【月曜日、22:10】
(結局あれからもう一人の『俺』は出てこなかった。もしも、あれが本当に俺のドッペルゲンガーだとしたら、噂通り俺は近い内に死んでしまうってことなのか?考えただけでゾッとする。でも今はとにかく帰らないと。明日も仕事だ。どうせ今日と同じように残業だろうけど。)
暗闇を走る電車に揺られながら、今朝会ったドッペルゲンガーのような俺そっくりな男のことを考えていた。
「次は~△△浜~△△浜~」
プシュ~と音が鳴り扉が開く。いつも通り幾人かが乗りこんで来る。瞬間、俺は目を疑った。今朝出会ったもう一人の『俺』が乗り込んで来ている。同じ車両に俺ともう一人の『俺』がいる。
(一体あそこにいるもう一人の『俺』は俺に対して何がしたいんだ!?)
声を荒げようとする自分を抑え込みながら、その『俺』をジッと見続けた。『俺』は普段通りの俺と同じように車窓に流れる景色を見ている。しばらくすると『俺』はスマホを取り出し操作して耳に当てた。そして、電車の中にもかかわらず通話し始めた。
「もしもし、母さん?俺だけど。元気してた?うん。ああ、そう。うん。突然だけど・・・俺・・・近々死ぬかもしれないんだ。いや、病気とかそういうのじゃないんだけど。うん。」
通話先は俺の母親のようだった。静かな車内に『俺』の声が強く響いている。それにもかかわらず不思議と周りの乗客はその通話の様子を気に留めてはいなかった。
(わざわざ俺の目の前に現れやがって・・・いや、今ならマナー違反で注意するという口実で声をかけることができる、もしかしたら途中で正体を暴くチャンスは来るかもしれない。危険性は・・・ないといいけど・・・)
まばらにいる乗客をゆっくりとかき分けて『俺』に近づく。隣まで来ると、もはやもう一人の『俺』は俺との違いを見つけるのが困難なほどにそっくりだった。
「うん、そうなんだ。ドッペルゲンガーとか言う奴?らしい、出会ったら死んじゃうとか聞いたからぁ・・・」
『俺』は俺が近づいても何の反応も見せず、会話を続けていた。目の前に来ても全くたじろぎもしない『俺』を見て、たまらず俺は話しかけた。
「おい、お前うるさいぞ。」
乗客の冷たい視線が突き刺さる。確かに同じような奴が二人出てきて会話をしようとしてるんだ、面倒くさい乗客だと思われても仕方ない。
「いやいや、本当なんだって。俺そっくりな奴が現れたんだって!」
もう一人の『俺』は全く会話をやめようとしない。聞こえなかったのかと思いもう一度話しかけた。
「おい、お前うるさいぞ!」
「この目ではっきりと、うん、本当、鏡見たかと思ったくらいなんだって。」
全然聞こえちゃいないようだった。せめて通話をやめさせようともう一人の『俺』の持ってるスマホを取り上げようと手を伸ばした。もう一人の『俺』は咄嗟に背中を丸めスマホを懐に抱えて俺の手をかわした。当事者にとっちゃ当たり前の反応だが腹が立った俺は懐に抱えたもう一人の『俺』のスマホに手を伸ばす。しかし、今度は逆に両手に持ったスマホを天井に掲げ腰を曲げて俺の手をかわした。その後、何回も俺はもう一人の『俺』に対して手を伸ばし続けた、しかしスマホどころかもう一人の『俺』の体でさえ一度となく触れることができなかった。
「次は~●●町~●●町~」
俺はダクダクと全身に汗をかきながらもう一人の『俺』との取っ組み合いを3駅分もやっていた。気づいた時にはもう扉が閉まる一歩手前、慌てて車両から出る。その後あの『俺』はどうなったのか車内を確認してみるとさっきまでいた場所から忽然と消えていた。見間違いかと思い外から乗っていた車両全体をくまなく探した、それでも『俺』はいなかった。いないことを確認し終えた後、電車は走り去ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます