引きニートの兄を転生させるために異世界転生

桜木はる

第0話 『始まりの終わりの始まり!』

 7月7日 曇り


今日も兄はいつもの如くに部屋に引きこもっている。この状態はかれこれ何年くらい続いているのだろうか?


 私は、4人家族の家に産まれた。

どこにでも普通にあるような、二階建てのグレーの屋根の下で暮らす一般家庭だ。

しかし、私が幼い時に父親を病気で亡くし、4人_____。


 姉は都会の大学に行き、3人_____。


 兄も一応大学に行き家を出たのだけれど、何故か2年くらいしてから戻ってきて、大学に行きたくないだ行きたくないだの一点張り。


だから今は母の手一つで高校生の私と、もうとっくに成人している兄をパートの仕事だけで養っている。


それを知っているはずの兄も、今の自分の心の病に対し、治す為に病院に行こうと言っても「行かない、どうせ・・・」の一点張り。


これじゃあ私の大学に行く為のお金が金食い虫(兄)のせいで無くなっちゃうよ!

って、こんな所で怒っても仕方ないんだけどね。

 

え?今兄は何をやっているかって?

もちろんのこと、自宅警備員ってヤツです

よ。


え?違う?今何をしているかって?

多分ゲームでしょうねぇ・・・私が長年貯めてきたお金で買ったwiiv(うぃいぶい)ももう完全に兄のものになってしまっているし、私の唯一のお供であるパソコンさんも私が学校に行ってる間ずーっと使われているせいで、もうボロボロ。というかお風呂に入らないせいでキーボードベタベタだし、一部反応しないキー出てきちゃったし、壊れてきている。


 せめてお風呂には入ってほしいと思ってる。(ご飯持って行くとき部屋の中に入るけど、部屋の中臭いし・・・)



 …病院にも行かない、外にも出ようとしない、ずっと部屋の中で、引きこもったまま。



 まるで、自分自身を檻の中に閉じ込めて、その檻の扉を開けるための鍵を持っているのに、頑なに開けようとしない、そんな感じ。



 あーあ、『何処でもいいから』兄を更生させてくれる処はないのかなぁ・・・


ピンポーン!

インターホンが聞こえた。


 ・・・誰だろう、もう22時過ぎてるのに…


「シロネコ宅急便でーす!」

元気な男性の声が聞こえる。


明らかにおかしい時間だ。出ても大丈夫だろうか・・・変な人じゃないよね・・・?


「はーい・・・?」

恐る恐る出てみると、来たのは白猫ヤマトの宅急便のCMでおなじみの、緑の制服、頭には白猫ヤマトのマークをつけた緑の帽子を被った、背丈の高い男性だった。


「えー、セセラギ ミナミ さんから 紫式なつめ さんにお荷物が届いています~ハンコお願いしまーす。」

お兄さんが爽やかな笑顔で荷物を渡してくれた。


 潺(せせらぎ) 南海(みなみ)・・・?こんな名前の人は聞いたことがない。ましてや知り合いにもいるはずがない・・・もしや兄が出会い系サイトを…?

いや、コミュ障だしありえないでしょう。


ハンコをリビングから取ってきて、ハンコを確認表に押す。


「ありがとございました~。」

また元気な声をだして出て行く。


はーいっ・・・と、それにしても大きい荷物。

一体何が入っているのだろう…

とりあえず部屋で・・・ってこれ‼


ふと、ダンボールの上に貼ってあるお荷物情報の欄を見ると、

【異世界転生セット】と書かれていた。


これはどういうことだ?


私が微かに思っていたことが直に・・・?


 でも何か胡散臭いなぁ。これ本当に大丈夫かな?

何か悪い宗教のものだったりして・・・


 テーレッテレー!

何処からか音が聞こえた。


 今のは!?


 と、驚いてダンボールを開けてみると、中から大きな得体の知れない物・・・ううん、ここはかわいいウサギさんにしましょう。 

耳の長い可愛いウサギのぬいぐるみが飛び出してきて喋り出した。


 「てれれーん!あなたは【異世界転生!~人生転成プロジェクト~】の実験台・・・あ、素晴らしい企画の参加者として選ばれました~!」

可愛い声でウサギのぬいぐるみが話す。


「は、はぁ?」

私は何も分からず、おどおどしている。


「えーっと、確かあなたには兄がいて、その兄を引きニートから常人に更生させたいが為に『何処でもいいから』転生させる場所へと、と言ったんですよね?」

な、何で知ってるの!?


恐れながらも話に応える。

「ま、まぁ、強ち間違いではないですけど・・・」


「えへへ、なら、行きましょう!異世界というこの次元とは全く別離された世界へと!」


ちょ、ちょっと待ってよ!私何も言ってない・・・!


「ほうほう、それでは兄は檻から救い出すことはできぬぞ~?」

うざったらしい声で

くぅ、それにしても、このウサギよく喋る…それにまるで私の心が読めているみたいにベラベラと・・・


「ふふ、実際、そうだからね。」

ウサギは手で口を押さえ笑う仕草をしながら応える。


え・・・今なんか言っ・・・


 「では改めまして、無駄話はここまで!」


 今までの全部無駄だったの⁉

 

 「さぁ、飛びましょうか!あなたもきっと私の本来の姿も見たい事でしょう!ね?それでは!強制送還!行き先!【最初の町 ザトール】へ!」



 『レッツ!異世界転成プロジェクト!』


ウサギが片手を勢い良く掲げると、目の前が光に包まれ、体が宙に浮かぶような感覚が走った。


 「・・・あ、言うの忘れてましたが、転生は転生なので、一回死にますよ。」

どこからかウサギの真面目な声が聞こえた。


 ちょ、ええぇ⁉

死んじゃうの⁉

それ一番重要じゃん⁉


あー!やっぱりこんな変なこと思いつくんじゃなかった・・・!


・・・というか、あなたの姿を見たいとは一言も言ってないんですけど⁉

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