第8話 転生7



「それにしてもおにいちゃん、そんなのでよく火起こしなんて出来たね」

「いつだったかテレビで見たことあってな。こういうのは異世界モノの物語には無かったのか?」

「だいたいが魔法でちゃちゃっと出来てたかな~。もしくはそういう道具が別にあったり。わざわざ火打石なんか使って火起こしするような話しなんて、少なくとも私は見たことないよ」

「…魔法、ね~…」

 テントも四苦八苦しながら張り終え、のんびりと焚火に当たる。こうして異世界にやってきてから、ようやく一息つけたように2人は感じた。

「それじゃあ夜営についてだけど、見張りの順番とか時間はどうしようか」

「…ああそうか。見張りが必要なのか」

「あのゴブリン以外にもこっちを襲うような生き物がいるかもだからね。この世界で野宿するならこれからも必須になると思う」

「そうだな。…だったら、とりあえず俺が先に起きてるとするよ」

「わかった。時間は?2時間毎くらいが妥当かな」

「いや、時間は決めないで、眠気が来たらくらいの間隔でいいんじゃないか?そもそも時計が無いから時間わからんし」

「確かに…、でもそんなこと言って、自分一人で済ませようとか考えてないよね?」

「そんな無茶はしないさ。明日の移動に影響したらそれこそ死に直結するしな」

「…それが分かってるならいいけど…、ほんとに無理しちゃダメだからね?」

「わかってる。ほら、さっさとテント行って寝な」

 天使が支給してくれたテントの布はそこそこ厚みのある布で出来ており、風をほとんど通さないうえ、出入口も閉じればかなり保温性の高い優れ物であった。荷物の重量を無視できるアイテムバッグでなければ持ち運びに苦労しただろうが。

 昼間に射していた暖かな日差しが無くなった今、周囲の気温は凍えるほどではないものの多少は下がっており、焚き火と毛布があるとは言え、さすがに野外とそのテントを比べれば後者を選ぶのが普通の選択だった。

「…ん~…」

 兄の言葉に一瞬迷う素振りを見せた瑞希だったが、結局そのまま何も言わずにテントの中へと入っていき、しかしすぐに出てきてしまった。

「はい、おにいちゃんの分」

 その手に2つ分の毛布の塊を持って。

「ああ、サンキューな。でも1枚で十分だぞ?」

「こっちは私が使うからいいの」

 そう言って瑞希は毛布を身体に巻き付け、瑞穂の隣に腰を下ろしてしまう。

「…」

「…えへへ…」

「…はぁ。少しだけだぞ」

「うん。わかってるわかってる」

 軽くジト目を向けてみたものの、はにかんだような笑みを漏らす妹の表情を見てしまえば許してしまう己の甘さに、瑞穂は溜息を吐きながら苦笑してしまうのだった。

「…」

「…」

 ――パチッ――

焚き火から時折響く枯れ枝の爆ぜる音しかしない、無言の空間。

人によっては緊張や息苦しさを感じてしまいそうな状況だが、瑞希は隣に兄がいることへの安心感。そして瑞穂は、隣に妹がいることへの幸福を感じていた。

「…」

「…」

――パチッ――

「……なあ、瑞希」

「…なぁに?」

「せっかくだし、瑞希が知ってる異世界モノの知識ってやつを教えてくれないか?」

「………」

 そんな心地良い静寂を破ったのは、兄の事務的とも取れる非常に建設的な質問だった。

「(…別にいいけどさぁ…。せめてもうちょっとムードを感じさせてくれてもいいんじゃないかな…、もう…)うん、いいよ」

 内心ではほんの少しの不満を感じても、それをおくびにも出さず、瑞希は兄の問い掛けに応える。

「でも、そう言われると何を話せばいいのかな…。例えばおにいちゃんはどんなことが気になってるの?」

「ん?そうだな…。正直なところ、地球の日本以外の場所や環境についてなんて深く考えたことがなかったから、全部って言いたいところなんだが…。強いて今挙げるなら、魔法ってやつについてだな」

「魔法?…へ~、なんか意外だな~」

「そうか?」

「うん。だって、小説はおろかマンガとかゲームに全く興味を示さなかったおにいちゃんが、まさか魔法に興味があるなんて」

「ん~、いや、興味があるってのとはまた違うんだ」

「?じゃあなんで?」

 兄の言葉に首を傾げた瑞希を微笑ましく思ってしまいながら、瑞穂は言葉を続ける。

「この世界に来てから聞いたことの中で、一番分からないことだからだ。モンスターって言われれば、さすがに俺でも多少の想像は出来る。少し違うが、実際森の中で熊に遭遇したりもしたしな。だが、魔法ってのはイマイチ現実感が湧かないっつーか、実在するかもしれないって言われても実感出来ないんだ。火の球を飛ばすとか、それくらいが今の俺の限界なんだよ」

「…ちょっと気になる単語が聞こえた気もすけど、そゆことね。確かに、オタク文化に溢れてた環境でもそれに触れてなきゃそんな認識になっちゃうよね」

「ああ。そんで、魔法についてはどんなことがあるんだ?」

「んん~。ちょっと待ってね、整理するから。……むむ~…―――」

 瑞希はそう言うなり、軽く唸りながら顎に手を添え、思考することに集中していく。そんな妹の様子さえ、今の瑞穂にとっては幸せを感じさせてくれた。

 横目に妹の姿を収めながら、僅かに微笑んでしまう自分を感じつつ、瑞穂は焚き火に枯れ枝を追加する。

 ――パチッ――

「……~…」

「…」

 ――パチッ――

「~、ん、オッケー」

「お、それじゃあ頼む」

「うん。でもまあ、私の知識は全部作り物であって、現実的っていうのとは違うからね?」

「それでも無知よりは遥かにマシになるさ。っと、その前に、ほら」

 瑞希が本格的に話し始めようとしたところで、瑞穂は未だ畳んだままだった自分の分の毛布を広げ、自分と、すぐ真横に座る瑞希を一緒に包むようにして肩に掛けた。

「少し冷え込んできたからな」

「…あ、ありがと…」

 そのおかげで、肩同士が触れ合う程度だった距離は、ほとんど密着するような形になり。

「(…昔はこうやって、一枚の毛布で一緒に寝てたっけ…)」

 直に感じる兄の温もり。すぐ傍にいる安心感。気遣ってくれることへの喜び。

 総じて言うならば、幸せを感じさせてくれる兄の行動。

しかし、昔の自分にはなかった、兄を一人の男性として意識してしまったことで生まれた、恋心なんてものがブレンドされてしまえば。

それは純粋な安らぎのみでは済まなくなってしまうもので。

「(…不意打ち過ぎてキュンキュンしちゃうじゃないのよ!もーー!!)」

「む、そんな震えるほど寒かったのか?」

「にゃ!?い、いや、全然大丈夫!めっちゃポカポカしてきたくらいだから!」

「お?お、おお…」

 先程まで静かな雰囲気で話していた妹の突然の変わり様に、寒さとは違う意味で心配になってしまう瑞穂。

「(だからなんで私ばっかりこんなに悶々と…!…まあ、それがおにいちゃんなんだけどね…)んん、こほんっ。じゃあまず最初に言っておきたいのは――」

 そんな兄に、内心で溜息を吐いてしまう瑞希だったが、少しわざとらし過ぎる咳払いで気を取り直した。

「――魔法って一言で言っても、その意味や役割、捉え方は、多種多様で千差万別で無限大なの」

「…初っ端から壮大な切り口だな…」

「だってそうなんだもん。目に見える現象として例を挙げれば、さっきおにいちゃんが言った火の球を出すのが一番有名だと思う。でも、そんな火の球一つ取っても、その形や規模はいろいろあるの」

「デカイとか、数が多いとかか?」

「そうそう。例えば、指先サイズから太陽が降ってくるみたいに感じるサイズまで。一つだけから、土砂降りの雨粒くらいの数まで。範囲だって街一つ分以上の規模かもしれない。それが個人単位で使えちゃう。昼だろうと夜だろうと、こっちが起きてようが寝てようがおかまいなしに。こっちからは感知できない距離から。これがわかりやすい意味であったら最悪な魔法」

「…わかりやすい?」

 その説明だけでかなり危機感を煽られた瑞穂だったが、聞き逃せない一言があった。

「だって目に見える現象だからね。寝てるときはともかく、意識があってそれを認識出来れば避けるなり防ぐなり対処出来る可能性が出てくるし。本当に怖いのは、精神に直接影響を与えたり、環境を変質させてしまうような魔法かな。具体的な対抗策が今の私達には無い催眠や洗脳はもちろん、毒ガスを発生させたり、周囲を汚染させるような」

「…そんなのがあるのか?」

「無いことを祈りたいけど、こればっかりはあると仮定した方がいい。もし街に着いて調べて、そんなものは無いっていう結果だったとしても。だって、そんな危険な代物が表に出てるかどうかなんてそれこそわかんないんだし。ほら、地球だって魔法は無くても、それに近い生物兵器や化学兵器があるでしょ?表面上はそんなものはもう無いし作ってもいけないって言われてるけど、裏では秘密裏に~とかよく聞くじゃん。この世界にいる、文明を成している人達がどういう思考や思想を持ってるのかわかんない、っていうかそもそも人なのかな?まあ今は人だと仮定して、その人達が私達と同じ人であるなら、その数だけ悪意もある。魔法は、その悪意を分かりやすく手っ取り早く、個人単位で実現させてしまう力なの」

「…」

「…というのは本当に稀なケースだから、そこまで深く考えなくていいよ~」

「…んあ?」

 まるで世界の終わりを考えさせられてしまうような話しをしていたかと思えば、次の瞬間には気の抜けたような様子に様変わりしてしまう。

「今私が言ったのは本当に最悪のケースだから。そもそも、そんなものが溢れてしまえる世界なら文明の維持なんて不可能だろうし、きっと人類なんて滅亡しちゃってるよ」

「…ああ、そういうことか」

「お金があって街がある。それだけでこの仮定はある程度覆せるんだ。精神攻撃についてはともかくね」

「なら、この世界にあるかもしれない、その、現実的な魔法っていうのは?」

「…現実的な魔法って、なんか言っててちょっとおかしく感じちゃうけど…、やっぱり法則の一つとして捉えるのが現実的って言えるかな」

「法則か…」

「魔力、気、オーラ。言い方はいろいろあったけど、そういう不思議なエネルギーがあって、それを代償にして一定の手順を踏むことで様々な現象を引き起こす法則。物語に出てくる魔法はそういう形に集約されるかな。ある程度の制約やルールを設けないと際限が無いし、物語としてまとめるのが難しくなっちゃうからね。大切な人が死んじゃったけど魔法で簡単に生き返ったーとか、殺したい相手がいたけど簡単に殺せちゃったーとか、つまんないじゃん?」

「…確かに、物語としては何の面白味も無いな」

「ゲームでも強力な魔法を使うにはその分たくさんのMPが必要になるとかあるし。でも、魔法やそれに準ずる力が存在しているなら、そういう制約が無いと文明なんて成り立たないと思うんだよね。代償が大きかったり、手順が複雑だったり、現象には制限があったり、そもそも扱うことが出来る存在が少なかったり。敢えて言うなら、等価交換の法則ってあるじゃん?無から有は生み出せず、1からは1しか生まれない~みたいなやつ。そんな感じの制約が少なからずあると思う。…まあ、そもそも魔法があるかも定かじゃないから、これがただの中二病を拗らせた痛い妄想話になる可能性大なんだけどね~…」

「いやいや、今の俺達にとっては未知の異世界なんだから、そんな悲観的にならんでも…」

「そうなんだけどね~…。…この際だから考えてること全部話しちゃうけど、私が考える魔法っていうのは、火の球ばーんみたいなやつはもちろんだけど、単純なエネルギーとしての運用もあると思う」

「魔力とか気とか言ってたやつか?」

「そうそれ。よく主人公が、身体の中にある不思議な力とか、血とは違うもう一つの身体を流れる何か、みたいな感じで言ってるやつね。大気に漂う魔力っていう表現も多いけど。とにかく、そういうのを他人より上手く使いこなせたり、容量が圧倒的に多いのがチート系主人公のテンプレパターンね。そんで強い魔法をバンバン使って爽快に敵を圧倒していくの」

「…それだけ聞くと、ちょっと楽しそうだな」

「だから私もハマっちゃったんだ。そんで、そんな魔力とか気を身体強化、パワーやスタミナを上げたり、目や耳がよくなったり、身体の表面に纏って不可視の鎧にしたりする使い方が結構多くてね。火や水を出せるのは確かに便利だけど、こっちの方が応用が利くし、なにより目立たない。あ、これ超重要ね」

「…目立たないことが、か?」

「強大な力は争いを呼ぶ。古典的な言葉だけど、案外バカに出来ないんだよ。強い力があると知れば、欲望のためにそれを手に入れようとするか、恐怖を感じて排除しようとするか、羨望を抱いて頼るか。理由はいろいろあっても、結果争いに巻き込まれるのは変わらない。私達がチート持ちかどうかはまだわかんないけど、そういう意味も含めて目立つことは避けるべきだと思うんだ」

「…それについては同感だな」

「ってことで、なるべく目立たずに使える身体強化が使えたらいいな~と。…火魔法とか重力魔法も使いたいけど…」

「ぬ、重力だと?」

「あ、今のはただのロマンっていうか、本当に妄想の産物だからね?えっと、よくあるのは火、水、風、土あたりで、そこに氷や雷があるのが基本系。それに加えて光、闇、回復なんかがあって、特殊なやつで重力や時空、空間って感じかな。精霊魔法とか神聖魔法とか創成魔法とか契約魔法とか、もう挙げだすとキリがないんだけど、分類分けしていくとそんな感じになるの」

「…もしそれが全部あったら、覚えるのも一苦労だな…」

「仮に今言ったのが全部あったとしても、それを全て完璧に覚える必要はないって。自分が使えるものと、それぞれの特徴と、特に危険なものだけ知れれば困ることなんてないだろうし」

「俺からしてみればそれが難しいんだがな…。(瑞希のためなら苦にはならんが、…現状だと、全く想像がつかん…。手っ取り早く相手が目の前に出てくれればさっさと殺すだけで済むんだが、そういうわけにもいかんのだろうな…)」

「大丈夫だって!その辺のことは私が頑張るから!…ああ、そっか、その手があったのか…」

「…今度はなんだ?」

「学校だよ、学校!人が集まれば子供もいっぱいいるはず。しかも、今まで忘れてたけど、この世界って私達みたいな転生者がいっぱいいるんでしょ?だったら内政チート系主人公が教育関係の改革をしててもおかしくない!それどころか、司法や行政についての整備もやってくれてるんじゃないかな!?」

「が、学校?内政チート?」

「あ、そこからだよね。ん~、と、内政チート系っていうのはね?異世界転生モノの舞台の多くは地球で言うところの精々中世止まりなことが多いんだけど、そんな時代に現代日本の歴史と文化と知識を持った人が記憶そのままにタイムスリップしたことで、その時代や世界にはない先進的な技術とかを使って政治、行政、農業、工業、はたまた文化や文明そのものに影響を与えることで富や名声や権力を手に入れていくタイプのやつのこと。そんで、そういう人達は大抵一般人全体の質の向上に考えが向いて、日本なら当たり前にある学校を作ることが多いんだよ。もし一般人でも入れる学校があれば2人で入って、この世界のことやあれば魔法について堂々と学べるんだよ!あ、学生っていう対外的に分かりやすく通じる身分まで手に入っちゃうじゃん!調べ物は地道に聞き込みでやって行かなきゃとか思ってたけど、ちょっと希望が見えてきた!会話とか文字とか不安要素いっぱいだけど!」

「…あ~、瑞希さん?テンション上がってるところ申し訳ないんだが…」

「ん、どったの?そんな渋い顔して」

「…いやな、瑞希は普通にいけると思うんだが、俺が学校ってのはちょっと無理があるのでは…」

「へ?なんで?」

「いやいやいや、俺もう35だぞ?中身はともかく外見は、…自分で言いたかないが、十分おっさんだからな?」

「…あ、あ~、…そっか、…35歳、なんだ…。…まあ、こればっかりは自分じゃわかんないもんね」

「…?」

「おにいちゃん、たぶんかなり若返ってるよ?」

「…なんだと?」

「身長は私の記憶と同じだけど、顔の感じは、ん~…、22歳くらいのときのおにいちゃんに少しワイルドさとカッコよさがプラスされた感じ、かな?」

「…いや、その表現だと逆に分かりにくいんだが…」

「まあこの世界の人的にどう見られるかわかんないし、人里離れた山奥から出てきて右も左もわからないっていう設定にするから、たぶんイケると思うよ!それにほら、おにいちゃんカッコイイし!」

「…それを満面の笑みで言い切れるのは何故なんだろうな…。あと、最後のは余計だっ」

「あぅっ!う~、だからってチョップはしなくてもいいじゃん」

「兄からの正当なお仕置きだ」

「む~~っ」

「はぁ、まったく…――お、見てみろよ瑞希」

「む~~、ん?…、わぁ…――」

 苦笑しながら頭を抱えた瑞穂が視線を上に向けると、そこには夜空。

「…なんか、すっごいね…」

「あっちじゃまず見られないだろうな、こんなにたくさんの星は」

 明るくすら感じさせるほど無数の星々によって彩られた、満点の星空が広がっていた。

「…よっこいせ、っと――」

 瑞穂は徐に、芝生に直に座る体勢から上体を倒し、仰向けに寝転んだ。

「ふぇ!?」

 妹の肩を抱いたまま。

「おいおい、なんて声出してんだよ」

「あ、いや、えと、…い、いきなりだったから、ちょ、ちょっと驚いちゃって…」

 しどろもどろな様子で素っ頓狂な声についての言い訳を述べる瑞希の体勢は、兄に腕枕をされた、まるで添い寝のような状態。しかも瑞穂が軽く抱きしめているおかげで、身体は服越しとはいえ密着したまま。おまけに一緒の毛布で包まれているおかげで、余計に相手の体温を感じてしまう。つまり、

「(ちょ、いきなりこんなの反則でしょ!?確かに昔はこうして一緒に寝てたけど、中学校に上がってからはずっと別々で寝てたし、こっちの世界で目を覚ましたときのあれはいろいろと混乱してたからであって、こんな素面のときにこんなことされたら、さすがに私の身が持たないんだけど!?)」

 魔法についてそこそこ真剣に話していたおかげで落ち着いていた乙女の恋心の火は、瞬く間に燃え上がってしまうのだった。

「そうか?まあでも、ほら、こっちの方がよく見えるからな」

「み、見えるって…、…わぁ――」

 兄の顔を覗き見てみれば、その視線はこちらではなく天を向いており。

 それにつられて瑞希も空を見てみれば。

「――…星しか見えない…」

「正に大パノラマってやつだな」

 焚き火の明かりすら入らない視界に映るのは、満点の星空。ただそれだけ。

 ついさっき座って見たときと同じ空のはずが、こうして寝転がってみるだけで、こうも違って見えるのかと。

「…こんな風に星を見るなんて、いつぶりだろうな…」

「…おにいちゃん、なんでそんな定番の台詞で黄昏てるの?」

 互いに空を見たまま話す2人。

 瑞穂は苦笑のような曖昧な表情を浮かべ。

瑞希はそんな兄の表情には気付かず、僅かに微笑んで。

「実際に久しぶりなんだからいいだろ。というか、瑞希と一緒に見るのは初めてか。プラネタリウムとか天体観測はしたことなかったもんな」

「…確かに、そういうのはしたことないけど…。…一緒に、満点の星空の下を歩いたことなら、あるよ?」

「え、ほんとか?俺が瑞希と夜に出歩くなんてあったかな…?…コンビニに夜食買いに行った時は雪だったし…」

「(…バス事故のときのことは、やっぱりおにいちゃんの中ではノーカンなのかな?)…あ、もしかしたら夢の中で見たのかも」

「っはは、なんだそりゃ。なら、これが瑞希と見る初めての星空か」

「…そだね。ついでに、異世界で初めて見る星空だよ」

「ああ。…やっぱ、地球で見るのとはどっか違うんかね」

「ん~、どうなんだろ。星座とか星の配置なんかは全然わかんないから、なんとも言えないかな~」

「だよな」

「それに、太陽は昇って沈んだけど、この世界が地球と同じ球体の惑星なのか。自転はしてるのか。地動説と天動説のどっちが当て嵌まるのか。わかんないことが多過ぎて、考えようがないよ」

「…さすがにそこまでは考えてなかったな…」

「あはは。まあ、そういうことは別に今すぐ必要な情報ってわけでもないし、街に着いて、余裕が出来たら調べてみよっか」

「…そうだな」

「…」

「…」

 一度途切れた会話は、再開することもなく。

 焚き火の前でも感じた、心地良い静寂に再び包まれ。

2人は身を寄せ合ったまま、不思議と飽きの来ない星空を、無言のまま見詰め続けた。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


転生してからようやく1日が経過。

…どうしてこうなった…。

誤字脱字や設定の相違などが散見されますが、ある程度まとまったところで加筆修正を行う予定です。


果たして2人は森を無事に抜けて人里へと辿り着くことが出来るのか!

そんな物語の冒頭部分にいったい何話掛けるのか!

書き溜めが全くない、つまりは毎日が締め切り状態な現状では作者ですら予想出来ません!


…長い目で見ていただければ幸いです。

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おにいちゃん、世界救わなくていいの? なぼこ @nabokov

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