第23話 『バニラゼロ』
橋を渡りバニラゼロのいる陸地に来た。しかし相当な数が浮遊している。十・・・いや百匹以上いるかもしれない。
「これどうやって倒すんですか?」
「そうですね・・・袋で集めて火炙りにして成分抽出までやっちゃいます?」
普通に言ってるみたいだけど言動はだいぶ異常である。
そもそもバニラゼロって火で炙って成分抽出できるんだ。元世ではどうやってバニラを作ってるのかな?
「あ、私知らないのでマミさんに任せますね」
マミさんは頷いて微笑み袋を手から創り出した。ゴミ袋くらいの大きさの袋をいくつもいくつも創り出す。
「わー、かわいい」
メルちゃんがいつの間にかバニラゼロに近づき指でツンツンとしている。確かに目も体も丸くて可愛いし、本当に近づき難い敵なのだろうか。どちらかというと近寄りやすい敵に見えてくる。
「さて、袋で取りましょうか」
手渡された袋を広げ、浮かんでいるバニラゼロを数匹包み込む。
何の抵抗もなく、すぐに数十匹集まったけど、今のところ白い粉とか何もかけられていないし、全く危険とは思えない。
「あれ、バニラゼロが一箇所に集まってる?」
前を見ると、先ほどまで周りにいたバニラゼロが全てを一箇所に集まっていた。その光景は奇怪なもので、白い丸がいくつもいくつも密集をしている。
そして、一つになった。
「あ、あれは・・・!」
重なったバニラゼロは大きな丸になり、小さい手と足が生えてきた。
それでも可愛いけど、油断は禁物、さっきよりも違うオーラを感じる。
「レベルがゼロの時より桁違いに高い!取った分だけ持って逃げましょう!」
マミさんが袋をいくつか持ち、橋に向かって行く。私も早く行かないと・・・ってメルちゃんは!?
後ろを見ると、メルちゃんがバニラゼロたちに捕まっていた。
「マミさん!メルちゃんが!」
「戦うしかないみたいですね・・・!」
持ってた袋を全て置き、バニラゼロの群れに立ち向かう。でもこの人質を取られている様な状況でどう戦えばいいのだろうか。メルちゃんは気を失っているみたいだし、バニラゼロはその場から動こうとしない。大きな魔法をうったらメルちゃんが巻き込まれるし、近接でも盾にされる可能性があり、攻撃ができない。
「どうしたらいいの・・・」
隣を見ると、マミさんがまたあの光り輝く槍を創り出していた。
「私がやります!なつめさんは下がってて!」
「は、はい!」
そう言うと、バニラゼロに槍を持ったまま、何かを唱えながら近づいている。
「煌めき燃え盛る炎の熾天使セラフィム、
この大陸に住まいし悪意無き心パミル、
私に全ての力を呑み込ませてください!」
一体何の詠唱をしているのだろう。
詠唱を途切れ途切れにする度に光が強くなっていくのが見て分かる。
パミルって、この大陸の事だよね・・・でも住まいし悪意なき心って・・・?
「クルトラルカルク!」
バニラゼロの前で立ち止まり、槍を地面に突き刺し、聞いたこともない言葉を大声で唱えると光がバニラゼロの周りを囲む。
この光景、町で見たのと同じだ。
光に包まれたバニラゼロは苦しみだして、気を失っているメルちゃんを地面に落とした。
しかし落ちる前に光がメルちゃんを優しく包み込み、私の隣まで運んできてくれた。
そのまま、バニラゼロは消滅してしまい、マミさんの目の前には液体の入った大きな瓶が一つ置かれていた。
そして光り輝く槍を消し、瓶を持って私たちのところに近づいてきた。
「無事で何よりです」
さっきよりも元気そうな顔をしていた。
「あの・・・今のは?」
「クルトラルカルク、敵の体力を全て奪う魔法です」
全て奪うだなんて、そんな魔法が存在するのは少し怖い。
でもその魔法を使える人が味方にいるのはとても心強い。
しかし、とんでもない魔法を覚えているのに、何でこんな所でのほほんとしているのだろうか。普通ならマミさんが勇者になる立場にあるんじゃないのだろうか。そんな事を思いながら、気を失っているメルちゃんを背負った。
「そんな凄い魔法を覚えているのに、探偵をやっているんですか?」
「・・・帰りましょうか」
聞こえていたはずなのに、マミさんは俯きながら答え、バニラゼロの入った袋の空気を抜き、バニラゼロを全て手で潰していった。潰したバニラゼロからは、白い液体が出てきた。その液体を大きな瓶に全て入れ、ポーチに瓶を入れた。
そのまま螺旋状の道をまた登っていく。
静かに歩く私たちの耳には川の水が下に落ちる音とその水が吹き出される音しか聞こえなかった。
あれ・・・?さっきまで無かったのに、微かに潮の香りがする?
でもここは川の水しか流れていないはずなのに・・・何でだろう。
暫くすると、潮の香りが消えてしまって、また匂いの無い空洞に戻ってしまった。
螺旋状の道を登り、元の道に戻り洞穴から出た。その間私たちはずっと静寂の暗闇に包まれているだけだった。
「あー眩しい!」
雲一つもない快晴で、今まで暗い洞窟の中にいた私たちを、真上のにある太陽の暖かい光が照らしてくれる。その光に気づいたメルちゃんが目を覚ました。それに気づいた私は、メルちゃんを背中から降ろそうとすると、メルちゃんは脚を私のお腹の前で組ませ、腕で私をがっしりと掴み降りようとしなった。
「め、メルちゃん?」
「疲れたから町に行くまでこうしてたい」
我儘なおばあちゃんだなあ・・・でも、そんなに疲れたかな?
私たち何もしてない気がするのだけれども。
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