【水曜日、9:23】
(今日も『俺』は現れるのだろうか?二日連続でドッペルゲンガーのようなものを見たものの俺は死ぬ気配がない。かと言っていきなり死ぬとかいうのは勘弁してほしいし・・・いやいや、こんな変なこと考えたらまた『俺』がそっくりそのまま真似してきそうだから別のことを考えないと・・・)
車窓から外を眺めていると様々な広告が流れていく。
「美しくなるなら中身から」
「WILD BREATH」
「クーポン券で必ず当たる!!」
「助けて!!からあげ先輩!!」
(からあげかぁ・・・おいしそうだなぁ・・・でも今ダイエット中だから食べれないんだよなぁ。いや俺が勝手に決めたことだから別に食べたっていいんだけど。って、こんな誘惑に負けちゃだめだ。あっさり欲しがるなんて広告の思うつぼ。心を強く引き締めていかないと、いや、体も引き締めていかないといけないんだけど・・・)
「次は~○○坂~○○坂~」
プシュ~と音が鳴り扉が開く。幾人かの乗客が降りて、その後に降りた人と同じくらいの人数が乗り込んでくる。
(さすがにこれだけ警戒していたらアイツも出てこないだろうな。)
すると、いつも通りの車内に聞きなれない音が響いていることに気づいた。
ジュ~ジュ~。
(油で揚げてる音か。あぁ~これを聞いてるだけで腹が減ってくる・・・そうか、やっぱり今日もアイツは来てるんだな。)
音のする方向を見てみると、いつのまにかもう一人の『俺』は乗客の中に紛れ込んでいた。
これ見よがしに白い皿に乗せられた揚げたての山盛り唐揚げを見せつけてきやがる。
思わずゴクンとよだれを飲み込む。直後『俺』の観察に夢中だった俺を中断させるかのように、側から聞き捨てならない会話が聞こえてきた。
「あの人ヤベェ奴だからあんまり近寄らないほうがいいよ。」
「えっ?どういうことっすか?」
「だからさ、昨日電車に乗ってるときにアイツいきなり寝ているハゲを起こして、すいませんすいませんってよ~意味わかんないっしょ?」
「それ超ヤベェ奴じゃないっすか!?」
「だろ?そしたらよぉ、ハゲも怒り出したんよ。いい加減にしろ!って。」
明らかに昨日の俺のことを話している。唐揚げをむさぼるように食う『俺』を見つつ一言も聞き逃さないよう聞き耳を立てた。
「そんで、ハゲが降りた後、何もないところで急にドテーって転びやがるの。転ぶ意味わかんねーでやんの~」
「なんですかそれ~先輩の夢とかじゃないっすよね~」
「いやいや、実際この目で見たから~だからあの人に近づくんじゃねーぞ、転ぶかもしんねーから。」
「ハッハッハ~先輩笑わせないでくださいよ~。」
本当にもう一人の『俺』は俺以外に見えないらしい、どおりで皆が皆もう一人の『俺』が何をしてようと俺以外見ようともしなかったわけだ。
もう一人の『俺』は俺を見つめながら近づいてきた。唐揚げをむさぼっているのはそのままで俺の顔面数センチまで顔を近づける。俺は声にならない声でキッとにらみつける。
(何でお前は出てきたんだよ!このままじゃ惨めなままじゃないか!なんで俺がこんな目に合わなきゃいけないんだ!)
「次は~◎◎町~◎◎町~」
プシュ~と音が鳴り扉が開く。
「クソっ」と小さくつぶやいて降車する。振り返ると車内に残ったもう一人の『俺』は案の定いなくなっていた。
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