第1章 【引きニートと妹の異世界転生】

第1話 『普通の異世界?』

う、うぅ・・・眩しい・・・


ここは一体・・・?


 「お、気が付いたね~」


 こ、この可愛い声は・・・あのウサギさんの声・・・?


「そうだよ。というか着いたよ?異世界大陸の一つ【パミル】の最初の町の【木漏れ日の広場】って場所に。」


 こ、木漏れ日の広場・・・異世界の割に、ちゃんと日本語で成り立ってるの・・・


その木漏れ日の広場と呼ばれる場所は、太陽光が木々の間から差し込んできて、ベンチや噴水を照らす。

噴水から出てくる水がその光を反射して、ダイヤモンドのように美しい輝きを放っている。


「そりゃあ、『この異世界を作った主がジャパニーズだから』ね。」

ちょっと嬉しそうな声でそう言った。


「そうなの⁉」

驚きを隠せず少し大きな声が出てしまった。


「詳しいことは私もよく知らないよ〜。」

ウサギは首を振り応える。


「あっそう・・・というかお兄ちゃんは⁉」


「あ、まさかあそこで倒れている人があなたの兄?」

ウサギが指さしたのは、中央にある木の下に倒れている青いパジャマを着ている男性だった。


「そー!といっても寝ててよかった・・・寝てなかったらいきなりすぎる出来事でショック死してたかもしれなかったし・・・」

私は一息つく。私でさえいきなり過ぎてびっくりしたのだから、本当に弱い兄なんて死んでしまうから。


「ま、どうせ死んだんだし、変わらないでしょ?」

ウサギは軽く言うが、死んだのは強制的にこの異世界に送ったウサギのせいだ。


「あのねぇ・・・」



「う、うぅ、眩しい・・・ここは何処だ・・・?」

兄が目を覚ました。黒い髪はボサボサだけど、普通ならここまで匂いがくるのにこない。それにパジャマがいつものやつと違う!そうか、今日はたまたまお風呂に入る日だったのか!よかった・・・臭いままこなくて。


「お!お兄様やーっと起床ですか~?全く待ちくたびれましたよ。」

ウサギが陽気な声で兄に話しかけた。


「う、うわ、なんだお前⁉ぬいぐるみが・・・喋ってるだとぉ⁉」

兄は驚きを隠せず変な口調で声を出す。


「あ、お兄ちゃんおはよう。」


「あ、おはよう。じゃない!何普通にしてるんだよ・・・あー早く自分の部屋に戻りたい自分の部屋に戻りたい・・・」

兄は頭を抱えながら体育座りでぷるぷる震えている。


「それは無理ですよ~だってもうこの世界にあなたのいた家なんて無いんですから~。」

ウサギがまた軽々しく応える。


「ちょ、どういう事だ⁉」

そりゃ驚くのは無理もない。なんせ目を覚ましたらいきなり異世界なのだから。


「要は、今までいた世界とは別の世界に転生してきたって事ですよ。」


「な、何を言っているのやらサッパリ・・・」

兄と同じ様に、正直私もサッパリだ。


「コホン。ま、とりあえずこの世界のルールをお聞きください。」

咳払いをし、いきなりこの世界のルールを語り始める。


 「この世界では、大陸一つ一つごとにシステムというものがあります。

例えばこの大陸【パミル】には、こんなシステムがあります。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    『自(立)共(存)システム』


 このシステムは、働き場所を探し、働いてお金をもらって武器防具を買って魔物討伐!もちろん討伐は世の為人の為なんだから仕事のうち!

たまに(まぁよくあるけど)町の人や村の人に材料調達、魔物討伐の依頼を頼まれることも!

(※報酬は個人によって違うからね。)



依頼があったら絶対にやろう!

貰おうぜ報酬!掴もうぜ未来!



 と、そんな感じで、討伐で武器防具が壊れたらまた働いて買って討伐働いて買って討伐の繰り返し!ちなみにお金の単位はこの世界では【ギフ】となってます~。

1ギフ=(日本でいう)1円ということでね。


 それがこの異世界の大陸【パミル】の仕来りと言っても過言ではないようなシステム!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「これが『自共システム』です。お分かり?」

私たちの方を勢い良く指さす。


「頭の弱いお兄ちゃんは分からないと思うけど私はわかったよ。」

異世界に来る前から兄の事を少し見下していた私は、兄をみくびる。


「おい、決して頭弱いわけではないぞ。これでも家に引きこもってゲームを4年間極めつづけた男だ。ゲームの一つのシステムとしてとらえれば簡単だ。」

兄は腰に手を当て自信ありげに言うが、そもそも兄はこの世界に来た理由を知らない。もしやただのゲームと思っているのでは?


 「さすが引きニートですね。」

少しバカにする様に笑いながら言った。


 うるさい!と兄はぬいぐるみに言ったが、全く聞く耳をもたない。


「・・・では装備についてですがぁ・・・」

ウサギが真面目な声に戻る。


「ちょっと待ってくれ、俺の装備パジャマなんだか大丈夫なのか?」

兄が心配そうに言うが、


「ん~、まぁパジャマこの世界の初期装備と同じようなものですし、大丈夫でしょう。」

と、兄の方を見ずに適当に受け流した。

おそらく布や綿などで作られたものは初期装備扱いになるのだろう。


「はい、仕切り直して、装備について先ほども申し上げた通り、武器防具共に戦闘をして攻撃を与えたり、受けるたびに耐久力が落ちていきます。

最終的にはぶっ壊れますよ。」

防具壊れたら大惨事は免れないと思う。

ある意味ね・・・


「あ、でも、下着は壊れませんので安心してね。

え~なつめさんには、事前に送り届けてあるとのご報告ですが・・・あーこれかな?異世界転生セット?この中に入ってるものを使ってください。」

ウサギが浮いている真下に一つの箱がある。


確か、この箱は私が玄関で見た、ダンボールの中を見た時の黄色い箱!

最初はマ◯オのハテナボックスかと思ったけど、そんな素晴らしいモノだったんだ。でも、


「何で私だけ?」

気になる。私だけなぜこんな良い扱い受けちゃってるのかな。


「まぁ、細かいことは気にせずにね。

その袋にはたーーーっぷりの装備が入っています。

次のレベルに達したら装備交換していくって感じのサイクルでお願い!あと、装備可能レベルに達していない武器防具を装備しようとすると謎の力で強制的に剝がされるからね。今はまだきたばっかりだから、この【レベル1】の布シリーズ一式と、ドでかいオタマを使ってもらうことになるかな?」

と、取り出したのは、小さい黄色の星の模様が散りばめられている、ピンクのふわふわなズボンと、同じ様な柄のピンクのふわふわな上着。



 えぇぇ、もうこの服パジャマじゃん⁉

しかもこれ私が昔使ってたパジャマだよね?

サイズ合ってるのかな・・・


それにドでかいオタマって・・・どんなセンスよ。


私の気を知らず、淡々と話を続ける。


 「あ、ちなみにこの装備セットに入っているものはみんななつめさん専用なので他の人は着れません。

あとみんな絶対に壊れないものです。

もちろん保証付き。装備が傷ついた時は私に言ってくれれば『できるだけ』すぐに新品に交換するからね。」

ウサギは何気なく言ってるけど

できるだけって、どういうことだろう。


「なんで妹ばっかり良い扱い受けてんだ?人間皆平等だろ?」

兄が手を私たちの間に出し、話に入ってくる。


「はーいこういう時ばっかり人権使わなーい。」

ウサギは手を兄の顔の前に出し、話すのを止めさせる。


確かに今まで『普通の』人間としてはたぶん生きてこなかっただろうもう兄は、もう何も言い返せないだろう。


 「次は5レベルで新しい装備が可能になるみたいね。」

手を出すのをやめ、私の方を向き話し出す。


 「あの、ちょっと質問なのだけど、ステータスってどうやって見るの?」

私は片手で頬杖をつき、ウサギに質問をする。


 「お、いい質問!ではお教えしましょう!」

また私の方に指をさし、元気な声で反応してくれた


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 『ステータス表示について』


 (いきなりゲームっぽくなった⁉)


 ステータスはこの世界に入ってきた時に、腰ポーチ着けられた【ブック(最新版)】で見ることができます。


「こんなに小っちゃい機械なんだ・・・」

ブックと呼ばれる機械は、元いた世界でいう、iPoneアイポン5くらいの大きさの端末だ。


そうでもないのですよ?ステータス表示のアイコンをタッチしてみてください。

おそらく緑色のアイコン、小文字でステータスと書いてあるものだろう。

他にも色々あるみたいだけど、


「おぉ!目の前にステータスが大きく表示された!何て近代的・・・」

横幅が2m、縦の長さが1.5mほどの長方形の、青い表示が現れる。

名前が左上に書いてあり、その下にタレント能力・・・?

あとは自分のステータスが、上からHP、MP、物攻、魔攻、防御などが表示されている。


ね?すごいでしょ?まぁこんな感じで見ることができます。次のレベルまでの経験値も表示されるのでいっぱい使ってみてね。


 「あの、この名前の下に書いてある、タレント能力【不明】って表示は?」


 「お、またまたいい質問!」

またまた私の方に指をさし、大きい声で反応する。



  『タレント能力について』


 (またまたゲームっぽくなった⁉)


 タレント能力とは、その人だけがもつ特有の能力、すなわち『この世界での才能』です。例えば~・・・あ、ほらあの人!


指をさした先には、木漏れ日の広場のベンチに座っている、世界の終わりを見て来た様な顔で下を向いている男性がいた。

なんか涙が頬を伝っている様な気がするんだけど・・・一体何があったんだろう。


《強制ステータスオープン!》


と言った瞬間、その人のステータス表示が私たちの目前に現れた。


 と、こんな感じで、あの人はこの世界でタレント能力【職失】というモノを持ってます。

あれは・・・

職業を失いやすいという才能の持ち主なんですねぇ。


 (うわぁ、私たちが元いた現実の方でも普通にありそう・・・というかそれタレント能力になっちゃうのかい・・・)

軽く言うが、正直現実的に言うと、辛い事なのである。


 あなた達はまだ来たばっかりだからまだ不明みたいだけど、この町の【占い師の館】に行けば見てもらえると思うから、まずはそこに行ってみてね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はいはい・・・」


「あのー・・・」

兄が恐る恐る話に入ってくるが、


「はい、ではおしまい!ちなみに私はこの大陸の『ある町』に来るまでこのぬいぐるみとしてサポートするから安心してね!それではまた後ほど~」

ウサギは無視をして、手を振りながら私のポーチの中に入る。


中を見ると、どうやらこのポーチはドラえもんのポケットの様な、四次元空間になっているらしい。

なんか嬉しい。


安定のお兄ちゃんスルーは、まあ可哀想ではあるけどよくやったと言う感じ。


「くぅ・・・気に食わない野郎だ・・・途端に喋らなくなっちまったし、訳分からん。」

兄は機嫌が悪くなったのか、地面にある小石を蹴り、地団駄を踏んだ。


 「ま、まあさ、ゲームみたいな世界何だしお兄ちゃんなら大丈夫でしょ?とりあえず、占い師の館に行こう!」

私は兄を慰める様に、まあまあと手を出す。


「まあ確かに、俺にとっちゃ普通の異世界だからな。行くか。」

また自信を取り戻したかの様に、腰に手を当てる。


 普通の異世界?なんじゃそりゃ。

兄はゲームばかりやっていたから頭がだいぶおかしくなっているらしい。




 そして、これから、私たちの冒険がとてつもなく過酷になることを、まだこのウサギ以外知るよしもなかった・・・






「っと、まだ終わらないで終わらないで!言い忘れてた事があった!」

ウサギはポーチから顔と大きな耳だけを出す。


「え?なに?」

私はビックリしてあまり声が出なかった。


「あなた達の旅の目的!」

ウサギがまた陽気な声で話し始める。


あぁ、たしか聞いてなかった気がするような・・

・一体何なんだろう?


「あなた達の目的・・・それは・・・」

真剣な声に戻る。


それは・・・?

ドキドキが益々増幅する。


「この異世界の大陸一つにつき一つあると言われている【宝珠】を【7つ】集めることです。」

「ほう・・・ん?ということはこの世界では大陸は7つあるってことでいいのか?」

こういう時ばかり兄は察しが良い。


「まぁ、そうなるかな。でね、最終的な目標として、あなた達にはこの異世界の魔王を倒してもらいます!」

陽気な声に戻り、嬉しそうに言った。


「え⁉ちょっと待って!私たちがこの世界の魔王を倒すって、何で⁉」

私は驚きの表情を浮かべる。

話が急展開すぎて全くついていけないからである。


「それはね・・・この転成プロジェクト自体に招待されたのはあなた達のみ・・・だからあなた達しかこの世界に転生した者はいない・・・すなわち!あなた達がこの異世界での主人公ってことになるのよ!!!」

ポーチから手を出し、ウサギが辺りに響き渡る様な声で宣言をする。


「ちょ、えええぇぇぇえぇぇぇええ⁉⁉」

私は今までの人生で最大級に驚いた。

声もおそらくこの町中に響き渡るほどの声量だろう。


正直、理由がめちゃくちゃだし、驚きもあったし、何か複雑な気持ちにもなった。

だけど、何処からか期待感が生まれていた。


 これから、私たちの新しい異世界での生活が始まるのだと。おそらくその期待感だろう。


見た事もない新たなる世界、(もしかしたら)新たな出会い、そして新しい発見・・・



 私たちが生まれ変わるのは、これからだ!







 って、ちゃんと生まれ変わってほしいのはお兄ちゃんの方なんだけどね。

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