第11話 パスト
遂に一条陛下の率いる最後の人類の日本国民が氏家隊員の案内により奇跡の谷にたどり着いた。放射能生命体レディオアクティビティクリーチャと放射能人間レディエーションヒューマンの戦いに終止符が打たれようとしていた。
陛下率いる日本国民が奇跡の谷の入り口にやっって来た。
「これが奇跡の谷!? なんと美しいんだ!?」
臣下たちは日本国のように放射能汚染防止シールドの中に人工的に作られた水や緑ではなく自然な水と緑の溢れる美しい地球を見たのは初めてだった。
「俺が1番乗りだ! あの水も緑も俺の物だ!」
そして欲に目のくらんだ一部の人間が私利私欲に走り奇跡の谷に入ろうとした。
「抜け駆けは許さないぞ! 俺が1番だ!」
後を追うように多数の日本国民は奇跡の谷に向けて駆けていく。
「やった! 奇跡の谷に入った・・・ぞ・・・!?」
突然、奇跡の谷に入った人間が、まるで奇跡の谷に侵入を拒まれるように消滅した。
「ギャア!?」
急に止まれなかった日本国民は、次々と奇跡の谷に突入してしまう。そして見えないバリアでもあるのか、日本国民たちは一瞬で体が滅んでいく。
「いったいこれはどういうことだ!?」
臣下たちは隊員に詰め寄る。聞いていた奇跡の谷は放射能が消え、水と緑の溢れる美しい環境があると聞いていたからだ。それなのに人間を消し去る呪われた谷ならば聞いていた話と違いすぎるのであった。
「ええ!? そ、そんな!? 俺は普通に入れましたよ!? 奇跡の谷に!?」
隊員は困惑する。自分も男性も女性も娘も普通に奇跡の谷を出入りしていた。人が消えてしまうなど見たことはなかった。
「俺が行きます。奇跡の谷に入ってみせますよ。」
隊員は自ら奇跡の谷に入って、自分の言っていることは間違いではないと証明しようとした。
「ほら、どうですか? ちゃんと入れたじゃないですか。」
隊員は谷の中に入ることができた。姿が消えてしまうなどということはなかった。
「本当だ・・・大丈夫なのか。」
臣下たちは再び奇跡の谷に入ろうと恐る恐る試みる。
「ギャア!?」
やはり日本国民の臣下たちは奇跡の谷に入ることはできなかった。
「これはどういうことだ!?」
現在、奇跡の谷に入ることができたのは隊員1人だけだった。
「地球の意志です。」
女性が現れた。どこから現れたのかも分からないぐらい突然と女性が現れた。
「さくら!?」
陛下は女性を見つめる。会いたかった女性の方から自分の前に現れたのだ。
「一条。」
女性も陛下を見つめるが、女性には嫌な予感や陛下を好きではないという感情しか湧いてこなかった。
「氏家さん、あなたが谷に弾かれないのは、あなたに悪意があって、この人たちを連れてきたのではないということを証明してくれています。それでも、この谷のことは誰にも言わないで下さいねと言った約束は破ってしまったのですね。」
女性は隊員に、女性側の意見を伝える。
「え!?」
隊員には女性の言葉は、まるで自分が裏切り者のように言われているように聞こえた。
「あの、これは人助けです!? この人たちは放射能汚染防止シールドが破壊されて生き場がなくて困っていたので・・・。」
隊員には人助けかもしれないが、女性には迷惑な話で合った。
「他人を犠牲にして、自分たちだけ権威を振るっていた政治家や公務員、お金持ちの豚に人権があると思っているの? こいつらは最初から奇跡の谷を侵略する気よ。」
女性は、まだ物事の本質を理解していない隊員に、放射能の霧の中を態々ここまでやって来た日本国民の欲望や野心を教える。
「え!? そんな!?」
隊員は日本国民が奇跡の谷を侵略する目的でやって来たとは思わなかった。ただ奇跡の谷の人々と最後の人類の日本国民の生き残りが仲良く手を取り合って暮らしていければいいなっと思い、ここまで陛下と日本国民を案内してきたのである。
「ここは私が食い止めます。あなたは愛子が戦いに巻き込まれないように守ってあげて。愛子は家にいるから氏家さんは行ってちょうだい。」
女性は自分1人で陛下と1万人以上いる人間を相手にするつもりだった。
「お、俺も戦います!? こうなったのは俺の性だし!?」
隊員は女性を助けたくて言った。
「行って! ここにあなたがいても邪魔なの! それよりも愛子を守ってあげて!」
女性は怖い位の剣幕で隊員を怒鳴りつける。
「は、はい!?」
隊員は女性の迫力に気圧されたのか慌てて谷の中に向けて走り出した。女性の娘の居る方向に向けてである。
「愛子のことをよろしくね。」
女性は隊員の頼りない後姿に、そっと声をかけた。
「待たせたわね。」
女性は陛下と日本国民たちの方を向き直す。改めて見るとすごい数である。さすがの女性も圧倒されそうになるが、自分の意志を揺らげる訳にはいかない。
「さくら、生きていてくれたのか!?」
陛下はかつての想い人の女性の姿を見ても信じがたく疑う。それでも女性は自分の前にいるのだ。あの頃と変わらぬ姿で。
「一条・・・あなたこそ放射能に汚染されて、人間でなくなったのね。」
女性は男性から話を聞いている。陛下は放射能の霧の中でも生きていられる放射能人間レディエーションヒューマンになり、さらに放射能汚染は進んでいて放射能生命体レディオアクティビティクリーチャになりかけていると知っている。
「そうだ。本来なら俺もおまえや飛鳥と同じように放射能に汚染されて日本国の放射能汚染防止シールドの外の世界に捨てられるはずだった。それがどうだろう? 陛下というだけで俺が放射能に汚染されいることは隠蔽された。そして今では人の心のバランスもどこかおかしい化け物になろうとしている。滑稽だろう。笑えよ。」
陛下も自分の現在の状況を理解している。自分のことは誰よりも自分が分かっているというが、陛下は自暴自棄になりそうなくらい自分という者が分からなくもなってきているのだった。
「あなたが日本国の陛下になっていなければ、私たちは仲の良い友達でいれたかもしれないわね。」
女性は気は許さないが陛下に昔は友達だったことを懐かしそうに話す。飛鳥、一条、さくらは元々は仲の良い友達だった。
「俺を陛下にさせたのはさくら、おまえだ。おまえを手に入れるために俺は力を欲した。飛鳥なんかに渡すものかと陛下になったのだ。陛下になれば、おまえを皇后に迎えられと思ったからだ。」
陛下は自分が陛下になった経緯を語る。陛下が陛下になった理由は女性を自分のものにしたかった、ただそれだけであった。
「権力で私を手に入れてどうする!? 体は手に入っても、そんなんじゃ心は永遠に手に入れることはできないわよ!?」
女性は女心を語る。確かに権力やお金を好む女も多い。しかし女性は心から男性を愛していた。男性が放射能に汚染されて放射能の霧に捨てられると聞き、自分も放射能に汚染されて日本国から去ることを選ぶほどに。
「そうだな。おまえの遺伝子データでおまえソックリのクローン人間を作ったが虚しいだけだった。ただ俺の言うことに忠実で、俺の言うことにおまえみたいに反論もしてくれないロボットに過ぎなかった。」
陛下の皇后のなまえはさくら。女性の遺伝子データから作られたクローンである。外見は同じでも心までは女性と同じにすることはできなかった。クローンを手に入れた陛下の心は本物の女性を失ったのだと壊れ始めた。
「キモイ。私の遺伝子データを勝手に使わないでもらえる。」
女性は自分と同じ外見のクローン人間が陛下の相手をしていると思うと背筋がゾクッとしたような感覚になり吐き気がした。
「俺は何のために、友を放射能に汚染させたのだろう。結果的に自分も放射能に汚染され、友を、愛する人を失っただけだった。」
男性が放射能に汚染されたのは、陛下が男性を放射能に汚染させ放射能汚染防止シールドの外の世界に捨てられ、1人になった女性を自分のものにしようという姑息な罠だった。しかし結果的に陛下も男性と共に放射能に汚染されてしまった。
「私は知っていたわ。あなたが飛鳥に放射能に汚染される罠を仕掛けたことを。だから私も罠にかかり、自ら放射能に汚染され、飛鳥と共に放射能の霧の中に行くことを選んだ。あなたのものになんてなりたくなかったからよ。」
女性は陛下が男性に罠を仕掛けたことを知っていた。知っていたうえで女性自ら放射能に汚染されることを選択したのだった。
「そんなに俺のことが嫌か!?」
さすがの陛下も女性の告白に精神的なダメージを受ける。女性は陛下が暗躍していたことは知っていたが、陛下は女性が好き過ぎて自分が嫌われているとは思ってもいなかった。陛下の独りよがりの片思いだった。
「はあ!? 私の大好きな飛鳥に酷いことをしたあなたを、どうして私が好きにならないといけないのよ!?」
女性の女心がとことん分からない陛下であった。
「ガーン・・・。」
陛下は落ち込むのだった。
その頃、奇跡の谷に入って行った氏家隊員は女性の言いつけ通り、女性の娘に再開していた。
「氏家!?」
娘は旅立った隊員が直ぐに帰って来てくれたのが嬉しく笑顔で迎える。
「愛子ちゃん!?」
隊員も娘と再会して嬉しくて、笑顔で駆け寄ってくる娘を受け止める。隊員20才としても娘はまだ5才である。それでも2人には不思議な縁があるように思える。
「おかえり! 氏家!」
娘は普段通り隊員に接する。
「ただいま、愛子ちゃん。相変わらずの呼び捨てだね・・・。」
隊員の方は年下の小さな子供に呼び捨てにされることに少し不満があるようだった。
「ゴホゴホ。」
娘は咳をする。
「愛子ちゃん、風邪?」
隊員は娘を心配する。
「うんうん。大丈夫。氏家こそ、人助けの旅に出たはずなのに帰ってくるのが早いね?」
娘は隊員に尋ねる。
「あのね!? 俺は人助けでたくさんの人を助けようと多くの人々を、この谷に連れてきたんだ。・・・ただ、その人たちが奇跡の谷の水や緑の溢れた美しい自然環境に心を奪われて、奇跡の谷を侵略をしようとし始めたんだ。」
隊員に悪気はない。それは女性も証言してくれている。ただ権力やお金に塗れた豚には先に住んでいる人などどうでもよかった。自分たちの私利私欲を満足させることしか頭にないのであった。
「ええ!? なんでそんな豚さんを連れてきたのよ!? 氏家のバカ!?」
娘は、まだ子供なので表現が直線的であった。心に思ったことを素直に口に出して言葉を声としてしまう。
「そ、そんな!? で、でもね。今、さくらさんが谷に入れないように戦っているから大丈夫だよ!?」
隊員は娘の母親の女性が欲に塗れた豚と戦っていると言ってしまう。
「お母さんが!?」
娘は自分のお母さんが戦っていて危険だと聞くと居ても立っても居られなくなる。
「精霊さんたち! 全員集合!」
娘の大声が奇跡の谷に響き渡る。
「ピク。」
奇跡の谷に生息する土や草、水に風に火などのありとあらゆる精霊たちが娘の号令に耳を傾け、急いで娘の元に大集結する。その数は優に100を超えている。
「よく来てくれた! 精霊さんたち! これより愛子のお母さんを助けに行く! 全員、何が何でもお母さんを守って!」
娘の指示が全ての精霊さんたちに届く。精霊たちは娘のことが大好きだ。そして自分たちを生み出してくれた娘の母親のことも大好きである。
「おお!」
精霊たちは娘と女性のためなら何でもする覚悟である。
「行くよ! 精霊さんたち! 愛子に続け!」
娘は精霊たちの先頭に立って奇跡の谷の入り口の方に向かって行く。娘の後を精霊たちもついて行く。
「ま、待ってよ!? 愛子ちゃん!?」
隊員も愛子と精霊たちの後を追った。
その頃、皇居に攻め入った男性と黒マントの男たちは、放射能の霧の中を奇跡の谷に向けて急いで戻っていた。
「あれは!?」
男性たちはやっと皇居にいたであろう最後の人類の日本国民の大移動をしている人間たちの最後尾らしき人間に遭遇した。しかし何か様子が変だった。
「ダメだ全員死んでいる。放射能に汚染されたのと放射能生命体レディオアクティビティクリーチャに襲われたのが原因だろう。」
黒マントの男たちのリーダーが倒れている人間の様子を見て死因を言い当てる。
「噂をすれば影だな。」
黒マントの男たちのリーダーが言ったからかは分からないが、男性たちの前に人間んの肉と血の臭いに惹かれて、獰猛そうな放射能生命体レディオアクティビティクリーチャたちが複数現れた。
「飛鳥、先に行け。ここは俺たちが引き受ける。さくらを、俺たちの地球を守ってくれ。」
黒マントの男たちのリーダーは男性を先に奇跡の谷に向かわせることにした。
「逢坂、ありがとう。」
男性は黒マントの男たちに感謝して、女性と娘の待っている奇跡の谷を目指して駆けだした。
「さあ、みんな。こいつらを片付けるぞ。」
黒マントの男たちのリーダーが仲間の黒マントの男たちに号令をかける。
「おお。」
黒マントの男たちと放射能生命体レディオアクティビティクリーチャとの戦いが始まる。
奇跡の谷の出入り口付近。女性と陛下と豚共が対峙している。
「さくら、どうしても俺のものにはならないつもりか?」
陛下は女性に最後の確認をする。
「誰があんたなんかのものになるもんですか!」
女性は陛下の告白を拒絶する。
「そうか・・・なら仕方がない。力づくでおまえを手に入れる。」
陛下は話し合いでは女性を手に入れることができないと理解した。これからは武力を行使して力づくで女性を、奇跡の谷を手に入れると宣言する。
「地球を汚させはしない。」
女性は自分も奇跡の谷も守ろうと決心する。女性には愛する娘の居る、この美しい地球を化け物や権力やお金に目が暗んだ豚に汚させたりはしないと徹底抗戦するつもりだ。
「いけ! 者共! 谷に侵入するのだ!」
陛下は臣下に奇跡の谷の号令を命令する。
「おお!」
臣下たちは陛下の命令に一斉に奇跡の谷に攻め込んでいく。
「ギャア!?」
奇跡の谷は臣下たちを消滅させていく。
「なんだ!? いったいどうなっているんだ!?」
臣下たちは歩みを止め奇跡の谷に攻め入るのをやめる。谷に入った人間たちが消滅していく。臣下たちには何が起こっているのか分からなかった。分かっているのは奇跡の谷に入っていった人間は消えてしまうということだけだった。
「あなたたちを地球に入れる気はないわ。」
女性はきっぱりと陛下や権力とお金が好きな日本国民を水と緑の溢れる美しい地球を再生しようとしている奇跡の谷に迎え入れる気はなかった。
「さくら、いったい何をしている!? おまえの仕業なのか!?」
陛下は奇跡の谷に人間が入ることができないないのは何らかの原因があると感じた。その原因が、人間が奇跡の谷に入ることを阻んでいるのは女性だと陛下は悟った。
「そうよ。人間は愚かで一部の権力者の私利私欲のために戦い傷つけ奪い合った。その結果が地球は放射能の霧に覆われ死の星となった。人間は水も緑も無くした。もう生き残っている人類は、ここにいる者たちだけだというのに、あなたたちは侵略を続けるというの!?」
女性は水と緑の溢れる美しい地球に人間が行ってきた愚かな行いを言って戒めようとする。それは女性なりの、この戦いを止めさせたいという想いからだった。
「ふん、無くしたものが多過ぎて忘れたな。悪いが美しかった頃の地球を見たことが無いんでね。感動のしようが無いんだ。」
陛下は女性の言葉を受け入れずに戦うつもりだった。陛下と権力とお金に魂を売った人間は相手の良いものを奪わずにはいられない野心や欲望を抑えることができなかった。
「・・・分らずや。」
女性は話し合いで解決できなかったことに嫌気がさす。
「全員、奇跡の谷に突撃しろ! 中にいる女を捕まえるんだ!」
陛下の狙いは女性だった。仕掛けは分からないが奇跡の谷に人が入ると消滅してしまう。おそらく女性の仕業だろうと感じた陛下は女性を捕えることを日本国民に命令する。
「・・・。」
しかし奇跡の谷に入ると自分の命が無くなってしまうので、陛下の命令であっても日本国民も奇跡の谷に入ることを躊躇する。
「おまえたち、俺に殺されるか、谷に飛び込むか、どちらか好きな方を選べ。」
陛下は臣下たちに好きな死に方を選ばせる。日本国民の臣下たちは奇跡の谷に攻め込んでも死に、奇跡の谷に入らなくても陛下に殺されるのだった。どちらを選んでも死んでしまう可能性がある究極の選択だった。
「クソッ!? 何もしないで殺される位なら・・・。」
日本国民の臣下たちは死ぬことを覚悟して奇跡の谷に攻め込んだ。
「ギャア!?」
案の定、奇跡の谷に突撃していった日本国民の臣下たちは汚いものが浄化されるように消滅していき、被害は直ぐに100人を超えた。
「怯むな! 突撃だ!」
陛下の号令で日本国民の臣下たちは奇跡の谷に攻め込むことをやめれずにいた。
「はあ・・・はあ・・・絶対に地球は守ってみせる!」
女性は襲いかかってくる汚らわしい欲望に支配された人々と対峙するのに精神的にかなりの負担を受けていた。女性の息が少しずつ荒くなっていく。それと同時に欲の塊の人間たちを遮断している奇跡の谷を覆っているような見えないバリアが霞んでいってしまう。
「見ろ! 谷の中に入れるようになってきたぞ! 日本国民よ! 陛下である世のために死ね!」
陛下はチャンスを見逃さなかった。女性が弱さを見せたところで攻撃の手をさらに強めるのだった。
「はあ・・・い、意志が、私の意志が・・・!?」
女性は迫りくる悪意の猛攻に精神と肉体にダメージを受けてしまう。女性1人で水と緑の溢れる美しい地球を維持し続けるのが難しくなってきた。
「これは!? どういうことだ!?」
女性が弱ると奇跡の谷も揺らいで見えるように見える。水も緑も揺らいで見える。きれいな空気も少しずつだが放射能が混ざっていくように見える。
「ダメ!? はあ・・・。守らなくっちゃ・・・愛子の生きる地球を・・・。」
女性の意志は娘の生きる美しい地球を維持・守ることだけを想っていた。
「さくらが弱れば、美しい自然が揺らぐ・・・これでは、まるで!?」
陛下は様々な想像を繰り広げ認めたくはないが一つの結論を導き出そうとしていた。
「よし! もう一押しだ! 女を捕えろ!」
揺らぐ奇跡の谷の中に欲に支配された日本国民の臣下たちが女性を捕えようと女性を襲う。
「キャアアア!?」
女性は精神的に追い詰められ、体力的にも限界で抵抗することができなかった。
「水桜!」
女性の危機を救ったのは男性だった。水は鋭い刃物のように襲い来る日本国民の臣下たちを一瞬で切り殺した。
「あなた!?」
女性は自分の旦那の登場に微笑んで喜ぶ。
「飛鳥!?」
陛下は男性の登場に顔を歪める。男性も自分と同様で放射能人間レディエーションヒューマンという特殊な存在なのだった。
「さくら!? さくら大丈夫か!?」
男性は妻である女性に駆けつけて女性の体を抱き支える。
「ご、ごめんなさい。意識を保たないといけないのに集中しきれなくて・・・。」
女性は男性に謝る。
「さくらは、よくやったよ。」
男性は1人で陛下や大量の欲望塗れの豚の相手をしていた女性を気遣う。権力やお金に魂を売った汚れた人間を相手にすれば、清い心も少しずつ汚染されてしまう。
「ありがとう、飛鳥。」
女性は男性が来てくれたのが嬉しかったのか精神が安定してきた。女性の浴びてきた人の欲望が女性から消えていく。
「あとは俺に任せろ。」
男性は陛下を睨む。昔からの知り合いとの因縁をつけるつもりである。
「分かった。私は美しい地球をイメージし直すわ。このきれいな青空だけは守ってみせる。」
女性は水と緑の溢れる美しい地球を再構築すると言う。女性にとって娘の生きる地球が全てであり、女性が一度でいいから見てみたいと願った美しい地球を守ることが女性の意志である。
「もう、話は澄んだのか。」
陛下は男性と女性の茶番劇が終わるのを待っていた。これも昔の友だからだろうか。
「待たせたな。」
男性も陛下の方を向き立ち上がり対峙する。
「飛鳥、俺に嘘ばかりついて、よくも裏切ってくれたな。」
陛下は男性に恨み節を言う。
「嘘? 嘘をついたのはおまえだろう、一条。おまえが俺に嘘をついて罠に嵌めなければ俺は放射能に汚染されていない。」
男性は表面は笑顔で接していたが、やはり自分を放射能に汚染される原因を作った陛下を許せないでいた。男性は自分が放射能に汚染されて、放射能汚染防止シールドの外の放射能の世界に捨てられることが無ければ、愛する女性も放射能に汚染されていなかったかもしれないのだ。2人で放射能汚染防止シールドの外の放射能の霧の中に平和な日本国から捨てられることもなかったのかもしれないのだった。
「それは飛鳥! おまえが悪い! 俺のさくらをおまえが奪ったからだ!」
これは陛下の一方的な片思いだが、陛下からすれば男性の存在が自分と女性との恋を阻む邪魔だった。
「なんだと!? さくらの気持ちはどうするんだ!? 今も昔もさくらはおまえなんかのことを好きじゃないのに!?」
男性は女性の気持ちを代弁する。自分の好きではない男性に言い寄られる。これこそ女性にとっての不幸であり、仮に女性がしつこさに負けて受け入れたとしても、後の人生は抜け殻である。
「そんなことはどうでもいい。これから好きにすればいいだけだ。さくらは俺のものだ! 飛鳥、おまえには渡さん!」
陛下の独りよがりの思いが、自分のことを偉いと思う権力が強引な悪しき意志を生み出してしまっていた。
「一条! おまえを殺す!」
男性は陛下との最後の戦いをする覚悟をした。
「飛鳥! おまえさえ消し去れば、さくらは俺のものだ!」
陛下も男性を消し去ろうと考える。そうすれば好きな女性を自分のものに出来るという自己中心的な発想だった。
「そんなことはさせない! さくらは俺が守る!」
「いくぞ! 飛鳥!」
男性と陛下の最終決戦が始まった。2人は駆け寄り中心で激しくぶつかり合う。男と男の女性を巡る戦いである。どちらも退くことはできない。それほど女性のことが好きだった。
「水桜。」
男性は体を水のように液体化し陛下に襲い掛かる。
「消去してくれる! デリート!」
陛下は大きく手を振りかざし、近づいてくる男性を消し去ろうとした。
「くらうかよ!」
男性は液体化している体を利用して陛下の攻撃を避ける。物体ではない液体を捕まえることは、どんな攻撃でも消し去る特殊能力を持っていても消去することは難しかった。
「チッ!?」
陛下は自分の攻撃が男性に当たらないのでイライラする。どんなに相手を消去する能力であっても、当たらなければ問題が無いのであった。
「これで終わりだ!」
男性は勢いを加速させて陛下に向けて突撃する。一気に決着を着けようとする。
「う!?」
しかし、その時、男性の動きが止まる。
「なんだ!? 体が動かない!?」
男性にも何が起こっているのか分からなかった。
「ごめん・・・飛鳥。」
水と緑の溢れる美しい地球を再生しようとしている女性はかなりのダメージを受けていた。もう奇跡の谷を維持するのが難しいのと同じく、女性が男性をイメージして男性を存在させることも難しくなっていた。
「さくら!?」
男性も女性の身に何かあったと気づく。女性を見るが女性も苦しそうに座り込んでいる。もう地球の再生どころの話ではなくなっていた。
「んん!? どういうことだ!? 飛鳥が動かなくなったと思ったら、さくらが苦しんでいる。」
陛下にも何かが変なことに気づいた。男性と女性が共鳴するようにお互いを想い苦しんでいる。
「はあ・・・はあ・・・。」
女性は今までの権力とお金の邪な豚を浄化し続けて、人間の良くない感情に汚染されダメージを受けてしまった。きれいな純粋な心を持っていないと、水と緑の溢れる美しい地球をイメージすることができない。男性についても同じである。
「さくら・・・。」
男性も液体から人間の姿に戻って地面に座り込んでいるが、姿自体が薄くなっている。まるで消えてしまいそうだった。
「これはいったいどういうことだ!?」
陛下は男性と女性の関係を見ていて不思議に思う。認めたくはないが男性と女性は自分たちの痛みすら共有しているように見えた。さすがの陛下も2人の間に自分が入り込む余地がないのではないかと思った。
「まるで、これではさくらが傷つけ、飛鳥も傷ついている見たいじゃないか!? そんなことがあるというのか!?」
陛下は一方的に女性を愛し奪い取ろうと考えていた。そんな自分勝手な男が目の前の男性と女性の愛し合う気持ちに心がうろたえるのであった。もしかしたら陛下は誰かに愛されたことが何のかもしれない。または誰かを愛したことが今まで無かったのかもしれない。
「お父さん! お母さん!」
そこに男性と女性の娘の愛子が現れる。草の精霊や水の精霊などの100体以上の精霊たちを引き連れて現れた。娘を追って隊員もやって来た。
つづく。
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