸に秘めながら俺は目を背ける。程なくしてもう一人の『俺』の方向から音が聞こえてきた。
「コポコポコポコポ・・・ビチャビチャビチャ・・・」
(アイツは何をやっているんだ!?)
思わずもう一人の『俺』の方角を見る。もう一人の『俺』の行動を見た瞬間、俺は唖然とした。
もう一人の『俺』は座ってるクソハゲ上司によく似たサラリーマンの頭めがけてビールを注ぎ始めた。
(そんなこと全然考えてないぞ!?)
俺の戸惑いを無視するようにもう一人の『俺』は注ぐのをやめやしない。でもおかしなことに気づいた。サラリーマンの頭が全く濡れていない。
(そうか俺がアイツに干渉できないのと同じで、アイツも他の人間に干渉できないのか。思い返せば、もう一人の『俺』が母さんに電話した時は電話してなかったらしいし、サラリーマンを叩いた時も電車の揺れで起きたと考えてもおかしくはない。こちらに迷惑をかけないのには安心したけど、相変わらず目の毒になるってことは変わらない。)
サラリーマンはこっくりこっくり電車の揺れに合わせながら居眠りしている。頭からビールのしぶきを放ちながら。
(にしても何でビールをかけたんだ?全然やりたいとも思ってないのに。ひょっとして俺が無意識にやりたいことなのか!?アイツはそこまでして俺に付きまとおうとするのか!?)
いつの間にかもう一人の『俺』は二本目のビールを取り出し気持ちよさそうに飲み始めた。一気に飲み干すと次は3本目をサラリーマンにビールをかけ出した。そして四本目、五本目と缶ビールをかけては飲み干しを繰り返し続けた。
(もし、俺の無意識にやりたい事をもう一人の『俺』がやってしまうってことなら、明日は何をやらかしに来るって言うんだろう?)
「次は~●●町~●●町~」
軽く不安になりながらも俺は家に帰った。どうせ家にもう一人の『俺』は出てこない。
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