第24話 『プリンを作ろう』

 その後、私たちは歩いて来た道を戻り、ザトールに帰って来た。酒場に着くと、静かな空間でガイルさんが椅子に座って考え事をしていた。


「お、帰ったか。で、どうだった?」

「あ、何とか取れましたよ」


 マミさんがポーチから液体の入った瓶を取り出し、テーブルの上に乗せた。

ガイルさんは少し驚いた顔をして瓶を掴み、中身をじっくりと見ている。


「まさか本当に取ってくるとはな」

 取れないと思っていたのだろうか。結構簡単に手に入りましたけども。

「マミさんが頑張ってくれたおかけで」


 と言うと、マミさんは申し訳なさそうにしていた。街での魔物の件と言い、バニラゼロの件と言い、全てをこなしてくれたのはマミさんだ。私たちは何もしていないのに、何故そんな申し訳なさそうにしているのか。


「まあそれはそうと、メルはどうしたんだ?」


 背負っていたメルちゃんを見ている。なんて言ったら良いのか、疲れたらしいので背負って来ましたと言おうか。

もう歳だからとでも言おうか。


「あ、着いたの?」

 今の今までずっと寝てたらしく、目を覚まして私の背中から降りた。そして椅子に座りまた寝始めた。

それにしてもよく寝る。寝る子は育つというけれども、そこまで育っているようには見えない。

・・・私よりは大きいけれども。


「私も疲れたから少し寝ます」

マミさんはそう言い、階段を登って自分の部屋に向かって行った。なんて自由な面子なんだろう。

「・・・試しにプリン作ります?」

「あ、ああ」


 一部始終をノンストップで見ていたガイルさんは口を開け唖然としていた。

とりあえず私は瓶を持ちキッチンに向かう。あ、そういえばバニラを持って来たのはいいけどバニラオイルとかの作り方がわからないんじゃどうしようもないじゃない!この世界にはスマホという超便利な機種が存在しないから検索する事もできないし、どうしよう。


「バニラオイルは俺が作ろう。一応作り方は知っているんだ」

「じゃあお願いします!」


 瓶をガイルさんに渡して、早速作ってもらう事になった。

そういえば結構前に、お兄ちゃんにバニラアイスを作った事あったなあ。あれ?でもバニラって元々植物だったような。そこから取れる種子がバニラビーンズで、それを溶かしてバニラエッセンスやバニラオイルは作れるって植物と料理が大好きな友達から聞いたような。でもこの世界では液体の方が原材料となっているから・・・だめだ。考えれば考えるほど頭がおかしくなりそうになる。

とりあえず今はガイルさんに任せてプリンの作り方を思い出そう。

 ずっと前、調理実習の前日にプリンの事を猛勉強して得た知識を今ここで使うのだ。

カラメルソースはやっぱり欲しいよね。あ、でもデンジャラスエッグの蜜があるからそれでいいかな。

次にプリン液も作らなきゃいけないよね。


「できたぞ」


ガイルさんが持ってきたのは小さいボウルに入った白い液体だった。

「あれ、白いんですね。バニラオイルって」


 ガイルさんは首を傾げている。

何かおかしい事言ったのかな?


「いや、これは普通だぞ」


 この世界のバニラオイルは元世とは違うらしく、真っ黒ではなく真っ白な液体らしい。

バニラの香りは変わらず、そのままだと鼻につんとくる甘い匂いだ。


「で、では、作りますね」


 渡されたバニラオイルを台の上に置き、砂糖と卵と牛乳をそれぞれ冷蔵庫や棚から取り出し、台の上に乗せた。

さあ作ろう!


【カラメルプリン(7cmくらいのカップ6個分)】

一、プリン液は小鍋で作ろうと思います。まずは卵を割り、ボウルに入れよくほぐしておきます。次に小鍋に牛乳と砂糖を70g、バニラオイルを少し入れ弱火にかけます。砂糖が溶けたら小鍋に入っているプリン液をボウルの中に入れ、よくかき混ぜます。

二、ボウルの中に入っているプリン液をこし器などで裏ごしして、なめらかになったらプリン型の容器に流し入れます。

三、それらを天板の上に乗せ、熱湯を型の半分くらいまで注ぎ込んでから150度ほどのオーブンで20分くらい焼きます。焼いたら取り出して少し冷まします。

(ここでワンポイント!焼く前の、天板に乗せる際に、その下にペーパータオルを敷くと、熱が直接型に触れないため、均一に熱が通るようになります!あとカタカタもしなくなります!)

四、冷めたと思ったら、プリンを取り出しやすいように型の内側にナイフでも入れて、落ちやすいようにしてから、皿の上で裏返します。


《補足》

本当のところは、最初にカラメルソースを作り、型に入れて冷やし、その型に後からプリン液や熱湯などを注ぎ込みたかったのですが、今回はあまーい蜜があるという事で、その過程は無視しました。


終了!


「できました!」

「割と簡単にプリンって出来るもんなんだな。俺てっきり丸一日とかかかるんじゃないかと思ってた」


 やはりプリンの価値は高いらしく、偏見がだいぶ大きくなっているらしい。おそらくガイルさんのように思っている人がまだいっぱいいるだろう。

さすがに6個も食べる事は出来ないので、3個は冷蔵庫にしまった。残った3個のプリンに蜜をかけ、メルちゃんの寝ているテーブルに持って行った。

近くに漂う甘い匂いに気づいたらしく、勢いよく起き上がった。

その衝撃で机の上に置かれたプリンは滑らかに揺れる。


「プリンの匂いがする!」


 机の上を見たメルちゃんは嬉しそうにスプーンを受け取り、早く食べたそうにしている。

私特製のプリン、美味しいかどうかは分からないけど気に入って貰えると嬉しいな。そういえばマミさんは呼ばなくてよかったのかな?今回の件でお世話になったのに。でもまだ3個あるし、あとで食べてもらうことにしよう。


「いただきまーす!」


我慢ができなかったようで、メルちゃんがスプーンでプリンをすくい、口の中に入れた。

そのまま時が止まったかのようにスプーンを口に入れたまま固まってしまった。

「ど、どう?」

スプーンを口から出して、私の方を見た。


「これ、私が前食べてたのよりも美味しい!プリンを口に入れた瞬間に、口の中でとろけて、蜜の甘さに負けず、プリンの甘さも同時に味わえるし・・・すごいよ!」

 メルちゃんが真剣に食レポをしてくれたという事は、おそらく本当に美味しいのだろう。

私も食べてみよう。


スプーンを手に取り、プリンを口の中に運んだ。


 ・・・確かに美味しい。

メルちゃんの言っていた通り、プリンの甘さが蜜の甘さに負けていなく、うまくマッチしているようだ。

ガイルさんの顔からも少しばかり笑みがこぼれた。


「これも採用だな。バニラオイルに関してはどうするかは後で検討する。で、最後のパフェなんだか、もう俺が作っておいた」


 そう言い、キッチンからパフェを持ってきた。

トッピングは下から順にナッツ、チョコレートシロップ、マンゴーに小さく切られたメロンが対象に二つ、その上にホイップクリームだ。私たちの知っているパフェはウエハースやらトッポやら色々乗ったりしているが、さすがにこの世界では無い。

でも何かが足りない。

・・・そうだ。


「アイスとかも入れません?」

「お、それいいな。だとしたらバニラエッセンスも作るか」

そうこうしているうちに、お兄ちゃん達も帰ってきて、私たちのバイトも始まり、大変な一日が終わった。

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