第6話

<黒野宇多>


 織原七重を解決する。

 放課後の廊下は生徒たちが流れている。わたしは荒野を連れてすいすいと逆進し、標的のいる七組に向かう。

 わたしには二人の寵臣がいる。状況対応の手管を叩き込んで育てた大ゴマ二枚。戦場でも立ち回れる飛車と角だ。できればフルに使いたかった。しかし一枚は手元にない。荒野と同じクラスなのだが、荒野しか来なかった。

「つぼみの回復はまだまだかかりそうです」

「そうだろうね」

 つぼみはわたしの狂信者だ。わたしの指示なら大抵はこなす。だけど事情があって今は精神的に痛んでいた。荒野と違って不安定な奴なのだ。完治するまでは休ませている。半端に動かれても足手まといになる。



 七組の教室。ドアは開け放たれている。織原七重と目だけ合わせてすぐ引っ込む。すると織原は好奇心にかられて教室から出てきた。

 わたしたちが歩くと、織原七重は勝手についてくる。せわしなく喋る。

「ねえ何するの? どこ行くの? もしかしてナナエに用があった?」

 この女は目の前の楽しみしか頭にない。何もかも、ダメージすらをも快楽に変える狂人。これから起こることに不安など欠片も抱いていない。

 何ひとつ悔いてこなかったこの女に後悔をさせる。心は痛まない。既にこの女は共感除外対象だ。わたしはこの女に一切の同情を感じない。物よりも雑に扱える。

「屋上に行くよ。二人で話をしよう」

「あ、こいつかっこいい。誰? こいつもお話しないの?」

 織原七重は首を傾げた。それは背後の様子だが、音と風から逆算できた。集中力を感知と推計に振っているからだ。それはわたし自身の意識を、織原七重の危険な内面からそらす意図も兼ねている。

「荒野。そいつは別に何の話もないよ。一緒にいるだけ」

「ふうん。つまんないのー。ちょっと気に入ったのに」

 織原七重は荒野のあごを指でなぞった。放っておく。荒野は鈍感な分、プロテクションも堅牢だ。汚染されることはないだろう。

 わたしたちは校舎端の階段を昇り、突き当りの扉を開ける。



 屋上に出た途端に、背後からいきなり蹴りが飛んできた。

「ナナエキック!」

 予測は出来なかった。彼女の思考を観る訳にはいかなかったからだ。しかし想定内だった。この女ならあり得るとも思っていた。呼吸音からも動きは見えた。別段鋭い蹴りでもない。反射だけで避けられた。体を翻して横に退く。

「おああ!?」

 織原七重は勢い余ってすっ転んだ。蹴りを外したぐらいでは普通は転ばないのだが、彼女は飛び上がって両足を揃え、思いっきり飛び込んできていた。ドロップキックだ。わたしもそこまでは想定していなかった。馬鹿の考えはランダムだ。シミュレーション抜きで正確に読むのは難しい。

「いってえええ、よけんなよ!」

 膝を擦りむいて織原七重が悪態をつく。地面に座るこいつは今、ものすごく蹴りやすそうだった。でもまだ蹴らない。肉体的にだけぶちのめしても意味は無い。その代わり手を差し伸べもしない。直接接触は危険だ。そこまでする必要はどこにもない。

「あんた7eだよね? そんな格好悪いことしてていいの?」

 たとえ骨が折られても、あるいは容姿を醜く損なってもこいつは輝き続けるだろう。あくまで心を折らなければならない。わたしは織原七重を軽く罵る。

「避けるなっていうか後ろから蹴っといて外すなよ。そもそも何でドロップキックなの? 格好いいと思ったの? お茶目でかわいいと思ったの? 何がしたいの? 答えろ」

「答えて七重に得があるの? そんなのが聞きたくて七重を連れてきたの? つまんないよ黒野宇多。がっかり過ぎて死んじゃいそうです」

 話の筋を逸らされた。そこに突っ込みは入れない。意味が無い。七重は論理では生きていない。ランダムに近い心情の移ろいは直線や平面では制限できない。詰め将棋のように確実には追いつめられないのだ。捕らえるのに必要なのは反射神経だ。気まぐれな動きに瞬応して逐一追う。わたしならできる。

「知ってるよ。あんたは退屈だと死ぬんだよね。けどそれはあんたの問題だ。あんた自身はどれだけ面白いつもりなのよ。歌が売れて自信満々? 楽しいだけのあの歌が」

「歌……うた、宇多。黒の唄」

「あんたが犯した七つの大罪の一つ。ダジャレ」

「おふっ!?」

 七重に軽く蹴りを入れた。つま先で鳩尾をえぐってやる。七重はせき込む。人を罵るのに語彙は要らない。重要なのはタイミングだ。何かにしくじった瞬間に馬鹿とでも言ってやればいい。ギャンブルで負けた人間から金を奪うのと同じ要領だ。失意でポートが開いた今こそ追撃のチャンスだ。

「ごめん思わず蹴っちゃった。たった二文字の被りでセンスねーギャグぶっこくのがあまりにもつまんなくて。がっかり過ぎて殺しそうだったよ」

 喋りながらもう二、三発蹴った。今ならダメージになる。織原は笑う。

「ふっひっひ、歌なんて気持ちよければいいじゃない!」

 その笑いは誤魔化しだ。だが割と誤魔化しきれている。堪えていない。もっと削る必要がある。あんたの歌が気持ちいいのは一瞬だけだ。わたしはそう言おうとした。だが状況が変わる。


 織原七重の顔が見えなくなった。


 比喩ではない。視界の織原七重の顔が黒い四角で塗りつぶされた。検閲が入った画像のように。

「痛いよ黒野宇多。でも楽しいよ。楽しいのは好き。暴力は好き。痛いのが好きなんじゃないよ。ぐちゃぐちゃに混ざってくのが好きなの。濁るまでの……」

 声は聞こえてくる。しかしその表情はまったく見えない。フィルタリングだ。わたしの中で防護機制が立ち上がって有害な情報を遮断している。わたしは汚染される一歩手前まで来ていたのだ。自分でも気づかないうちに。誰も自分の背中は見れない。すべては目の届かない無意識での出来事だ。奥から忍び込んできた汚染を、奥のわたしが対処している。現象意識としてのわたしはそれを遅れて認識する。


 織原七重は識閾下から人を侵せる。


 それも無差別にだ。それは魔女と呼ばれる者たちが人を支配する手口によく似ている。実際、意識のバックドアから自分の意思を流入させるところまではそっくりだ。しかし織原七重のそれは規模が違う。効果範囲が巨大なのだ。とてつもなく。彼女は波動を放射する。セイレーンタイプ。人の根源に訴える普遍的な波動だ。それは魔女の支配と違い、個人ごとへのカスタマイズが要らない。だから相手を選ばず染み渡る。無差別に。見て聞くだけで被曝して、重ねるごとに汚染を深める。その振る舞いは日本中にブロードキャストされており、支配の根は急速に広がっていく。まるで呪いの映像だ。

 視界に黒が増える。無数の長方形が現れて、織原七重の体を覆う。わたしはもはや彼女の体をまともに見ることができなくなっていた。

「ナナエは■■■てもいいと思ってたんだ。ナナエはひどい目に遭うでもいいと思ってたんだ。■されてもいいと思ってたんだ。だってナナエは■■■■■だから。どこまでも■っていけるし■っていられる。ねえ黒野宇多、どう思う? ナナエって■しいのかな。ねえ、■しいのかな? ■しくて■しくて、■っちゃいそうだよね!」

 声まで検閲で潰れてくる。それもまたわたし自身の自動防御のひとつではある。とは言え、この見通しの悪さは酷すぎた。状況が状況なら目くらましになり得るレベルだ。織原七重にもし戦闘技能があればこのリスクは犯せていなかった。格闘戦に持ち込まれていたら負傷もあり得た。

 状況は悪い。汚染は免れているが、代償として刻々と危険が増している。わたしが嗜み、普段から頼りにしているひとつの技能が弱体化されているのだ。


 《対策》。


 対策。現実の善化。それはすべてを考慮して最適解を導く能力だ。そして物理現実を思い通りの方向に押し進める。しかし射程に限りがある。この技能の効果は観察と干渉が可能なものにしか及ばないのだ。どれだけ将棋を正しく指せても、盤面を認識できなければ無力に等しい。織原七重は観察しづらい。本人はすべてを晒しているのに、わたし自身がそれを「拒絶させられている」。五感が削られている。少しずつ。わたしは七重に圧されている。何もしなければ無力化される。だからカードを一枚切る。

「荒野」

「はい」

 わたしは従僕の名を呼んだ。呼べばこいつは必ず応える。そうあるように練り上げた。



「ちょっと集中入るからガードお願い」

「分かりました」

 周囲の認識を意識から捨てて、脳内活動に没入する行為のことを荒野には集中という言葉で説明している。本気の集中に入ると無防備になる。普通は安全を確保した上でやる。しかしそうも言ってられない。織原七重は無秩序に跳ね回るボールだ。現状ではこの屋上に連れ出すのが一番ましで確実な選択肢だった。今屋上が他の誰かに使われることはない。まず事故は起こるまいが、万が一のケースに備えて荒野に周囲の警戒を頼んだ。荒野一人で撃ち落としきれない危険が迫れば、わたしは荒野に抱きかかえられて運ばれることになる。不安は無い。

「ねえ■■■■、■■思う?」

 織原の言葉に後押しされて、すべてが黒で埋め尽くされていく。わたしは認識の変化に身を委ねた。

 黒。何ひとつ見えない無明の空間。

 それはわたしの原風景だ。



 わたしは絵が描けない。

 わたしが筆を動かして紙に映し出し、その技量と完成度に周りから感嘆を受ける画像は実のところわたしが見たものの機械的な複製に過ぎない。精彩で写実性に富み、非の打ち所ひとつなく構図も色合いも正しいその画像に創造性は全くない。そのつもりで描けば情感や遊び心も演出できるが、それもまたカタログ化されたテクニックを探索してスコアの高い組み合わせを採用するだけのプロセスに過ぎなかった。そこにわたしの主観は入らない。そこにわたしの意識や情念は入らない。画像加工ソフトのフィルタのようなものだ。どんなに絵が下手な人間でも画材から意図せず滲ませる個人的な印象の波及を、わたしはまったく持ち合わせていない。あるいは描くなら真っ黒だ。

 わたしは既知に強い。未知にも強い。脅威として現出した未知の事象を、冷徹な観察の刃で解体して既知に引き込み、始末することができる。対策できる。わたしは困らない。無数の選択肢を迷わず通過する中で、生存や勝利や成功に続く道を選び間違えることはなかった。しかし未知を作れたことは無かった。まだないものを求めているのに、自分の力でそこに到達できていないのだ。正しいことしか出来ないわたしは、新しいことの探し方が分からない。

 それに比べて織原七重はユニークだ。紡ぐ歌声は極彩色の、乱反射する宝石だ。でも彼女を羨みはしない。あれはダメだ。答えではない。間違った奇跡だ。無数の生命を鋳潰して夢想に創り変えるもの。絶頂のまま死んでいければそれは確かに素晴らしい。臨界を越えて爆発し、人が築き上げてきたすべてを糧にして燃え上がる。炎の柱が天を衝き、踊る火の粉は精霊のように美しいだろう。しかし後に残るのは砂漠だけだ。

 打ち消さなければならない。



 一面の闇に穴が空く。

 光が刺して外界が見える。現実への帰還だ。黒の壁はぺりぺりと剥がれ落ちていく。用を果たした防壁は完全に崩れ、織原七重のいる屋上がふたたび広がった。しかし前と同じではない。わたしが見るその光景に色は無かった。濃淡だけで物体を識別するモノクロの世界。ただ色盲になったというだけではない。光も音も肌を撫でる風も、知覚したまましか伝えてくれない。直感も霊感も完全に閉ざされている。わたしはほとんど分からなくなった。常人レベルの認識空間。ほとんど全盲に近い、圧倒的な外部情報の欠如。なんとも肌寒い眺めだ。


 セーフモード。


 これでわたしは気配ひとつ察せられない。声でもかけられなければ背後の殺意にすら反応できない。その代わり、暗示も催眠も一切受けない。魔女であろうと織原七重であろうと今のわたしの精神を侵すことは出来ない。溶接されたバックドアは放射線のひとすじも通さない。荒野も普段から似たような世界を見ているはずだ。原理は異なるだろうけど。

 織原七重を叩くには、その精神に接触しなければならなかった。しかしそのまま接触すれば、わたしが彼女に侵される。この葛藤を打破するのに、アンチハートキャッチプロテクションは打ってつけの技法だった。

「ナナエを殺すの? 黒野宇多」

 わたしは今や織原七重の顔も見ることが出来る。いい顔だ。きれいでバランスが良くて、そして特に何も無い。織原七重の姿も声も息づかいも、今のわたしはフラットに認識することが出来る。ただの現象の束として。

「殺す? 馬鹿じゃないの織原七重。わたしはあんたを楽しませるつもりは無いよ」

「でも楽しかったし楽しむよ。流れ星も怪物もぜんぶがナナエのおもちゃなんだ。さっきのすんごい蹴りだったね。目ん玉飛び出るかと思ったよ。必殺技? 名前はある? ナナエにも教えてよ」

「七つの大罪の一つ。執拗なアピール」

 要望通りという訳ではないが、罵倒蹴りをもう一発叩き込む。座った七重が浮き上がるほど乱暴に。虚ろな視界で急所はうまく捉えられないが十分だ。ただ強く蹴った。

「あんたが何でも楽しもうとするのは分かったよ。でもだから何? すごいねって言ってもらいたいの? 欲しい反応が無いからって何度も繰り返さないでよ。迷惑を通り越して無様を通り越して哀れだよ? あんたが楽しくてもわたしは楽しくないしそもそもどうでもいいし尋ねてないの」

「あだだだだだだっ!」

 わたしはしゃがんでナナエの耳をつねって引っ張る。ナナエの目元に涙が滲んだ。効いている。ナナエがこちらに手を伸ばす。痛みに負けず逆にわたしをつねろうとしているのだ。わたしは空いた左手でそれを逆手に掴み、捻る。

「い゛……っ!」

「七つの大罪の一つ。のろま」

 理由をつけてわたしは織原七重の失態をカウントする。あと四つ挙がれば七つになる。揃うかどうかはどうでもいい。揃って何が起こる訳でもない。

「あー……」

 わたしに耳をつねられて、更には腕もひねられて、七重の目尻から滴が落ちる。はいはいクソ綺麗クソ綺麗。織原七重の泣き顔だ。放射量は半端ではない。ガイガーカウンターは振り切れている。至近距離で被曝すればひとたまりもない。しかしわたしのガードは貫けない。同情や憐憫すら沸かない。ただダメージが通っていることを認識する。

 織原はさっと自分の泣き顔を左手で隠した。涙を拭く。そしてぎゅっと目をつぶり、ぱちぱちしばたいて涙を止めた。彼女はなぜか謝ってきた。

「ごめんねいきなり泣いたりして。これじゃ悪いことされてるみたいだよね。せっかく遊んでくれてるのに」

 ――おや?

「遊んでないよ。勘違いしないでね。悪意があってやってるんだから」

 織原をなじりながらもわたしは彼女の挙動を訝しむ。

 変哲があった。不自然だ。感覚が閉じていても推論だけでそれは分かった。


 織原七重は涙を恥じた。


 身に降るすべてを楽しむと豪語し、痛みも罵声も好意的解釈の胃袋で飲み込もうとするこの女が、涙だけは流したことを後悔した。筋が通っていない。矛盾だ。わたしの予想しなかった一面だ。わたしは推論を進めて認識を改める。彼女は馬鹿だが単純ではない。苦痛を相対化できるということは、自分の感情を発生した直のまま発散するのではなく一度手を加える回路を持っているということだ。彼女は言った。「楽しかったし楽しむよ」。それができる彼女なら、溢れる涙だって楽しめるはずだ。自己陶酔に落としてもいいし、泣きながら笑うことだって出来るだろう。しかし彼女はそうしなかった。そう出来なかった。涙はただ彼女の幸福と相入れないものとして定められ、忌むべきものとして抑圧された。これは綻びだ。織原七重の弱みへと繋がる糸口だ。

 織原七重が隠そうとしているもの。もうそれなりに見えてはいるが、わたしはあえて問いかける。最初は拒絶されたわたしの問いだが、今の彼女になら通る。ここから城のように崩していける。

「あんた泣くのが」


 視界が収縮した。急に。


 襟首を捕まれて、強い力で後ろに引っ張られている。物理的な危機が訪れたと判断し、わたしはモードを切り替えた。灰色の視界はそのままで、時間の認識を細かく刻む。わたしは後ろに放り投げられた。地面に落ちる前にその犯人を確認する。わたしを投げたのは荒野だった。汚染された様子はない。投げるべきと判断して正しく投げたのだろう。

 低い放物線を描いて私は地面に接触する。力学に逆らわず後転し、激突せんと迫った校舎の壁を後ろ足で押さえつけた。かすり傷も負わないまま、虎のような姿勢に落ち着く。

「敵です。囲まれてます」

 言われて周囲を見渡すと、荒野と織原七重以外に八人がわたしたちを囲んでいた。全員男子だ。一人はわたしのいた場所に蹴りを放っていた。荒野のお陰で回避できた。

 八人は制服を思い思いに着崩し、金髪にしている者もいる。不良だ。全員学校で見たことのある顔ぶれだ。記憶を辿ってパーソナリティを特定する。上級生もいる。また、一人は織原七重と同じ二年七組の生徒だ。

「集中切るよ。もうガードは要らない」

 わたしは荒野に声をかけた。セーフモードのままで捌ける状況ではなかった。



 視界に色が戻る。五感を越えたと錯覚するような有形無形の情報がわたしの中に流れ込んでくる。久しぶりに地上の空気を吸ったかのような解放感だ。浸るのはほどほどにして、わたしは状況を精読する。

 八人は優位を確信しているのか、まだ臨戦態勢にも入らず談笑していた。

「この女やっちゃっていいんだよね?」

「やったらぶっ殺すって言われてるだろ」

 「言われている」。八人は誰かの指示で動いている。

「バカちげえよバカ死ねよ。言われたことぐらい覚えとけよ。7eは手を出しちゃだめで、ってーか怪我させたら死刑で、っつか7eに何かあったら俺がお前ら殺す。あと、あれ……他のやつはやっていんだよ」

 織原七重を保護するために動いているらしい。彼らはどうやって織原七重がここにいることを知り得たのか? それは、織原七重と同じクラスのやつがいたからだ。わたしが教室から織原七重を連れ出しただけで、それを追跡して保護する意志が働いたのだ。しかしそれはこの八人の意志ではない。彼らも織原七重の汚染を受けてはいるがまだ浅い。保護を命じたのは別の人間の意志だ。それもかなり強い。金や政治が絡んでいる可能性がある。誰の指示だろうか? それを悟る材料をわたしはまだ持っていない。だが問題ではない。こいつらに聞けばいい。

「つーかこいつ黒野ウタじゃね?」

「誰?」

「だからおめ生徒会長の顔くらい知っとけよ。お前……お前、生徒会長様だよ? 頭が高いよ。控えろよ」

「うっそ女王様じゃん」

「女王様関係ねえだろ。お前さ、バカだと思われたくなかったら変な返しすんのやめろよ」

「ちげえ。間違えた。あれ。女王様じゃなくて、お嬢様? って言おうとしたの。生徒会長って……金持ちでお嬢様的な」

「決めつけんなよ。もう帰っていいよお前」

「つか超かわいくね? ときめいた。うれしい」

「なんで現地の人みたくなってんだよ」

 緊張感が無い。時間がもらえるのは有り難いので静観していたが、これ以上喋らせても大した情報は得られなさそうだ。分かったことと言えば、この戦闘に敗北するとわたしが輪姦されることくらいだ。

 わたしは目を走らせる。八人の体格や呼吸を見て戦力を見積もった。わたし視点で左から、786X4678。Xは織原七重のそばに立っているのでうまく認識できなかった。下手に注視すれば彼女に汚染される。一番右の8は校舎に入るドアの前に立って退路を塞いでいる。

 いい機会だ。全員潰して尋問する。ちなみに荒野の戦力は8である。以上すべて、わたし自身の戦力を5としての相対値だ。わたしより弱いのは一人しかいない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る