第2話 『無才と天才!』

ザトール・・・町の人に話しかけると、様々な事を教えてくれる。


 経験値について、ステータスの上昇について、あとは武器防具の壊れ易さとか・・・


ほんと最初の町って感じ。


「えっと、占い師の館・・・ってここか。」


綺麗なようで何か不気味な気を発している館がそこにはあった。

玄関付近には観葉植物が同じ種類のものが、左右対称に並べられており、壁は紫の塗料で塗られ、その壁にはピカピカの窓が取り付けられている、この町にはあまり馴染まない木造の館。


ただ、なぜか玄関の扉だけは現代風の黒い扉なのはなんで・・・


「なつめ・・・お願いがあるだけど・・・」

隣にいる兄が、少し声を小さくして私に話しかける。

「なに?」

兄の方を見ると、腕でバッテンを胸の前に作っている。

「俺コミュ障で館の人とあんまり話せないし、第一話したくないから、お前が先に入って話をしてくれないか?」

次は手を合わせてお願いの仕草をする。


呆れた・・・

 どうせそんなことを言うだろうと思ったよ。

でもいつもの事だし、仕方ないと言わざるを得ないかな・・・


「・・・わかったよ。」

呆れながらもため息をつき、頷く。


タラランポラーン♪


 玄関を開けると、綺麗な音がした。

扉に音が鳴る木琴の様なものを取り付けていたらしく、扉が開いたり閉まったりすると、その衝撃で鳴る仕組みらしい。


 中は割と広く、外装通り変な雰囲気を醸し出している。部屋の奥には木で作られた机があり、その机の上には本がたくさん、机の後ろには所々隙間のある本棚があり、机の前に には高級そうなソファー対象に並べられ、その間にガラス張りの机が置いてある。


横には右側に二階に上がる階段、左側に違う部屋に続くドアがあったり、コーヒーメーカーが上に置いてある木製の物入れや、ガラス張りの物入れがあった。


部屋の様子から言うと、まるで学校の校長室みたいだ。


ただ、光が差し込む場所がほとんど無く、明かりは上についている紫色のライトだけなので、部屋の中は明るくはなく、どちらかと言うと薄暗い。


こんな空間にいて暗い気持ちにならないのかな。


「あら?誰かしら?こんな時期に珍しいお客様ね。」


「あ、どうもおはようございます。」


中に入ると、20代くらいだろうか。

紫色の綺麗なローブを着た、茶髪セミロングの綺麗なお姉さんが左側のドアから出てきて、私たちに気付いたみたいで、こちらに来て話をかけてきてくれた。

よく見ると胸もだいぶ大きいじゃないの。羨ましいなぁ。



「随分若そうな子がきたわね~。で、その後ろに隠れている男性は?」

そりゃ私の後ろに隠れたってバレないわけない。

私よりも身長が高いし、それに体だって大きい。


「あ、私の兄です。」

「ふむふむ。どうもおはようございますね。」


「あ、お、おはようございます・・・」

兄は少し笑顔で返事をしたが、

こんな普通の何気ない会話でさえも噛んでしまう兄をとても情けなく思ってしまう。


「えー、それで君たちは何故ここに?」

その女性は部屋の奥にある机に向かい、そのまま椅子に腰掛ける。だいぶ長く使っているらしく、椅子が軋きしむ音がした。


「その、私たち、自分のタレント能力が分からなくて・・・」

恐る恐るタレント能力の事を聞く。

「それで教えてもらいにここに来たと?」

「そうです。えーっと・・・」


そう言えば名前が分からなかった。

「イリアよ。」

「イリアさん!では、教えていただけませんか?」

イリアさんは私の聞きたい事を分かってくれたらしく、自分の名前を教えてくれた。


「いいわよ~。二人とも一回こっちにきて。」

イリアさんが手でこっちこいこっちこいという仕草をするので、私たちは足早に机に向かう。

「じゃあ始めるよ。」


_______これより、この者たちの手筋を計る。さあ、星の精よ!我に教え給え!


イリアさんはそう唱えると、何者かに話を聞いているかのように目を閉じ、頷き、その後私たちに教えてくれた。


「えーっと、なつめさん。まずあなたから教えるわね。」


「あなたのタレントは【極☆ヒーラー】よ。」

ネーミングセンスはひどい。だけど、何か良い能力っぽい感じがする。


「極☆ヒーラー・・・?それは一体どんな能力なのです?」

すこし期待をふくらませて聞いてみる。


「まぁ、簡単に言えば、回復のプロになれる才能があるって事かしら。かなり需要あるわよ。」

笑顔で優しく応えてくれて、少し嬉しくなった。


「なるほど・・・」

私にもこんな才能があったなんて・・・嬉しい。

小さい頃から看護師を夢見ていて良かったと思う。


そして、兄の方を向き、私の時とは違い、真剣な眼差しで話をする。

「で、そこのあなた・・・えー・・・カナタくんね。君のタレントは【皆無EX】よ。」


皆無EX!?何かお兄ちゃんのめちゃくちゃ強そうなタレント能力じゃない!?


「そ、その、皆無EXってどんな能力なんですか?」

兄もおそらく期待をふくらませていることだろう。

体がウズウズしているのが、一目見れば一目瞭然である。


「これは・・・!素晴らしい!!!」

イリアさんが驚いた様な表情で話す。


え!?そんなすごい能力なの!?


「なんとも珍しい!」


そこまで言い切るとは・・・そんなにすごい能力なのかな?


「この異世界ではかなり珍しい・・・タレントが一切ない者にのみ与えられるタレント・・・要は特に何も無い。」


「え。」

兄は絶句した。目を丸くしてただただ呆然とし立ち尽くしている。



_____そんなすごくなかった。


我に帰り、唐突に兄は話し出す。


「才能がないことが才能ってなんだよ・・・長所がないのが短所ですみたいなさ・・・それに、この世界でも俺は差別されるのか。」


「元々差別何てされてないでしょ。」

私は的確にツッコミを加える。


といっても不思議。

なんで私たちの名前が分かったんだろう・・・何か唱える時に星の精とか何とかって言っていたような・・・それと関連性が?


「あの、質問なんですけど、何で私たちの名前教えてないのに分かったんですか?」

早速疑問を投げかけてみる。


「そうねぇ、言葉で言うのは難しいんだけどね・・・まぁ教えてあげるわ。」


そして、イリアさんは自分のブックを取り出し、自分のステータスを見せてくれた。

するとそこには、HPの下にMPではなく、SPという略語が表示されていた。

◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯

 私たち占い師は【星の力(StarPower)】を操り様々な事を占ったり、人の能力を見たりなどができるの。もちろん、その力を活かして戦闘もできる。


あとね、私たち占い師は各々で【星の力で動かせるモノ】を最初に一つ決めさせられる。まぁ一番人気なのはぬいぐるみだけどね。

もちろん私はぬいぐるみよ。そこのガラス張りの物入れの中に置いてあるやつ。

 後ろにある物入れを見ると、ワニのぬいぐるみがあり、イリアさんはそのぬいぐるみを、少し動かして見せてくれた。

◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯

 ・・・ということはもしやこのウサギのぬいぐるみも占い師のものということ・・・?


「それで気になってたんだけど、さっきからそのポーチから微かに星の力を感じるのだけれど・・・」

イリアさんは私のポーチを指差し、疑問の表情を浮かべる。


「あぁ、これですか?」

と、ウサギのぬいぐるみを咄嗟とっさに取り出す。

しかし、ウサギのぬいぐるは、なぜかぐったりとしていて、全く動き出さない。


「このウサギのぬいぐるみ・・・【サン町ちょう】に来たばかりの、新人占い師のものだったような・・・」

ウサギのぬいぐるみをまじまじと見て言った。


 予想は的中!まさか本当にこのウサギのぬいぐるみの持ち主が占い師だったとは。


 「そのサン町ってどこにあるんですか?」

早くこのウサギのぬいぐるみの主に会ってみたい。

そう思って、聞いてみる。


「この大陸の西部。まぁこの町からずーっと西に行けばたどり着けると思うわ。」

イリアさんは、優しく教えてくれた。

「ありがとうございます。では早速行ってみます!」


私はお礼を言い、その場から立ち去ろうとした。

しかし、立ち去ろうとする私を、イリアさんは慌てて引き止める。


「あ、でも待って!道中は、そこそこ強い魔物がいるから、ある程度装備とかレベルとか、あと『スキル』を屈指していかなきゃいけない。君たちの今の装備、レベルじゃ、とても突破できそうにないわ。

大前提に、それパジャマだし・・・

だからまずは、この町でお金を稼いで良い装備を買ってレベル上げて、どうにか突破できるようにしなさいな。」

イリアさんは私が立ち止まると一息つき、冷静に話をした。

やはり始まりの町と言ったところなのかな。

まあチュートリアルなら仕方はない事だと思った。


「うぅ、やっぱりそうなるのかあ。」

「あ、それでね。今さっき言ったスキルのことなんだけど、少し説明良いかな?」

イリアさんは手を合わして私に説明をしたがっているみたいだ。

「もちろんOKですよ。」

右手の親指を立てOKサインを出す。

◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯

『スキルについて』

 スキルについてお教えいたします。


ポーチからウサギが出てきて、唐突に話し始める。


まずスキルとは、レベルアップ時に得られるタレント能力に徹した技のことです。


例えばなつめさんは、極☆ヒーラーというタレント能力をお持ちです。


今はキュアーというHPを回復する技を覚えていますが、次レベルアップすると味方の状態異常などを回復してくれるスキル、リフレッシュというものを覚えます。


ちなみにスキルなどは、星の力、要は【SP】とは全くの別物の【MP(MagicPower)】を消費します。


こんな感じです。お分かり?

◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


「ちょっと待ってくれ。タレントの能力に徹してるんじゃ、俺はどうなるんだ?」

また兄が話に入ってくる。


・・・・・・さぁ、どうなるのかなぁ。

何もないんじゃない?

ドンマイドンマイ〜。

やはり兄の事を適当に受け流している。

兄はまた地団駄を踏んだ。


はーい以上で説明終わりまーす。


「ちょ、待ってくれよ!」

そのまま兄を無視して、また力が抜けたかのようにぐったりとして、ぬいぐるみはポーチに戻った。


今回のはさすがの私でもお兄ちゃんの事を、ほんの少し可哀想だと思った。


でも、ほんの少しだけだから、心の片隅には「いいぞ、もっとやれ。」なる心があったのかもしれない。


・・・正直言うと少しスッキリしたよ。

リフレッシュされた気分。


「そうねぇ、カナタはどうなるかしらね。このタレントは私でさえ見たことがないから、恐らく他の占い師も知らないと思う。

魔物と戦ってレベルが上がって、何か変化があったら私に教えてくれるかしら?」

兄の方を向きイリアさん話を進める。



「分かりました。まあレベルを上げる機会があるかは分かりませんがね。」

おそらく、この世界でもニートをつづけるつもりなのだろう。せっかく更生させるため異世界に来たのに、これでは意味がない。


「え?どういう事?」

イリアさんは驚き、目を丸くする。


「あ〜・・・兄の事はあんまり気にしないでください。いつもこんな感じなんです。」

私はため息をつき、どういう事かを説明した。

要は兄がニートで引きこもりだった件についてである。


「ふーん、まあいいわ。私はあくまで占い師。あなた達に深くは関わろうとしない。けど、カナタくん。あなたの言った、その言葉をよく心に刻んでおいて頂戴ね。」

イリアさんは真剣な表情で、兄の方を見ながら話した。



「え?は・・・い・・・?」

兄はいきなりの事で、それに真剣に言われたため、少しキョドッている。


一体イリアさんは何のとこを言っているのかな。

何気ない兄にとって普通の言葉を心に刻めって・・・


「じゃ、私はちょっと用があるから、これでおしまい。では、またね。」

最後まで私に対しては笑顔でいてくれて、最後に手を振って出ていった。


「あ、はい!ありがとうございました!」

お礼を言い、イリアさんに続き、私たちも館を出ていく。

兄と一緒に館から出ると、ガチャっと、ドアの鍵が閉まる音がした。

おそらくイリアさんが星の力を使って、自動で閉まる様にしたんだろう。すごい技術力である。


とりあえず、私たちのタレント能力が分かったことはどちらにせよ良かったことだし、後は働いて食べ物とか、装備とかも充実させていかなきゃなぁ。

まぁ私は装備あるんだけど。


けど、お兄ちゃんパジャマだし(私もだけど)、武器無いから何もできないし・・・


まず、働く場所を探さなきゃ。

何処が一番稼ぎやすいかな?


って、あれは・・・


占い師の館を出て、少し歩いた所には、

酒場があった。酒場のドアの前には

『アルバイト募集中!誰でもいいから求む!』

という張り紙がしてあり、外装は茶色いレンガで壁が作られていて、窓の枠の部分には小さい植木鉢が乗せてあったりなど、割と綺麗な場所で悪そうな店には見えなかった


酒場・・・?アルバイト募集中・・・

酒場って大人がいっぱい来るよね・・・


良く考えてみよう。


割と酒場って割と稼げる所かも・・・


決心した。


行ってみよう・・・!


「お兄ちゃん!」

声を張り、兄に話しかける。


「酒場で働くよ!」

決意を胸に、腕でガッツをしながら話した。


「え、マジで言ってんのか?」

兄はもちろんのこどく、驚きを隠せない様だった。


「もちろん。マジで!」

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