第26話 『昔話と今話』
マミさんは一息つき、私の手を取り横に座らせた。
「今から昔話をするから、よく聞いててね」
いつもの元気な口調とは違う、まるで母親が子供に向かって話す時の優しい口調で言った。
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昔々、ある大陸で、絶対に恋をしてはいけない関係の男女が恋をしてしまいました。
その二人は魔物と人間という立場をとりながら、深夜に二人で、星がよく見える高い丘の上で毎日のように会っていました。
しかし、それを気づいた神様は、二人を会わせてはならないという事で、二人を完全に引き離してしまいました。
魔物の女性は、男性に会えないといつもいつも啜り泣き、男性はいつもいつも高い丘の上で哀しげに空の雲を見ていました。いつか会えると信じて。
それを見た神様は、さすがに可哀想だと思ったのか、二人を一年に一度だけ会えるようにしました。
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「おーい、まだかー?冷めるぞー」
ガイルさんが一階から大きい声で私たちを呼んでいる。
「この話の続きはまた今度しますね」
そう言って、大声で返事をして部屋から出て行った。
今の話、展開が何かの話に似ている気がする。・・・そうだ、確か七夕の話の、織姫と彦星みたいな感じだ。織姫と彦星は恋に落ちて、結婚したんだけど、楽しくて二人でいる事が多くなってしまい、織姫は機織りをしなくなり、彦星は牛の世話をしなくなってしまったので、神様が天の川の東と西に引き離したんだっけか。で、織姫が仕事をちゃんとする様になったけど、毎日毎日涙を流し、彦星はとても落ち込んでいたから、それを可哀想だと思った神様が「仕事をちゃんとするなら、一年に一度、7月7日に天の川を渡って会ってオッケー」って事でちゃんと仕事をしながら会えるようになったんだよね。
でも、魔物と人間の恋って・・・まるで違う気がする。
「なつめー。なつめの分私食べちゃうよー」
「あ、だめだめ!」
メルちゃんの言う事は、食べ物に関しては全く嘘をつかないから、早く行かないと本当に食べられてしまう。
立ち上がり部屋を出て、駆け足で階段を降り、ギリギリ間に合い、食べられずに済んだ。食べ終わった後、ガイルさんが何十枚も紙を持ってきて、綺麗になった机の上に置いた。
「明日からカフェを開店するから、この宣伝紙を町の至る所にある掲示板に貼ってきてくれ。あと酒場の壁にもな」
置かれた宣伝紙見てみると、ただ大きく『酒場で12時から18時までカフェやります!』とだけ書いてあった。最初見た時のアルバイト募集中と同じ、シンプルすぎて何の刺激もない。せめて何があるのかくらいは書こうよ・・・
「あの、バニラっていっぱい使いますよね?複製コピーなら何でも出来るので、いっぱい作ります?」
「お、できるなら頼むぞ」
複製コピーは何に対しても使えるんだ。
「それじゃ、二人で行ってきてくれ」
私たちは紙を半分ずつ持ち、外に出た。まずは酒場の壁に貼る。二枚くらい貼っちゃおう。
そういやこの町の構造知らない気がする。地図とかで見る事できるのかな。
ポーチにくっつけてあるブックを取り、地図のアイコンをタッチすると、大陸の地図が表示された。ここでザトールの町をタッチすると・・・できた!ザトールの全体マップだ!
ザトールの町は、真ん中には最初に来た木漏れ日の広場があり、そこを軸にして店などが東西南北に連なってできている。東と西は門が無く、完全な住宅街みたいになっていて、町の北東、北西、南西、南東の端にはそれぞれ丸い広場が。小さい路地もたくさんあるようで、結構入り組んでいた。
「あ、ここ私がカナタに会ったとこだよ」
と、指をさしたのは北西の広場。会った時はシークレットブーツ履いたりフードを被ったりなどをしていたと昨日お兄ちゃんに聞いた。そしてこの前会った酔っ払いの人たちとその時戦った事とかもね。
「そういえば、メルちゃんって何で仲間になったの?」
「うーん、友達が欲しかったからかなあ」
もう友達が欲しいと言える歳でもないだろうに。それより84年間も友達がいなかったというのは何よりも驚きしかない。一体どこにいたら84年間も友達ができないのだろう。
その時、北門から馬車が一台、ゆっくりやって来た。
「なつめ!こっち来て!」
メルちゃんは私の手を引き、小さい路地に入った。私たちがいた大きい道を馬車はゆっくりと通って行く。馬を操っていたのは、黒いタキシードを着た年配の男性で、豪華な馬車の中にいたのは、紫色のとんがり帽子を被った綺麗な女性だった。
「メルちゃんどうしたのっ・・・」
「しっ!少し静かにしてて!」
私の口を手で押さえて、隠れるように屈み込んだ。馬車が完全に通り過ぎるのを見ると、口を抑えるのをやめて、大通りに戻った。そして、ホッとしたのか、メルちゃんは深呼吸を一回した。
「どうしたの?」
メルちゃんは腕を組んで顔を下に向けたり、頬杖をついたりなど考えている仕草をしていた。一体何を考えているのか分からない。そして何かを決心したかのように私の方を見て話し出した。
「あれ、私のお母さん」
「え、そうなの?」
そこまで驚く事ではなかったけど、そんなに悩んでから話すものなのかな?
「アクスフィーナ家って知ってる?」
「一応知ってるけど・・・まさか」
「うん。私はアクスフィーナ家の一人娘なんだ」
滝に来た時、アクスフィーナ家はこの町を統治している一家だってイリアさんから聞いてた。だとしたらバリバリのお嬢様じゃないの!だからこの世界ではお高いと言われている、プリンの味を知っていたのか。まさかガイルさんもそれを気づいていて、敢えてメルちゃんに話を振ったのか!
あの時、カウンターに乗り上げてまで口を塞いだ理由も一気に解決した。
「最初から教えてくれればよかったのに」
するとメルちゃんは俯いて、後ろで腕を組んだ。
「変に特別扱いとかされたくなかったから、言わなかった・・・」
確かに、普通だったらみんなお嬢様がいるお嬢様がいると思い、頭を深々と下げたり、跪いたりして敬意を表すに決まっている。
「メルちゃん・・・私たちはそんな事はしないから」
メルちゃんは少し顔を見上げて、私を上目づかいで見た。
「・・・本当に?」
「うん。根拠はないけど、私たち仲間なんだから、仲間を特別扱いするなんて事ないよ」
歳に関して私たちは尊重しなければいけない立場なのでしょうけど、でも今は小さい事気にしていられないよね。メルちゃんの目は潤んでいた。それと同時に笑顔を見せてくれた。
「じゃ、気を取り直して宣伝紙貼りに行こうか!」
メルちゃんは大きく頷いた。
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