第15話 黒魔導師ヴィカラット

「わしを知っているのかな?」


 しゃがれ声が部屋に響く。


 真っ黒なフードをすっぽりかぶり、口元しか見えていない男が立っていた。


 右手に握られていたのは、地味ではあるが精巧な銀装飾のほどこされた鞘に収まった、柄の長い剣である。


「誰か!」


 ミリオンがカーテンの向こうに声をかけると、当直で入口を護っていた兵士がかけつける。


「人数分の椅子を用意してください。それと冷えた飲み物も」


 兵士は、通した覚えのない黒衣の人物に、ぎょっと身をすくませる。


「隊長殿、これは」


「ボクのお客さんは、そろいもそろって、初訪問に趣向を凝らすクセがあるようです。これは警備体制の問題で、あなたの責任ではありませんよ」


 恐縮する兵士らが椅子を持ってきたときには、ミリオンは持ち込まれた剣を抜いて、さまざまに振り回していた。


 どうも敵一人を想定しているようで、バリエーションは様々だが、必ず

   斬りかかる

   相手に防がれる

   しかし斬る

 つまり、切り結んだあとの攻撃バリエーションを種々試しているのであった。


 すべての型が、相手の防御を前提にしており、防がれつつも、先端を頭部に届かせたり、すぐさま次の斬撃を繰り出したり、とにかく二手以内に殺傷するのを目的とする身体の動きである。

 

 ふるちんは見とれていた。


 ミリオンは、柄の長さを活かし、両手で器用に剣先の軌道を変えている。

 よくアニメで見るような、剣と剣がぶつかりあって押し合い、双方が剣を引き、また同じように打ち合うといった単純な動きは、そこには見られなかった。


「軽い。重量があるはずですが、とにかく振りやすい。それに、かすかな魔力を感じます。これは〈防錆〉?」


「おやおや、オーガナー家は、代々魔術に疎い家系と聞いていたんじゃがな」


 黒衣の男が肩を揺らす。


「何人も魔術師を斬れば、そのくらいの感覚は身につきますよ」


「ひょっひょっ。そいつは、くわばらくわばら」


 おどけながら不審者は、銀製のコップを受け取る。


「これは……酒か?」


「水の調達が面倒なので、要塞内の飲み物はもっぱらワインです」


 こともなげに十六歳のミリオンが、コップに口をつける。


 十二歳のふるちんは、さすがに飲むのを遠慮して、舌でちろちろ舐めるだけにとどめ、かわりに警戒心まるだしで不審者に問う。


「で、じーさんは何しに来たのか、いいかげん答えてほしいもんだな。偉大なる黒魔導師グランドマスター・ブラック・ウィザードヴィカラットさんよ」


「ヴィカラット!?」


 カルラが頓狂な声をあげる。


『今はこいつ隠蔽ハイディングのレベルを下げてるのか、俺からは名前表示オールネームが見えるし、全身像ペーパードールも開けるんだわ』


『そ、そうなんだ……』


『「黒い魔に導く」と書いて、「師匠」の「師」。ただの魔術師や魔道士たちとは格が違うって感じだが、惜しむらくは比較対象にする魔術師に心当たりが皆無ってことだな』


『ううん、たぶんそいつ、すごい魔術師だよ。名前に心当たりがあるんだ。この手のゲームで、同姓同名ってのは、あり得ない』


『その根拠は古巻物スクロール……いや、吟遊詩人の調査リサーチか?』


『ややこしいから、あとで説明するよ。その前に、あたし、この男に確認したいことがある』


『わかった。逃げようとしたら、力ずくでもふんづかまえる』


 カルラの次に驚いていたのは、おそらく黒衣のゲストだったろう。


「わしは名乗ったつもりはないんじゃが……。おぬしのその格好、盗賊シーフか。それも、相当に油断ならぬスキル持ちのようじゃ」


「じーさんほどじゃねーよ。名前がわかったところで、俺の警戒心は、絶賛継続中だからな」


「ふるちんさん、こんな素晴らしい剣をくださる人が、悪い人なわけありませんよ」


 さわやかな汗をふきながら、ミリオンが擁護する。


「どーいう理屈だよ。そもそも街の治安責任者が、そんなイワクありげな贈りもの、あっさり受け取るなよ」


「でも、剣に罪はありませんよ?」


「話が通じねえなぇガキだな! ガウスさんよ、刀剣がからむと、こいつこんなにポンコツになるのか?」


「隊長が幼い頃より仕えておるゆえ、もはや慣れ申した」


「慣れるなよぉ」


「えーと、ヴィカラットさんでよろしいですか? では、お聞きしましょう」


 全員に着席をうながし、ようやくミリオンが話を前に進める。


「まず、この剣の銘は」


「そこからかよ」


 ふるちんが椅子からずり落ちかける。


「そうさのう、あえて名付けるとすれば、〈百王の剣〉かのう」


「それはまた」


 大きく出たものですね、とミリオンが笑う。


「しかし、納得がいきます。王国の至宝〈百王の冠〉に比肩しうる逸品ですよ、これは」


「では、飾っておくか、宝物庫の奥底に眠らせておくかね?」


「まさか。めいいっぱい使いますとも。冠だって、国王陛下が祭礼の折には、毎回かぶるじゃないですか」


 どういう理屈だ。


「じーさん、初めて会うってのに、そんなお宝をなんで簡単にくれてやろうってんだ?」


「逆じゃ、逆。この剣をくれてやるために、わざわざ会いに来たんじゃろうが」


「ああ、なるほど……って、誤魔化すなよ。なんで、こんないいもん、タダでくれる気になった」


「その剣が望んだからじゃよ」


「はあ?」


「その剣は人を選ぶんじゃ」


 相当の使い手でも、その真価は一割とも発揮できない。

 やたら頑丈なので、素人が使った程度で刃こぼれもしないが、もし達人が使えば、竜をも殺せると。


「あ、竜を殺したいんですか」


 やれと言われれば、ミリオンは二つ返事で引き受けそうなノリである。


「例え話よ。あんなヤツらと剣で戦うのは、ムダが多すぎる」


「で、あんたが何者か、もうちっと説明してくれねぇかな」


「まあ、わしにも事情があってな、この剣をもってくるだけでも、危ない橋を渡っておるんじゃ」


「バルバデン=ギリウス」


 カルラが小さくつぶやく。


「カルラ?」


「あ、ごめん、ちょっと頭の整理が追いつかない」


 イヤイヤをするように頭を振り、銀色の髪が揺れる。


「あの、黒魔導師さん?」


 ようやく道筋がついたのか、声をかける。カルラにしては珍しく物怖じする態度だった。


「本当にあの黒魔導師であるなら、あなたはバルバデン=ギリウスから来たはずよね」


「それはまた、大層な夢物語を」


 ヴィカラットは鼻で笑う。


「お願い、真剣に聞いて。そこに、あたしたちの友だちがいるの。人の言葉がわかる闇トカゲダーク・リザードの子」


 男は黙り込む。


 しばし思案の後、フードのなかから室内の者たちを眺め回すと、口の中でなにか呪文を唱えはじめた。


 短剣を抜きかける少年盗賊を、ミリオンが手で制する。


「結界です。おそらく、ここの会話が外へ漏れないように」


 呪文を終えるころには、あたりは静まりかえり、まるで別の場所に移動したかに思えた。


「そのトカゲ……大図書館にいる、あやつのことか?」


「知ってるのね」


「狙い澄ましたかのように、我らの中枢に迷い込んでおったわ。今朝方、同志がエサをやっとったときは、さらに鳴き声が人の声じみておったが……あれは、そのうち人間に化けるだろうと、皆が楽しみにしておる」


「今朝方。あなた、あんな遠くから一瞬で来られるの?」


 カルラの銀色の瞳が期待に輝く。


「わしだけなら〈隠された道〉を通ることができる。偉大なる黒魔導師グランドマスター・ブラック・ウィザードじゃからな」


「あなただけ……。じゃあ、あのコは、連れてきてもらえないの?」


「あのトカゲが不死の生命体なら、おそらく耐えられようが……あの幼生ではのう。そもそも、そうする義理もなかろう」


 がっくりとうなだれるカルラだったが、気遣うふるちんが、その背に手を置く。


「ここまでタダで話してやったのだ。その代償として、おぬしは、わしについて知ってることを、これ以上は話してはならぬ」


 先ほどの情報は、口止め料というわけだ。


「じゃあ、次は俺の番だ。俺も、おまえさんの情報をいろいろ握っている。俺の質問に答えなければ、手当たり次第おまえのことを喋るぜ」


「先にわしの名を見破ったのは、おぬしじゃったな。よかろう、わずかなら答えよう」


「よしきた」


 ふるちんは、椅子の上で片膝を立てる。


「まず、じーさんの言うバルバデン=ギリウスってのは、どこにあるか教えてくれ」


「おぬしらの知っておる通り、この王国の南の大海に浮かぶ島じゃよ」


「沈んだんじゃないのかよ」


「そう思われても仕方あるまい。〈永遠の霧〉に覆われ、いかなる船も近づけはしないからな」


「なぜ結界を張ったのですか? 大昔、島と王国は互いに繁く行き来していたと歴史書にありますが」


 ミリオンの問いに、ヴィカラットは首を左右にする。


「おぬしの質問には、代償が必要じゃ」


「ボクも、秘密を守ります」


「まさか、今から聞き出した情報を守秘するから、それを教えろとか言うのではないか?」


「ダメ……ですか?」


 ミリオンが上目遣いになる。


「良いわけが、なかろう。こちらの利がなさすぎる」


 しっしっと手をふって、警備隊長を遠ざける。


「情報を得たくば、わしの得になる情報をもってくるのじゃな」


「この場で、あなたを斬り伏せないかわりに……」


「おまえ、平然と人道を外れるんじゃねえって」


 真顔のミリオンに、ふるちんがツッコミを入れる。


「俺の質問がまだ途中だ。俺たちは、その闇トカゲと会いたい。俺たちがそっちへ行くのは無理そうだが、トカゲ一匹、じーさんの凄いとこ見せて、なんとか連れてきてもらえないか」


「あのトカゲと知り合い? おぬしらは元々バルバデン=ギリウスの出身か?」


「いや、違う。どちらかってーと、トカゲと同郷なんだが、どういうわけか間違って、トカゲだけ、そっちに行っちまった」


「……おぬしらとトカゲの関係には、大いに興味がある。それを、わしにだけ話す気があるなら、協力もやぶさかではない」


『NPCに対する守秘義務ってなかったよな』


 少し思案するふりをして、カルラにチャットで相談をする。


『聞いてないよ。あったらゲームからBANされて、むしろ有り難いくらいね』


「おっしゃ、あんたが理解できるか信じられるかは別として、きっちり教えてやるよ。で、どーすんだい」


「数百年前、まだ島と王国の往来があった時代、王国と島とをつなぐ仕組みがあったはずじゃ。どんな生き物でも、まとめて移動させることができる。島のほうは封印こそしておるが、解除は容易。問題は、王国の側じゃな。まだ残っておれば良いが」


「それを起動できれば、じーさんみたいな魔導師でなくても、ふつうの生き物を転送できるんだな?」


「昔通りであれば、な」


「どんな外見をしてる」


「魔法陣じゃ」


 ヴィカラットが人差し指を立てて、呪文を唱えると、そこに冷気が集まった。


 羊皮紙をテーブルを指でなぞり、冷やされた部分が水となり、図が描かれる。


「乾くまでに覚えろってことかよ。ミリオン、ガウスのおっさん、見覚えあるか?」


「あるとすれば王宮でしょうが、ボクが入れる場所は限られています。宰相閣下なあるいは」と、ミリオン。


「心あたりござらん」とは、ガウスの弁だ。


「じゃあ、ミリオンに当たってもらうか」


 当然のように、ふるちんが決定する。


「おや、ふるちんさんは、ボクになにを代償としてくれるんですか?」


 弱みを見つけたりと得意げな顔をするミリオンの小さな額を、ふるちんがデコピンではじく。


「そのトカゲと合流できたら、街の発展計画がさらに進むんだ」


「そのトカゲさんって、何者です?」


「それは後だ。まずはミリオン、おまえのコネを、ありったけ使って、仕組みとやらを探してくれ。模様なんて覚えてなくても、そもそも魔法陣なんてめったにないだろう?」


「ああ、先に言っておくが、この魔法陣の捜索も、利用も、おぬしらだけの極秘じゃぞ。なにしろバレたらオオゴトじゃ。わしがここを訪れているのは、島でも内密であるし、数百年間ずっと封じられておった〈海渡りの大回廊〉を起動するのは、処刑に値する大禁忌じゃ」


 などと語る魔導師からは、悲壮も恐れも感じられない。むしろ状況を楽しんでいるかのような口調である。


「さて、どれくらいで手がかりを見つけられるかの。数ヵ月ほど後に、また訪うとするか」


 ヴィカラットが椅子から立ちあがる。


「そんなに、かけてらんねぇよ」


 長引けば、闇トカゲのじんたに心労を続き、命を脅かしかねない。

 さらには、島に戻ったヴィカラットが、価値を知ったトカゲに何をしでかすかも予測できないのだ。


「王国中の記録をあさるのだぞ? どれくらいで、数百年のホコリを掘り尽くすつもりか」


 救出はできるだけ早いほうが良いが、手がかりが見つかる保証はまったくない。


 これがシナリオ順の徹底したゲームであれば、神は乗り越えられない試練を与えないはずだった。


 しかしこの『百王の冠』は世界を自由に移動できるオープンワールド型のゲームである。ゲームバランスなど有って無きがごとし。たまたま見つけた試練が、どの段階で克服できるかは、ゲームの制作者にすら分からない。


 それでも――


「一週間」


 ふるちんは指を立てて断言する。


「悠長にやってらんねぇんだ。一週間でケリをつける。絶対に来いよな」


「よかろう」


 黒魔魔導師が指を鳴らすと、世界に環境音が戻った。


「あ、いらっしゃったのですか?」


 兵がその場で立ち尽くしている。


「馬車の準備ができておりますと、お呼びに参ったのですが、隊長たちのお姿がなく……」


 結界によって、姿から気配まで、この場からなくなっていたようだ。


 気付けば、魔導師の姿もなかった。姿を消してこの場を去ったのか、そのまま一瞬にして島へ戻ったのかは謎である。


「一週間とは、ずいぶん大きく出ましたが、アテがあるのですか?」


 ミリオンが立ち上がって、剣を腰に吊す。


「いや、あいつ一人でどうにかできるレベルのセキュリティだったら、きっとこの数百年間のうちに、何度もこっそり使われていたと思っただけだよ」


「たしかに、数百年前の記録では発掘も困難だが、百年程度であれば、何か残っているかもしれない」


 ガウスが大きくうなずく。


「ボクは明日にでもさっそく宰相閣下にお目通り願い、それとなくお話を聞きましょう。お二人にとって、とても大切なことだとは理解していますが、今はプーランさんのほうを優先してよろしいですか」


「ああ、伝書の通りなら、きっちり起きているんだろうな。そろそろ、向こうのドタバタも収まっているだろうし、見舞いにいってやろう」


 ふるちんも席を立つ。


 本来なら、ミリオンもガウスも軍馬に乗るところだが、ふるちんらを気遣い、四人は、馬車に相乗りすることとなった。


『カルラ、話した方がラクになるなら、聞くぞ』


 車中、ふるちんは寝たふりをしながら、チャットでカルラに話しかけていた。


『うん、ちょっとまだ整理つかないから、とりとめないままだけど、聞いてくれるかな』


 それでもカルラは、何度か言いかけては口ごもる。


『「百王の冠」ってね、あたしの兄貴が作った世界なの』


『……制作会社のメンバーだったのか』


『ううん、そうじゃない。子どもの頃、あたしに聞かせてくれた夢物語。中学生くらいに構想を始めて、いつか形するって意気込んでた。だけど、実現する前に兄貴はいなくなったの』


 古今のゲームをやりこんで研究し、いつか制作側にまわろうとしていたカルラの兄。彼が大学三年生のとき、第五世代の没入型ゲームが登場した。


 そのベータ・テスト中、彼は事故に遭い、精神は二度と戻ってはこなかった。


『タイトルは、「サードアイズ」。聞いたことあるかな。大手通信会社が提供するってことで話題になったんだけど、結局、その事故が元で発売中止になったんだ』


『聞き覚えのないタイトルだな』


『ダイブする形のいわゆる第五世代没入型MMORPGの大半は、今でも、この「サードアイズ」のエンジンを使ってる。運用を通じてデータの使われ方を分析し、モジュールを最適化し、ときにはソースすら改良してしまう自己進化型ゲームエンジン。だから、あたしは同じエンジンを使ったゲームだったら、どれも片っ端からプレイしてる』


 そこかしこに、兄の生きた証拠があった。


『兄貴の残したコンセプトアートや、世界設定、ギミック、そういったものが、あとに開発されたゲームほど、色濃くなっていった。兄貴の身体はずっと病院で眠ったまま。でも、兄貴のアイデアがどんどん実現してる。だから、あたしは兄貴の意識がエンジン内部に取り込まれたと確信した。そして、兄貴がもうすぐ帰ってくるだと信じて待っていた』


 ふるちんは、黙って耳を傾けている。


『そして、とうとうこのゲームだよ。どこにも持ち込んでない、封印していたはずの中学生のときの企画「百王の冠」が、名称もなにもかも、残されたノートそのままで世に出てきたんだ』


 それは偶然ではあり得ない。


 カルラの兄がなにかの過去作品を、まるごと剽窃ひょうせつしていれば、類似性を説明できたかもしれない。

 だが、キャラクターや地名の稚拙さ、安易な世界観などは、中学生が一所懸命に考えたとしか思えないものばかりで、とても何かをマネしたようには思えなかったのだ。


『兄貴は、このゲームのなかにいる。人をからかうのが好きだった兄貴だから、思いも寄らないところに隠れてて、あたしが見つけるのを待ってくれている。そんな気がしてる』


 クエストを片っ端から解けばなに分かるかもしれない。


 ゲームにラスボスがいるなら、そいつを倒せば、あるいは?


 もしかすると王や神になって、どこかの玉座で勇者を待っているかも。


 誰もやらないような奇妙なプレイの報奨として、偶然に会える仕掛けも考えられる。


『隠しマップで、開発会社に遊びにいけるゲームが、結構あるんだ。そこにいるNPCはみんなスタッフロールに名前の載ってるような人ばかりで』


 なるほど、ゲーム制作にあこがれる少年なら、必ず入れそうな要素だ。


『ふるちん、協力して。あたしはまず、この世界に隠された古巻物スクロールを片っ端から集める。兄貴の創った世界なら、叡智はすべて巻物に残されているはず。兄貴が、そういうふうに設定したはずだから』


『さっきの黒魔導師も、ノートに書かれていたのか?』


『うん、ヴィカラットも、あのミリオンちゃんと同じくらい重要なキャラだったよ。でも、兄貴が書いてたのは一本道のRPGなんで、MMORPGとして構築した時点で、プレイの仕方によっては一生会わないキャラになっちゃったね』


『協力するのは、まったく構わないんだが……』


 ふるちんは、カルラの兄いわば世界の創造主へ近づくことに恐れを抱いていた。


 カルラの話を聞きはじめてすぐは、胸中にわだかまる違和感を、カルラが知らない男について語るせいだと考えた。実に子どもじみた嫉妬であると。


 しかし、より深く理解するにつれ、違和感の正体は、本能的な恐怖心であると悟った。


『カルラはずいぶん、兄貴を信用しているようだが』


 ふるちんは慎重に言葉を選んで、自分が至った確信を口にする。


『もしその兄貴が、本当にこの世界の創造主、調整者になっていたとしたら、その内幕や先の展開を予測できちまうカルラてぇのは、身内どころか、最も忌むべき最大の敵ってことになるはずだぜ?』

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