第7話 ウォウント

放射能人間レディエーションヒューマンの男性の飛鳥は放射能生命体レディオアクティビティクリーチャとの話し合いを終え、さくらたちのいる谷に水と緑のある谷に戻って来た。

「あ!? おかえりなさい! お父さん!」

男性が戻って来たのを娘の愛子が見つけた。谷に住む人々は放射能汚染防止シールドの中の日本国と同じように普通に生活を送っていた。まだ谷の人口は100人を超えたくらいである。男性が放射能に汚染され日本国から捨てられた人間を助けられる範囲で助けて谷で平和に暮らしている。

「ただいま、愛子。」

男性は明るく元気に笑顔で出迎えてくれる娘に笑顔で返事をする。

「あなた、おかえりなさい。」

妻のさくらも男性を優しく出迎えてくれる。

「ただいま、さくら。」

男性は女性にも無事に帰って来たと伝える。

「よかった。」

女性は男性が谷から出て放射能の霧に行くと無事に帰って来れるのかと心配する。そして無事に帰ってくると瞳から涙を流して安堵する。放射能で汚染された世界で奇跡的に生活している人々の暮らしとは、そういうものだった。

「大袈裟だな。」

男性は女性が落ち着くように抱きしめる。男性の意志は女性であり、女性の意志は男性である。2人は放射能で汚染された世界でお互いを支え合っている。

「おい、周りの人間の目はどうでもいいのか? 子供もいるんだぞ?」

男性に助けられた日本国の警備隊の氏家隊員が目の前でいちゃついている男性と女性に指摘する。

「これが我が家の教育方針だ。もしかしたら今日、地球が滅びるかもしれない。もう好きな人に、愛する人に会えないかもしれない。これは温室で暮らしている時には感じなかったものだ。この世界に来てから、1分1秒が大切になった。自分ができることを一生懸命やろうと思えるし、何もしないという選択肢はない。みんな、ここで生きている人は助け合って生きているんだ。」

男性は隊員に死と隣り合わせの世界で生きるということがどういうことなのかを諭す。

「もし飛鳥に何かあったら、私は存在し続けることはできない。その時は、きっとこの奇跡の谷も滅んでしまう。水が湧き出し緑が育ってきた谷も一瞬で放射能に呑み込まれてしまうでしょう。」

女性も男性に続いて、地球再生の最後の可能性がある谷が地球を甦らせてくれる、再び地球が水の惑星と言われた地球に戻れると信じている。

「絶対にそんなことはさせない! この子の、愛子の生きる世界を必ず守ってみせる!」

男性は力強く言う。女性も頷いて同調する。普通の世界でも、放射能に汚染された世界でも親が子供の幸せを願うことは変わらないで同じである。

「愛子ちゃんのお父さんとお母さんは、いつもこんな感じなの?」

隊員は男性と女性の態度を見て冷ややかに娘に聞く。

「そうだよ。お父さんとお母さんは仲良しなの。」

娘は両親が仲良しで嬉しくて笑っている。子供にとって両親が仲が良いことが1番の幸せである。

「・・・あっそう。」

隊員は子供だから仕方がないと思いつつも、親が親なら子供も子供と思った。

「ハハハハハ!」

親子の楽しい笑い声が響き渡る。

「こいつの汚染具合はどうだ?」

男性が女性に隊員の体がどれぐらい放射能に汚染されていたかを聞く。

「まだ初期の段階で軽度よ。きっと直ぐに良くなると思うわ。」

女性は男性に隊員の放射能汚染の状態を伝える。

「そうか、それは良かった。だそうだから少しの間この谷に居れば、完全に放射能が体から消えるだろう。」

男性は隊員の体の汚染が軽傷で安心した。そして体から放射能が消えると言うのだ。

「ちょ、ちょっと待て!? 本当に放射能で汚染された体から放射能が消すことができるのか!?」

隊員の知識では、放射能に汚染された人間は放射能汚染防止シールドに守られた日本国から外の放射能の霧に覆われた死の世界に捨てられる。それは放射能に汚染された人間は元の純粋な人間に戻ることができないからだ。それなのに男性は隊員の体から放射能が消えると言うのだ。

「この谷には不思議な力がある。この谷には放射能の霧が入ってこない。それどころか放射能を除去しながら少しずつ広がっている。」

男性は隊員に奇跡の谷の話をする。この谷には放射能を除去する力があると言う。

「なんだって!? そんなことがあるのか!?」

隊員は耳を疑う。愚かな人類は核戦争を行ってしまい、青い地球を放射能に汚染された死の惑星にしてしまった。それなのに放射能の霧に覆われた谷の奥地で新しい地球が生まれ、放射能を除去しながら少しずつ地球が再生しようとしている。

「地球は生きているわ。そして傷ついた地球は自己再生を始め、再び水と緑に覆われた美しい世界を取り戻そうとしているの。」

女性は隊員に地球が生きていると言い、水の惑星と言われた地球の姿を取り戻そうとしている。

「地球だけじゃない、俺たちも生きている。見てみたいと思わないか? 美しかった地球を。俺は愛子に水と緑に包まれた、人間だけじゃない鳥や魚などの動物たちが地球で普通に暮らしている地球。放射能に汚染されていない澄んだ空気の地球を。」

男性は隊員に生きとし生ける者の地球の姿を取り戻してほしい、娘に地球はきれいな美しい星だと見せたかった。

「もし、もしもだ。本当に地球から放射能が無くなって、地球がかつての自然あふれる世界に戻れるなら、それは素敵なことだと思う。そうすれば人類は人工的に子供を作らなくても、自然に生活の中で子孫を残して生活していけるかもしれない。」

隊員も放射能に汚染されていない地球に戻れたらなんと素敵なことだろうと考える。隊員は自分をまだ人間だと思っているから、日本国の人々が生きていければ良いと思っている。既に日本国では警備隊の4人は放射能感染者として死亡登録されているとも知らずに。

「・・・。」

男性は隊員の意見に何も言わなかった。まだ人類を信じている隊員には何を言っても聞く耳を持ってくれないだろうと、ケンカになるのなるかもしれないのなら黙っていることを選択した。

(それは無理だな。放射能汚染防止シールドの中で暮らす人間は、自分たちは特別だと思っている。既得権益に守られている強者は自分たちが生き残るためには、用の無い弱者は捨てるような人間たちだ。そんな人間たちだけが生き残ってしまった。もし、中の奴らが奇跡の谷のことを知れば、ここに兵士を大量に送り込んできるだろう。残念だけど、権力に呑み込まれた人の仮面を被った悪魔ばかりだ。)

男性だけではない。女性も同じことを思っている。幸いこの谷に住んでいる人々も同じことを感じている。自分たちは捨てられたのだと。放射能に汚染されたのだと。国のことを信じていても裏切られたという感情が、放射能の霧の中で暮らす人々の心にはある。

「奇跡の谷があって良かった。これで人類は絶滅の危機から解放されるかもしれない。」

隊員はまだ放射能の世界で生きている人々の気持ちには気づいていなかった。

「残るにしろ、帰るにしろ、感知するまで1週間は、この谷の中で暮らすんだ。絶対に谷の外に出てはいけない。放射能生命体レディオアクティビティクリーチャがお腹を空かせて待っているからな。」

男性は隊員に谷から出てはいけないと言う。

「わかった。俺も死にたくない。」

隊員も分かったと言う。化け物が待っている放射能の霧の中に行く気はなかった。しかし隊員には一つの疑問が生まれる。

「なら、俺はどうやって帰るんだ? 化け物にも襲われず、放射能にも汚染されずに帰る方法があるのか?」

隊員の質問もごもっともだった。放射能生命体レディオアクティビティクリーチャに殺されずに、地球する浸食した放射能の霧の中を進み汚染されない、そんな都合の良い方法があるのだろうか。

「この谷にいる精霊を持っていけばいい。きっと精霊が放射能から守ってくれるだろう。」

奇跡の谷には、元の地球にいたであろう色々な種類の精霊がいる。水の精霊、緑の精霊などである。男性たちのいる谷では放射能に汚染された地球を少しずつ、きれいな元の美しい地球に戻そうとしている。この精霊たちが宿る美しい自然な状態で新しい地球になることができれば、地球から放射能を追い出し、きれいな地球が再生するはずだ。

「すごい!? 精霊ってすごいんだな!?」

隊員は自分の周りでも風に乗ってユラユラしている風の精霊や、男性たちの娘の肩に乗っている花の精霊を見て、改めて精霊たちの存在の意義を知った。

「地球には元々、精霊が住んでいた。人類が進化の過程で人間に進化し、水や緑を自分たちのエゴで破壊していったんだ。昔の地球は生きとし生ける者の憧れだった。」

男性は本来の地球の有りし姿を言う。地球には人間、精霊、動物、植物などが共に生き共存していた。それを壊したのは人間なのだ。自分たちの生活の向上のために地球を破壊し続けた。最後には地球全土を手に入れようという人間の野心のために地球は放射能に包まれ、地球上の全ての生き物は滅亡寸前まで追い詰められた。

「うそ!? 信じられない!? 地球は霧の星だもん。」

その時、娘が父親である男性の話に疑念を持つ。娘は青い地球を知らない。正確に言えば、今、生きている人間は水の惑星と言われた地球を見たことはない。なんらかで知識だけで知っているといった方がいいのかもしれない。青い地球は伝説であり今を生きている意志が地球は水と緑が溢れて、人々の楽しそうな笑顔がある星であろうという夢と希望を信じている。

「そうだな。この愛子が住んでいる、この谷だけが本来の美しい地球で、この谷の外は危ないから絶対に出ちゃダメだぞ。」

父親である男性はカワイイ娘に注意する。奇跡の谷以外には放射能で汚染された世界が広がっている。隊員のように普通の人間は放射能に汚染され死んでしまう。自分の娘には美しい地球で平和に豊かに暮らしてほしいのである。

「は~い。」

娘は父親の男性に渋々と返事をしたように見えた。子供には言葉だけでは何が危ないのかが伝わらなかった。子供特有の好奇心が外の世界を見たがっていた。

「そろそろ家に帰ろう。氏家、おまえの部屋も用意してある。」

男性は保護してきた隊員の生活する部屋も用意していた。

「ありがとう。」

こうして男性、女性、娘、隊員は自宅に引き上げて行った。



そして黒マントの男たち放射能生命体レディオアクティビティクリーチャが動き始める。放射能生命体レディオアクティビティクリーチャたちが外から放射能汚染防止シールドを破壊し始めた。

「キャア!? なに!? ほ、ほ、ほ、ほ、放射能よ!?」

放射能汚染防止シールドの中のきれいな環境で生きてきた人間は恐怖した。今まで安全と思われた放射能汚染防止シールドに守られた日本国の平和は脆くも崩壊した。

「シールドが破壊されたんだ!? 放射能が入ってくるぞ!?」

なぜ簡単に放射能汚染防止シールドが破壊されたのか。それは外の世界は放射能の霧に覆われ、生物や植物は生存しないものと思われていた。しかし放射能の霧の中には特殊変異であろう放射能生命体レディオアクティビティクリーチャが存在した。要するに放射能汚染防止シールドは今まで攻撃されたことがなかったというだけである。シールドも壊すことが可能であったというだけであった。



そして男性の住んでいる放射能の霧の中の奥地にある奇跡の谷に一番近い放射能汚染防止シールドに男性がやって来た。

「来たか。」

そこに黒マントの男が1人立っていた。その男は右腕が無かった。

「逢坂。」

男性は黒マントの男の名前を呼んだ。2人は面識があるようだ。

「遅かったな。こっちは放射能汚染防止シールドにもたれて、もしも右腕のように存在が無くなっても困るので、ずっと立ちっぱなしだ。」

黒マントの男は身振り手振りを付けて、おどけたように気軽に話しかける。

「まさか、おまえが俺の相手とはな。」

男性は自分の相手をする放射能生命体レディオアクティビティクリーチャが黒マントの男たちのリーダーと知り、少し動揺する。動揺するぐらい目の前の黒マントの男は強いのだった。

「んん!? 俺しかいないだろう? おまえの相手ができるのは。」

黒マントの男も分かっていた。男性は強く、誰か他のメンバーを向かわしては倒されて消滅してしまうことを。

「そうだな。悪いが俺も用事がある。早く勝負を着けよう。」

男性は宣戦布告をすると、駆け足で黒マントの男に突撃していく。

「いいだろう。餞別に俺が大きな穴を空けてやろう。」

そう言うと黒マントの男の無い右腕がドラゴンの顔のような腕を形成していく。これがこの男が放射能生命体レディオアクティビティクリーチャを統率していくために他の黒マントの男たちのメンバーから認められた力である。放射能生命体レディオアクティビティクリーチャ・タイプ・ドラゴン。黒マントの男の意志で作り上げたドラゴンと思われる最強のモンスターである。

「しっかり避けろよ! 吠えろ! ドラゴン!」

ドラゴンの顔の右腕からメガ粒子砲のような大きな炎が吐き出される。炎は男性を目掛けて襲いかかる。

「水桜。」

放射能人間レディエーションヒューマンの男性の体が水のように変化し、炎を高速で移動する水として回避していく。そして液体となった男性は黒マントの男に近づいていく。

「飛鳥、もうすぐおまえも放射能生命体レディオアクティビティクリーチャになってしまうだろう。取り戻せよ、自分を。」

黒マントの男は男性にエールを送る。黒マントの男が男性に言う、自分を取り戻すとはどういうことなのだろう。

「逢坂、いつもありがとう。」

男性は黒マントの男に礼を言う。この2人には多くを語らなくても分かり合える信頼感のような目に見えない絆があった。黒マントの男は自分も放射能人間レディエーションヒューマンから放射能生命体レディオアクティビティクリーチャになろうとしている。人では無くなろうとしている。何らかの方法があって、回避するなり解決方法があるのなら、黒マントの男は男性を自分と同じ目には合わせたくなかった。

「いけえええええええ!」

黒マントの男は、自分とすれ違って行った男性を狙うように、ドラゴンの炎を放射能汚染防止シールドに当てる。

パキパキパキ!!!

大きな音をあげて放射能汚染防止シールドが破壊されていく。そして放射能が放射能汚染防止シールドの中に流れ込んでいく。それと同時に水と化している男性も放射能汚染防止シールドの中の日本国に突入していく。

「俺たちのようにはなるなよ。」

そう言うと黒マントの男は放射能の霧の中に消えていった。



この日、初めて放射能汚染防止シールドが破られた。破られた複数の場所から放射能が侵入していく。一般国民は初めて日本国の外の世界の恐怖を知った。外の世界は放射能の霧に包まれていた。

「キャアアア!!!」

「放射能だ!?」

放射能汚染防止シールドが破壊された場所から放射能が入っていった。人々は悲鳴をあげて逃げまとったが、人口に作られたきれいな空気の空間は放射能に侵されていった。もう人間に逃げ切る術はなかった。

「いや!? 汚染されたら、外の世界に捨てられる!?」

自分が同じ立場になったら、初めて他人の痛みが分かるという。まさに人工的に作られた平和の世界は形だけで、自分が放射能に汚染されるかもしれないという状況になって、初めて放射能の死の世界に捨てられることに恐怖する。

「終わりだ!? これで人類は滅亡するのだ!?」

平和に暮らしていた人々の生活はあっけなく崩れ去った。平和とは簡単に終わってしまうものなのかもしれない。今回、放射能汚染防止シールドが破壊されたことにより生き残っていた少数の人類が放射能に汚染されて死に絶えてしまうと思われた。



放射能人間レディエーションヒューマンの飛鳥は、目的のものを目指して皇居までやって来た。皇居の周囲までは、まだ放射能の霧は来ていない。

「やはり皇居にはシールドを張っていたか!?」

皇居には放射能汚染防止シールドが張られていた。皇居は陛下が住み日本人の要職者や研究施設、お金持ちなどが住んでいる。皇居だけは厳重に守られている雰囲気があった。

「だが、放射能人間レディエーションヒューマンの俺にシールドは関係ない。」

飛鳥は放射能汚染防止シールドを気にせずに、皇居の中に体を飛び込ます。

「水桜。」

男性は体を液体化し皇居のお堀の池に飛び込む。そしてそのまま配水管を通り皇居の中に侵入していく。



案の定、皇居の中は外枠の放射能汚染防止シールドが壊されて、日本国の中に放射能の霧が入ってきたことでパニックになっていた。

「山手の放射能汚染防止シールドが破壊されたぞ!?」

「ここは!? ここはダイジョブなのか!?」

「嫌だ!? 放射能に汚染されたくない!?」

皇居の内側の名誉日本人ともいうべき権力者やお金持ちは混乱していた。もしかしたら自分も放射能に汚染されて捨てられてしまうかもしれないと他人事が自分のことになり、放射能の恐怖を感じていた。



その最中、放射能人間レディエーションヒューマンの飛鳥は目的の物の前にいた。

「あった! あったぞ!」

遂に男性は見つけた。手に持っているのはコンタクトレンズのケースのような小さなケースだった。その部屋は冷たく冷蔵庫のようなものだった。男性が侵入したのは遺伝子研究所だった。

「俺のとさくらのだ。」

男性が求めていたのは日本国に保管されていた、自分と女性の放射能に汚染される前の純粋な人間の頃の冷凍保存されていた遺伝子である。

「これがあれば・・・。」

男性は目的を果たし研究所から去って行く。皇居の中は放射能汚染防止シールドが破壊されて、ずっと警報が鳴り響いているので男性が研究所に侵入したことには誰も気づかなかった。男性は追ってもなく無事に皇居から脱出することにも成功した。



男性は皇居のお堀の水の中から姿を現した。皇居の周りは放射能の霧に包まれていて、もう人間の姿はなかった。放射能汚染防止シールドが破られたことによって日本国といわれた土地に放射能の霧が入り込み、一時で放射能の霧が立ち込め平和に人間が暮らしていた世界は、死の世界に変わってしまった。

「見慣れた景色だ。」

男性は寂しくなったが、自分たちは日本国に放射能に汚染され排除のために捨てられてから、この霧の中で生きてきた。もう放射能の霧を見ても普通になってきてしまっていた。もう何も感じなくなってきているのかもしれない。

「さくらと愛子が待っている。」

そう言うと男性は放射能の霧に覆われた日本国を駆け足で、愛する妻と子供の元に帰って行くのだった。



皇居の陛下の間がある。そこに一条陛下と日本国の重鎮たちが集まり、放射能汚染防止シールドが壊れた原因を話し合っていた。

「どうして放射能汚染防止シールドが破壊されたんだ!?」

「テロだ!? テロに違いない!?」

「外の世界に生物がいるというのか!? 放射能の世界でも生きていける生物がいるというのか!?」

重鎮といわれても権力が好きなだけで、自分が責任を取りたくない人間が集まっているだけだった。

「どうする!? どうすればいいんだ!?」

「私は悪くないぞ!? 化学班に責任を取らせろ!?」

この子供のような大人の言い争いが繰り広げられているのを退屈そうに眺めている、玉座に座ってイライラ陛下がいた。

「やめろ! おまえたちは自分の保身しか考えないのか!? 皇居の外は放射能に覆われてしまったんだぞ!? ケンカなどやめて、次にどうするかを考えろ!」

陛下の重鎮に対する怒りは最高潮に達していた。

「陛下、監視カメラに侵入者の映像があります。」

1人の日本国の職員の男性が放射能汚染防止シールド破壊の混乱の最中、皇居という既得権益を持つ者たちにとっての本当の日本国に何者かが侵入したと陛下に報告があった。

「なんだと!? 誰かが日本国に侵入しただと!? すぐに映像をスクリーンに映し出せ!」

陛下は侵入者の映像を見せるように、日本国の職員に言う。

「はい。かしこまりました。」

職員はスクリーンに侵入者の映像を映し出す。

「な!? あいつは!?」

陛下は映像を見て驚いた。侵入者としてスクリーンに映し出されたのは、放射能人間レディエーションヒューマンの男性の飛鳥だった。最近も陛下は男性を皇居に呼び寄せ、自分に協力してくれるように要請したばかりだった。

「ゆ、許せん!? まさか!? 放射能汚染防止シールドが壊されたのも、あいつの仕業か!?」

それなのに放射能汚染防止シールドが壊れたどさくさ紛れに、遺伝子研究所に侵入して男性は目的の物を手に入れた。陛下は全ての事態を考慮して放射能汚染防止シールドを破壊したのも男性ではないかと考えた。

「陛下、まずは放射能汚染防止シールドの復旧作業を行わないといけません。」

「そうです。下山手の全域は無理でも、区分けだけでもシールドで覆って、空気清浄機で放射能をシールドの外に放出して、人間が生きていける空間を広げませんと。」

「そうです。このままでは人類は滅亡しますぞ。」

日本国の重鎮たちは最優先で何をすべきかを陛下に言う。このままでは人類は皇居の放射能汚染防止シールドの中にいる者だけしか、生き残っていないのだ。少しでも放射能の無い世界を広げていかなければならない。そうしなければ人工授精や遺伝子操作をして新しい命を生み出したとしても、人口を増やしていく場所がないのだった。

「クククッ!? わかった。早急に放射能汚染防止シールドの復旧にあたれ。」

陛下の心には男性に対する疑念しか残らなかった。



その夜、陛下は自分の住居に戻ってくる。皇居の中にある陛下の家族のための住まいである。とても豪華な造りで、メイドさんもたくさんいた。

「おかえりなさいませ。陛下。」

その中で1人のドレスを着た様な女性が疲れ切って帰って来た陛下を出迎える。

「ただいま、皇后。」

陛下は自分の妻のことを皇后と呼んだ。その女性は放射能人間レディエーションヒューマンの男性の飛鳥の妻で、愛子の母親である女性のさくらと瓜二つであった。

「今日は1日、いろいろあって大変でしたね。」

陛下の妻が陛下のことを心配して労を労う。放射能汚染防止シールドが壊され、日本国は住居スペースの80パーセントを失った。今日1日で周囲の光景はガラッと変わってしまった。皇居の放射能汚染防止シールドの外は放射能の霧で覆われてしまったのだから。

「ああ、そうだな。疲れたから、先に風呂に入る。」

陛下は素っ気なく返事をすると、さっさと1人で部屋の奥に入って行ってしまった。

「はい、陛下。」

陛下の妻は軽く一礼をして陛下を見送った。その表情はどこか寂しそうであった。



陛下は1人で大きな湯船に浸かっている。大きな大浴場のような広さのお風呂を1人で使っている。床は全面大理石であろうゴージャスなお風呂であった。

「ああ~、疲れた。」

陛下は今日1日の出来事を考えるだけでもクタクタに疲れていた。湯船で背筋を伸ばすと1日の疲れが軽くなる様に感じた。それほど陛下はお疲れであった。

「それにしても、飛鳥め。放射能汚染防止シールドを破壊して騒ぎを起こし、その間に遺伝子研究所に忍び込むとは・・・許せん。」

陛下は放射能人間レディエーションヒューマンの飛鳥に対し恨みの念を抱いていた。陛下には前回男性がここまでやって来たのは、ある物を持ち出すための下見にやって来たのだなっと目星がついた。

「この世界では放射能に汚染された人間は放射能の霧の中に捨てられる。私の友も愛する人も放射能汚染防止シールドの外に行ってしまった。どんなに遺伝子データから人工的に本人と同じ容姿を持ったクローンを作り出しても、性格までは同じにすることはできなかった。もう私はずっと1人ぼっちになってしまった。きっと、飛鳥もさくらも私を許してはくれないだろう。」

陛下の胸の内は寂しさしかなかった。陛下とどんなに持ち上げられても、そういう人間は私利私欲のために陛下という立場の自分にゴマを擦ってくるだけだった。中の良い友や愛らしい人間になるはずもなかった。

「よし、今夜ひっそりと2人の所に行こう。それがいい、そうしよう。」

陛下は放射能汚染防止シールドの外に行こうと言う。それで放射能の霧の中を抜けて飛鳥やさくらの住む奇跡の谷まで行こうと言うのだ。生身の人間の陛下に、そのようなことができるのだろうか。普通の人間では放射能に汚染されてしまう。現在の科学技術では放射能に汚染されない防護服など作ることは無理であった。

「そうと分かれば、ご飯を食べて早く寝て、皇后を始めとする周りの人間を就寝させなければ。」

陛下は湯船からあがり、良からぬやる気に満ち溢れていた。その表情は疲れや憂いではなく、充実した表情をしていた。まるで親しい友人に会いに行くようだった。


つづく。

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