第25話 『ロケットペンダント』
_____私は公立の高校に行って、バイトなんてした事はなかったから、バイトというものがこんなにも辛いなんて思わなかった。まだ数日しかやってないのに脚が筋肉痛になってしまった。でもバイト自体は、色々な人と話したり出来るし、冒険者さんにはどんな冒険をしたかとか聞けるし、みんな楽しそうにしてると私たちも楽しくなってくる。
でも気になる事言ってた人もいたなあ。この大陸はお鍋に支配されているだとか、変なお爺さんが言っていたし、あとこの世界は大陸が五つしかないだとか言ってた冒険者さんもいたし。
それはさて置き、今日も仕事の始まり。とは言え夜に出すスープの煮込みとか、野菜を切っておいたりお肉を解凍したりとかそのくらい。掃除はガイルさんがすぐに終わらせてくれるから私たちがする事はない。
スープは町の八百屋さんから買ってきた野菜や、ガイルさんが農家さんから直接買った野菜を大量に煮込んでいる。みんな私たちの知らない野菜ばっかりで、白いさつまいもだったり紫色のレタスなど、食べろと言われても気が引ける野菜ばかりだ。
でも口に入れてみると、私が食べてきた野菜と味はそこまで変わらない、というかこっちの方が美味しいと思えるくらいだ。
日本の農家さんと言えば、外国のように農薬を大量に使ってはいない野菜を作っている農家さんの方が多い。しかし、最近農家さんが減ってきている事もあるからか、自給率が高い物は高いけど低い物はとことん低いって学校で習った。それにどちらかと言えば輸入している方が多いそう。
でも、この世界の農家さんはみんな、農薬を使わずに、一つ一つ丁寧に精魂込めて作った野菜らしいので美味しいし、自給もそれぞれの大陸で出来ているらしい。そもそも農薬という概念自体無いらしい。
そんな事を考えながら、私の武器でもあるどデカイおたまで、大鍋に入ったスープをかき混ぜる。
出汁はサン町で作っている【さんこんぶ】で旨味の成分を引き出したり、一日ごとに味を変えたりしていて違う味が楽しめる為、飽きる事がほとんどない。
今日はトマトスープだ。
「スープ作り終わりました!」
作り終わった頃にはもうお昼を過ぎていた。ああ、お腹空いたなあ。今日のお昼は何だろう?昨日は試しに色々なお菓子作って食べたりして、それだけでお腹いっぱいになっちゃったけど、さすがに今日はちゃんとした料理が食べたいなあ。
「終わったか。じゃあ昼飯にするか。俺が作るから先に座ってていいぞ」
ガイルさんがキッチンに入ってきて、袖を捲り冷蔵庫から、少量の野菜とスパゲティ用の麺を取り出した。
メルちゃんはもう野菜を全て切り終わっていたらしく、席に座って待っていた。メルちゃんの隣に座り椅子の背もたれに寄りかかる。
一つ疑問に思った事があるのだけれど、この世界にはお米は無いのかな。さすがにパンと麺の繰り返しだと飽きてくる。
農家さんにお米でも作ってもらおうかな。お米があれば料理のレパートリーが増えるし、それにみんな魅了されていくだろう。この世界を作った人は、なぜこんな大事を見過ごしてしまったのか。
「できたぞ」
私が座って数十秒後、ガイルさんがスパゲティの入った皿を四つ、器用に持ってきた。
「相変わらず早いですね・・・」
「まあこんなもんさ」
そう言い、自慢げに胸を張っている。確かにこれくらいは朝飯前、いや昼飯前なんだろうけども、それでも水を沸騰させる時間とかどうやって短縮しているんだろう。そういえばガイルさんが料理をしている所を見た事がない。
メルちゃんはフォークを使い、目の前に運ばれてきたばかりのミートソーススパゲティをもう食べている。
「ん?マミはどうした?」
そういえば昨日から見ていない。まだ部屋で休んでいるのかな?
プリンはカグラさんとお兄ちゃんに一つずつあげたから、あと一つマミさんの分は残してあるし、一応昨日、部屋の前で「プリン冷蔵庫にあるので食べてみてください」って言ったけど食べられていない。もしかしてあの時寝てたのかな。
「まだ寝ているのかもしれないですね。私見てきましょうか?」
「ああ、頼んだ」
そして二階に上がって、マミさんのいる部屋の前に立ち止まり、手で扉を三回ノックする。
・・・反応はない。やっぱり寝てるのかな?
扉に耳をあててみると部屋の中からいびきが聞こえた。
ぐっすり寝ているみたい・・・今起こすのは悪いかな。でもご飯は食べなきゃだし、止む終えない!
扉を勢いよく開け、マミさんの寝ているベッドに近づいた。
「ぐぅぅ・・・すぴー・・・ぐぅ」
マミさんは寝返り、こちらの方を向いた。
その時、マミさんの手から金属製の長丸いロケットペンダントが下に落ちた。
何だろうと思い、ペンダントの中身を見てみると、小さい写真が入っていた。
これは・・・家族写真・・・?
そこには右に背丈の高い男性、反対には背中に白い羽根らしい物が生えている女性、真ん中には左の女性にそっくりな女の子が写っていた。後ろには海らしいものが写っているので、おそらく家族の旅行などで撮った写真なのだろう。
てか、カラー写真撮れるんだ。
私はロケットペンダントを後ろにある机の上に置き、マミさんを揺らして起こした。
「ご飯ですよ!」
割と強めに揺らすと、気づいたみたいでゆっくりと目を開けた。
「あ、おはようございます・・・ふわぁ、よく寝たあ」
大きなあくびをして、ベッドから立ち上がり、体を伸ばした。
何というか、よく寝すぎですと言いたいくらいだ。昨日帰ってきてからずっと寝てたとすると丸一日くらい寝てた事になる。そこまで疲れていたのだろうか。
「あれ?私のペンダントは・・・」
「あ、落ちていたので後ろの机の上に置いときましたよ」
「あ、ありがとうございます。・・・あの、もしかして中身見ました?」
な、何で見抜かれたの!?ここは正直に言った方が良いのか、言わない方が良いのか。
私がおどおどしている姿を見て、見たのが分かったらしく、机の上のロケットペンダントを手に取り、またベッドに腰を掛けた。
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