第7話 失踪した部長

 無事に退院したのだが、学校では問題が起きていた。それは部長が僕の入院した翌日から失踪しているというのだ。

 病院に見舞いに来た久木はそんな事は一言も僕には伝えていない。彼曰く

「件の女子生徒がらみじゃないかと気を揉んだら可哀想だと思った」という。

 タイミング的にそう思いたくなる気持ちも有るが、部長の事だからどうせUFO情報を元にどこかの山にでも籠っているのではないだろうか程度にしか僕は思わない。

 しかし儀式を行っていない部室は妙に静かで物足りなさを感じても居た。

 別に部長の儀式が見たいわけではないのだけれど、無いと無いで違和感を覚える程度に儀式が見慣れてしまったのだ。

「それで、部長探しはしないのか?」

「部長は勝手に帰ってくると思うよ。部長は部長だから。何かあってもあの人は平然と笑って戻ってくるよ」

 苦笑いをしながら久木に返事をすると、納得のいく答えだったのか満足そうに笑った。

「そうだな、お前が言うんだから間違いないだろうなー。じゃあ今日は退院祝いとして帰りにケーキ食べて帰ろうぜ。お前のおごりで」

「いやいや、そんな無駄なお金ないから。入院費で消えましたよ」

 此方の答えは気に入らなかったようで酷く不機嫌そうな顔で睨んで来る。

「……アイス位なら驕るよ。カップアイスだよ、上限200円だから」

「オッケー!ぜんぜんイイヨ」

 ぱぁっと笑ってばしばし背中を叩いてきた。

「でも、ホントどこに行ったんだろうね」

 抜けるような青い空を眺めながら呟いた僕の言葉は風と共に消えていった。


 *   *   *


 空を眺めながら汐風を浴びていた。

 海は嫌いだったが、彼女と話をしておきたかったから致し方なしに海にまで足を運んだのだ。

「バイク乗れるんだね。意外、でもカッコいいね」

 ほほ笑む女子にオレは苦笑いを返す。

「意外とは失礼だな、それよりも今は何ともないのかい?」

「ええ。今は何も起きない。何を言っても大丈夫よ」

 彼女はオレの知っているカタリヤさんだった。

「正直、あのままだったらどうしたらいいのか本当に悩んだわ」

 短い髪が風に揺れる。真っ白なワンピース姿、これで髪が長ければ完璧だったのになどという胸の内を明かす事はせずバイクを置いて、彼女の歩幅にあわせて歩く。

「でもね、卒業したらぱったりと可笑しなことは無くなったの」

 内気な性格で虐められていた彼女は何時しか呪いの言葉を覚えてしまっていたという。言葉で人を殺してしまう。

 彼女は自分の力に怯えていた、そしてさらに人とのかかわりを遠ざけてしまっていた。

「今は楽しそうだね」

「うん、友達も出来たし……やっぱり私は人を傷つける能力は向いていなかったんだと思う。無くなってほしいと願って、そして気づいたら無くなっていた。

 ……あの学校が可笑しかったのかもしれないけどね。卒業したら全くそんな事は無くなったんだから」

「じゃあ、卒業するまでは無理か」

 オレの言葉が指す意味を理解したのだろう。彼女の表情は暗いものとなる。

「次の子が?」

「オレの後輩が狙われてる」

 スマホで乙名氏の写真を見せる。すると彼女は困ったような顔をする。

「なに、その顔」

「その子、カタリヤの性質をそのまま持ってる子だよ。狙われているけど命をじゃない、その力だよ。早く転校した方がいいかもしれない」

 突然の展開についていけなかった、そもそも写真を見ただけでどうしてそんな事が分るのか理解できない。

「意味わからないよね。でも注意して、その子は危ないよ」

 彼女は空を眺め、遠い先を見つめていた。

 答えを望んで矢継に質問してみたところで彼女は困ったように笑うだけだった。

「いずれ分るよ、ほら早く帰った方がいいよ。きっと待っているから」

 彼女に背を押され、どことなく不吉なものを感じながらもこれ以上の答えを得ることは出来そうにないとバイクに乗った。

「また、来るよ」

「次は無いよ。じゃあね」

 元気よく手を振って彼女は走り去っていた。

 目の錯覚だろうか、ふわりと彼女が消えてしまったように見えた。蜃気楼、そもそも彼女は本当に彼女だったのだろうか?

 次の瞬間、ブレーキ音と共に意識が飛んだ。


 *   *   *


「部長、なんですかその状態」

 翌朝学校には部長の姿があった。けれど包帯やらギブスやら入院時の僕以上に酷い姿だった。

「いやね、バイクで派手に転んだらこうなったんだよ」

「よく無事でしたね」

「昔から運だけはいいからね」

 ケラケラ笑う部長に呆れながらも僕は部長が帰ってきたことに安堵した。

「部長、何か収穫有りましたぁ?」

「あったとも!ほら土産だよ!大分潰れてるけどね!温泉まんじゅう」

 UFO味と書かれた饅頭に呆れながらも意外と美味しい饅頭に舌鼓した。




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