第6話 知らない女子生徒
「こんにちは」
クラスメイトだっただろうか?いいや、こんな子見覚えがない。
明日は退院だと部屋を片付けていた所だった。見舞いだと言って見知らぬ女子が僕に会いに来た。外見はどちらかと言えば地味、よく有る顔と言えばいいだろうか。あまり印象には残らない。
「どこかでお会いしましたか?」
間の抜けたことを聞いているなと思いつつもどうしても目の前の彼女の事が思い出せない。
「図書館で何度か。よく色んな話を聞いて回っていますよね」
なるほど、此方は知らずとも彼女は僕の事が目についていたと言う事だ。一方的な認識なら仕方ない。それよりもどうしてそんな子が見舞いに来たかと言う事だった。
「入院中暇だと思いまして、お話でもしようと思ったんです。噂話、お好きですよね?」
彼女はにっこりとほほ笑んだ。聞き心地の良い声に僕は思わず頷いていた。
* * *
放課後一人きりで教室にいると背後に人がいる気配がする。
そんなの気のせいだと友人は笑っていたけれど、私はとてもそれが恐ろしかった。
始めは居るような気がしていただけだったのだが、次第にその気配ははっきり存在を主張するようになってきたのだ。
私は一番前の席に座っているのだけれど、その気配は日に日に近づいてきている。今はまだ振り返れば気配は消えてしまうが、とうとう昨日は気配だけでなくなってしまった。後ろで、荒い呼吸音が聞こえるのだ。
振り返る勇気が無く、そのまま私は席を立ち、急ぎ教室を後にしたので背後の存在が何だったのか分らない。
「それなら放課後一人じゃ無ければいいんだよ。今日は一緒に残ってあげるよ」
友人は怯える私に気を使い、部活を休んで一緒にいてくれると言った。
友人と雑談をしながら私は宿題を進める。宿題を終えて、そのままバイト先に向かうのが日課なのだ。
「ところでさー、今度の休み映画でも行こうよー」
「えぇーバイトだよぉ」
友人が一緒のおかげなのだろうか?今日はあの気配や息遣いを感じることがない。
もしかしたら一人きりの教室にいるのが心細く感じて、勝手に思い描いた恐怖だったのかもしれないと安堵したときだった。
笑っていた友人の表情が凍りつく。
「どうしたの?」
私は恐くなりながらも友人が何を見ているのかが酷く気になって振り返ろうとした。しかし、私が振り返るより先に友人は教室を出て行ってしまったのだ。
宿題を続けているような雰囲気ではなくなり、教科書などを急ぎ鞄に詰め込んで友人が忘れていった鞄をもって走った。
玄関で震えている友人に声を掛ける。
「アレはもういなかった!?ついてきてない?!」
周囲を見回し怯える友人に、教室には嫌な雰囲気はもうなかったと告げても「アレはいる」とばかりを繰り返していた。
結局友人が何を見たのかは分からないままだった。何も教えてくれないまま友人は転校してしまったのだから。
あの時振り返っていたら友人と同じものを見ることが出来たのではないだろうか?友人が教室を飛び出してくれたおかげで見ずに済んで私は実に幸運だったと思う
* * *
彼女の話が終わった。
「その話には続きがあるよね?」
僕の質問に彼女は首を横に振る。
「続きは有りませんよ。もしもあなたが続きを知っているというのであればそれは改変された話じゃないんでしょうか?」
彼女はそう言って柔らかく笑った。
「一体どんな続きのお話があるんですか?」
「それから半年後に転校した友人と再会して、あの時何を見たのかを教えてもらうって話だったんだけど」
「じゃあ貴方は何を見たのか知っているんですね」
知っているかと言われると知っている、黒い塊だったと言う。ただし、その正体は聞いた人の元にやってくると言われているいわゆる自己責任系の話だった。
聞いてから3日以内に他の人に話せば遭遇しないで済むというものだったきがする。
「……いや、ごめん。話忘れちゃった」
そういうと彼女は「そうなの、残念」そう呟いて立ち上がった。
「忘れてしまったという話、誰かに話した事ありますか?」
「え、無いよ」
「勿体ない。貴方には『力』があるのに、使わないなんて」
一体何を言いたかったのだろうか?力とはどういう意味なのか分からない。綺麗な子だけどこの子は電波系なのだろうか?
「さよなら、また機会があったら会いましょう?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます