不思議な扉 ~世界の果てにあるリサイクルショップ~

うみ

第1話 不思議な扉

 世界にはとてもとても不思議な扉があるという。

 純真な心を持つ者が心から願うとその扉は現れる。そんなおとぎ話――

 

 激しい雨が降り続き、山の斜面に容赦なく打ち付けている。少年は雨にも関わらず、今にも崩れそうな細い細い山道を進む。

 少年の歳の頃は十二歳前後で、ピンと中央が尖った玉ねぎ頭に薄汚れた貫頭衣、腰を革の紐で結び、足には革のブーツを履いている。

 彼は背負子に大きな荷物を載せて、村へ戻る最中だ。容赦なく打ち付ける雨が少年の体力を奪っていく……

 

「はやく、戻らないと」


 少年は村で待つ母親と幼い妹の顔を想像し、ギュっと歯を食いしばり体に力を込める。

 二人は少年の帰りを待っている……彼はなんとしても背中に背負う荷物を届けねばならないのだ。

 

――その時、何かが崩れる大きな音がしたかと思うと、地響きを感じる少年。


「山崩れか!」


 少年は戻ることも進むこともできず、その場にしゃがみ込むとじっと地響きが鳴りやむのを待つ。

 しばらくそのままでいると、ようやく土砂崩れは終わったようで、少年は胸を撫でおろし大きく息を吐いた。

 

 少年は立ち上がり、再び村へと続く細い道を進むが彼の前に、大きな岩が立ちふさがる。

 道を覆いつくす土砂と岩……これでは進めない。

 

 少年は塞がった道の周囲を調べてみるが、右は崖へ続き、左は土砂で進めない……これではいつ進めるようになるのか分からず、ましてや街に戻る体力は少年に残されてはいない……

 

 僕はどうなってもいい、せめてこれを、これを村へ届けたい。少年はそれでもあきらめず前を向く――

 

――銀色に金属光沢を放つ重厚な両開きの扉が忽然と少年の前へ現れる。

 

 ひょっとしてこれは、幼い頃おとぎ話で聞いた「不思議な扉」では? 少年はそう考え一縷の望みを持ち扉を押し開く。

 

 扉の中は街でも見たことがない高級そうな調度品が置かれた喫茶店風の部屋だった。

 天井はロウソクも無いのに光り輝き、おかれたテーブルはありえないほど正確に円形に切り取られている。喫茶店の奥にはカウンターがあり、そこには一人の青年が柔和な顔で少年に微笑みかける。

 少年には青年の服がこれまた見たこともない高級品に見える。上質な絹でできたかのような真っ黒のジャケットに真っ黒のズボン。ジャケットの下には、これまた絹なのかよくわからないが、真っ白のボタンシャツを着ている。

 もう何もかも凄すぎて少年が固まっていると、店内の青年は彼に声をかける。

 

「リサイクルショップへようこそ。私はタケルといいます」


 青年――タケルはペコリと頭を下げ、少年に座るように促す。

 しかし、少年は首をブルブルと振ってタケルに、

 

「いえ、おいら濡れてますし、こんな高そうな椅子に座れません」


 と言い返す。

 

「お名前は何と言うんですか?」


「おいらはトミーと言います」


「ふむ。トミーさん、何かお困りなんでしょう? だから、あなたは扉をくぐった」


 タケルは上品な仕草で顎に手をやり、トミーをじっと見つめる。

 

「はい。この荷物を村へ届けたいんです。でも、道を岩が塞いでしまって進めないんです!」


 少年――トミーは捲し立てるように言うが、タケルは落ち着いたもので「ふむ」と呟く。

 タケルは優雅にゆっくりと歩を進め、カウンターの下から何か箱のようなものを取り出し、トミーの前まで歩いて来る。

 

「トミーさん、どうぞ」


 タケルはトミーに銀色に輝く手のひらサイズの四角い箱を手渡すと、彼に微笑む。

 

「こ、これは?」


「いいですか、その箱には赤いボタンがあります。ボタンを押したら障害物の前に置いて、じゅうぶんに箱から距離を取ってください」


「は、はあ」


「幸運を祈っておりますよ。勇敢な少年さん」


 タケルは芝居がかった仕草で胸に手をやると、お辞儀をする。

 トミーはタケルと彼からもらった銀色の箱へ交互に目をやると、意を決したように元来た扉をくぐる。

 

 扉から出ると、先ほどまでトミーが居た大岩の前だった。

 

 ええと、箱の裏にある赤色のボタン……トミーは銀色の箱をひっくりかえしボタンを探すと、人差し指でそのボタンを押し込み、急いで大岩に銀色の箱を乗せる。

 

 い、急いで離れないと……トミーは先ほどタケルが言っていた言葉を思い出し、大岩に背を向け走り出す。

 しかし、彼は大きな荷物と雨でぬかるむ地面のせいで、派手にすっころぶ。

 

 その時、大きな音がしてトミーの上にパラパラと岩の破片が降り注ぐ!

 幸運にも怪我がなく、立ち上がったトミーは砂埃にむせながらも、後ろを振り返る――

 

――大岩が土砂ごと無くなっている!


 彼は大喜びで、タケルに心の中で感謝し村へと急ぐのだった。

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