かぞく

北海ハル

無垢な瞳

 旦那と別れ、シングルマザーとなったサユリは娘のトモコとアパートで暮らしていた。

 質素で貧相な暮らしをさせ、トモコには幼いのに本当に申し訳ないと思っている。

 ただ、最近は自分の部屋で一人遊びをする事が多くなり、サユリのパートが非番の時も押し入れと向かい合って楽しそうに笑っていた。

 何がそんなに可笑しいのかと最近気になっていたが、今日、晩御飯の途中トモコが唐突に聞いた。

「ねぇ、ママ。うちって、パパはいないんでしょう?」

 やはり気になる年頃なのだろうと思い、ドキリとした。まだ4歳でも、父親がいないのは辛いのだろう。

 サユリはトモコの話を黙って聞くことにした。

「ええ、そうよ。それがどうしたの?」

 そう聞き返すとトモコは顔を明るくして言った。

「じゃあ、あの男の人をパパにしようよ!」

 ────え?

 転ぶ先の分からない発言にサユリは思わず聞いた。

「トモちゃん?男の人って……だれ?」

 母の所に預けている時に誰か来たのだろうか。いや、それなら母が私に伝えるはずだ。

 思考がぐるぐると回る中、トモコはえー、と言うように驚く。


「ママ、あの人だよ。いつも押し入れで笑ってる、あの人」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かぞく 北海ハル @hata

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ