【火曜日、9:23】
(昨日見たもう一人の『俺』は一体何だったんだ。一応母さんにも電話してみたけど、夜に誰からも電話されなかったらしい。なんだよアイツハッタリかましやがって。ついでにドッペルゲンガーについて言ってみたけど全く聞く耳持たれなかったし。しかも寝坊しそうになって朝食も取らずに家を出たもんだから調子が狂って仕方がない。)
「次は~○○坂~○○坂~」
プシュ~と音が鳴り扉が開く。幾人かの乗客が降りて、その後に降りた人と同じくらいの人数が乗り込んでくる。
俺は目蓋をゴシゴシこすってその光景を眺める。目的はいつもと違う。もう一人の『俺』が乗り込んでいたからだ。
また昨日みたいに追及したら周りに迷惑になる。できれば大ごとにならない方がいいだろうと思い、今度はもう一人の『俺』を注意深く観察することにした。
電車が進みスピードが安定してきた。もう一人の『俺』はかばんから白い皿に乗ったトーストを取り出してムシャムシャ食べ始めた。バターの香りがこちらまで漂ってきそうなほどにおいしそうな顔で食べてやがる。ましてやトースト一枚はいつも俺が食べている朝食と同じ。トーストが乗っていた白い皿も俺がいつも使っているものと同じ。完全に俺の生活と一致している。
(最後は決まって食後はアイスコーヒーを飲むことにしているけど。もしかしたら。)
トーストを食べ終わった『俺』は白い皿をかばんにしまい、ゴソゴソした後かかばんからコーヒーが注がれたグラスを取り出しておもむろにゴクゴク飲み始めた。
(ひょっとして、アイツは俺がやりたいことを代わりにやっているってだけなのか?)
グラスに入れられた氷がカランと音を鳴らす。コーヒーを飲み終えた『俺』は満足そうな顔をしている。
「次は~××谷~××谷~」
プシュ~と音が鳴り扉が開く。いつも通り幾人かが乗って、幾人かが降りる。もう一人の『俺』もついでに降りて行った。そして△△浜駅では昨日と同じように降りる人に紛れながら『俺』が現れては視界の外へ消えていった。
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