ふたり、はじめての…

ミュゲの舞

第1話 ふたり、はじめての…

 ― 2015年の9月ごろ ―

 その夜、私はティムと「一体」になりたくて、彼に言いました。

「ねえティム、私のいとしい人、今夜、あなたを求めてもいいかしら」

 彼は、困惑ぎみの顔で私を見つめました。

「どういう意味だよ」

「私ね、今夜はあなたと『一体』になりたいの」

 彼は、考えたような顔をしました。私は、思わず詰め寄ってしまいました。

「なぜためらうの?疲れてるの?」

 彼は、首を横に振りました。

「じゃあ、どうして?」

 しばらく変な沈黙が続きましたが、ティムはようやく口を開きました。

「実は俺、15歳のときに、全く運悪くヤンキーのけんかに巻き込まれて、蹴っちゃいけない所を蹴られて…意識なくした。で、『二つあったアレ』の片方が割れてて、取ってもらった……」

 衝撃的な告白に、私は絶句しました。いとしい人の口元と、体全体が細かく震えていました。

「それ以来、そういうことしたときに傷が痛むんじゃないか、子どもができないんじゃないかって、ずっと恐れてた」


 彼は、私の知らなかった心身のひどい苦痛を抱えてきた…、そのことを想像すると、愛する人に対する憐れさといとしさが込み上げてきて、彼を抱き締めました。

「サラ…?」

「ティム、あなたの体に悲しい欠損があっても、私はあなたの全てを受け入れるわ。だから、あなたも恐れないで、私を抱いて」

 私のいとしい人は、目に涙を浮かべながら、二度ほど深くうなずきました。


 そして、ティムと私は「フルヌード」になり、同じベッドに入りました。



 私たちの熱いひとときは、kissから始まりました。そのすぐあと、私は言いました。

「さあ、あなたの好きなようにして」

「じゃあ…そうするよ」

 最愛のティムは、私に覆いかぶさるように、私を抱きました。


「…大丈夫?傷、痛くない?」

「全然。むしろ、こういうのって、こんなに気持ちいいんだな…」

 彼は少しもつらそうな顔はせず、むしろ愛する人と「直に」密着できた喜びでいっぱいに見えました。私も、お互いの体温と鼓動を感じている間、言葉にできないくらいの快感を覚えました。やだ、私ったら、恥ずかしい…。


 ― 甘美で濃厚な時間は、かなり長く続きました。 ―



 ― 数カ月後 ―


 私は、どうも体調がおかしいと感じ、「月1回来るモノ」がずっと来ていなかったので、産婦人科で診察を受けました。そこで、妊娠が判明したのです。私は、驚きのあまり、人前にもかかわらず叫び声を上げました。心当たりは大いにありました。私が事実を受け入れても、彼は同じように受け入れてくれるかしら…。何とも言えない心境になりました。


 その夜、帰宅したティムは、私の

「おかえりなさい」

 と言う声のトーンがいつもと違うので、心配そうに声をかけました。

「どうした、サラ?何かつらいことがあった?」

 私は、彼の目をしっかり見つめて、少し震える声で真実を告げました。

「ううん…聞いて、ティム。私…子どもができたの」

 ティムは、驚ききった顔で私を見ましたが、すぐに顔いっぱいに喜びを示し、私を強く、強く抱き締めました。

「そうか…、良かったな…」

 彼は、嗚咽を漏らし始めました。

「今日、おまえの知らせを聞いて、俺は心の底からうれしい…」

 私も、自然に涙腺が緩みました。

「奇跡って、本当に起こるのね…」

「ああ、こんな日が来るなんて、もうあり得ないと思ってた」

 ティムの涙が、私の肩の辺りを濡らしました。


 このあとの彼の言葉が、私の耳と心に強く刻み込まれました。

「俺は若すぎる。おまえの愛なしじゃ生きられない。だから、どうか一人にしないでほしい」

 抱き締められたまま、私は答えました。

「今夜、あなたのたくさんの笑顔に感謝します。私は一生、あなたを愛します」


                 了

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ふたり、はじめての… ミュゲの舞 @muguetnomai

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