第6話 ウォータープラネット

放射能の霧の中、放射能人間レディエーションヒューマンの男性の飛鳥と警備隊の隊員氏家が歩いている。放射能生命体レディオアクティビティクリーチャと呼ばれる未知の生物に注意しながら。

「いいか!? 俺は納得してないからな!?」

隊員は男性の答えに納得はしていなかった。目の前で仲間の警備隊の隊員が放射能生命体と呼ばれるレディオアクティビティクリーチャに殺された。そして、その化け物を退ける強い力を持っていた放射能人間レディエーションヒューマンの飛鳥に、なぜ、それだけの力がありながら仲間を助けてくれなかったと隊員は男性に言った。

「地球が汚れるから。」

男性の返事は素っ気ないもので、男性には意味が分からなかった。

「はっ!?」

隊員は唖然とするしかできなかった。男性は隊員の態度に嫌気がさしたように見えた。

「嫌なら勝手に帰れ。辺りにはレディオアクティビティクリーチャがたくさんいるだろうがな。」

そう言うと男性は1人で再び歩き始めた。

「なに!? おい!? 待ってくれ!? 俺を見捨てないでくれ!?」

隊員は1人で日本国まで帰ることもできず、仕方なく男性の後を追うことにしたというのがここまでの流れである。



放射能の霧の中を歩くのは視界も悪く、慣れたものでなければ普通に歩くことはできない。時には霧の中から建物の壁が現れてぶつかりそうになる。

「うわあ!? ふう~っ。危なかった。」

命懸けで歩いている隊員と違い、男性はスムーズに放射能の霧の中を歩いて行く。

「危ないなら危ないと言ってくれよ!?」

隊員は男性に文句を言うが、男性は聞く耳を持たず先に先に進んで行く。隊員が歩くのをやめると男性の姿が放射能の霧の中に消えて見えなくなってしまう。

「わああ!? 待ってくれ!? 置いて行かないで下さい!?」

隊員は悪態をつくのをやめて、慌てて駆け足で男性の後を追っていく。こんな所で1人になったら死んでしまうので、死にたくない隊員は男性に対して敬語を使うようになっていた。

「あの・・・質問してもいいですか?」

男性に追いついた隊員は分からないことだらけの現状について質問しようとした。

「レディオアクティビティクリーチャを呼び寄せたくなければ黙っていろ。」

男性は放射能生命体がこの辺りにはいるという。あの人でも獣でもない化け物である。

「はい!? 静かにします!?」

隊員は恐怖心から大きな声で男性に返事をしてしまう。

「静かにしろ。」

男性は隊員に素っ気なく言う。男性は隊員に対して特別な感情は持っていなかった。ただ生命としか見ていないのかもしれない。

「・・・はい。」

今度は隊員は小さな声で返事をした。隊員からすれば、放射能生命体も怖いが目の前にいる男性も怖いのであった。男性は放射能人間のレディエーションヒューマンなのだから。

これ以降、隊員は何もしゃべらずに黙って男性の後をついて行った。



かなり放射能の霧の中を男性と隊員は歩いた。すると地球全体が放射能で汚染されている中で、不思議と放射能の霧が晴れてきた。

「放射能が薄れていく?」

隊員は放射能防護服を着た警備隊なので、日々の勤務地である放射能の世界と日本国と言われる放射能汚染防止シールドの放射能の無い人工的に作られた世界しか知らない。

「な、なんだ!? ここは!?」

隊員の目の前に今まで見たことのない世界が広がる。その世界は、放射能に覆われた地球の大気は光をほとんど通さずに暗い世界のはずなのに、隊員には、見たことのない世界は明るく見えて、なぜだか温かさを感じられた。

「ひ、光!? なんて優しい光なんだ!?」

隊員は放射能の霧の暗闇の中で光に出会った。普通は疑問を感じるのかもしれないが、それよりも隊員は自分の体に降り注ぐ光を心地よく受け止めていた。

「太陽の光だ。」

男性が日光浴をしている隊員に言う。この光は太陽の光だと。放射能に閉ざされた光の無い世界。日本国でも光は自家発電で電気を起こして、人工的に太陽を作り明るくし昼夜を作り出している。

「た、太陽だって!?」

太陽などどというものは伝説上のものであり、今となっては本当に太陽があるのかどうかも人類には知る術もなかった。

「もう防護服を脱いでもいいぞ。素肌で陽の光を浴びてみろ、もっと気持ちよくなるぞ。」

男性の言葉に隊員は恐れも無く防護服を脱いだ。隊員は太陽の光を全身で浴びている。太陽の光は人工的な、どこか冷たさを感じる光とは違い、まるで自分を包み込むような光は、隊員に自分が生きているのだと教えてくれる。

「気持ちいい!」

隊員は初めて浴びる太陽の光に喜び、土や草の上を走り回る。花も生えているが隊員は花を踏まないように笑顔で駆け回った。この世界には緑の植物だけではない、澄んだきれいな湖もあるのだ。

「すごい!? すごいぞ!? いったいここはどこなんだ!?」

隊員は自分は死んで天国に来たのではないかと思うぐらい、目の前の世界の美しさに心を奪われて興奮していた。

「地球だ。」

男性はこの水と緑のある美しい世界が地球だと言った。

「地球!? そんなバカな!? 地球は放射能に覆われてしまい、水も緑も、それこそ人間が生きていける訳がない!?」

隊員は驚いた。放射能汚染防止シールドの外は、放射能の霧に覆われた死の世界と呼ばれ。水も緑もない世界、人間は生きていけない世界だからだ。それなのに今、自分の目の前に美しい世界が広がっている。

「ここは確かに地球だ。核戦争から人間は放射能汚染が怖くて、誰も外の世界を開拓しようとしなかった。その間に歳月が過ぎていき、人間が手つかずの地球環境は自然治癒を行い。大地から水が湧き出し、草木を生やし、空気を浄化しうっすらではあるが太陽の光を、この深い谷の底まで届けてくれている。これが水の惑星と言われた地球の姿だ。」

男性はこの美しい世界が本来の地球だと言う。

「これが地球!?」

隊員は地球とは放射能に汚染され、放射能汚染防止シールドの中で、科学技術で人工的な世界を保ち人類の存続のために細々く生きていく世界だと思っていた。それなのに、この世界は生命に満ち溢れていた。

「んん!? 何かが動いたような!?」

隊員の足元を小さな何かが歩いて移動している。見えているような見えないような小さなものが歩いている。微かに見える姿は岩のようなものが2体、草のようなが5体、土の道を歩いている。

「地の精霊と草の精霊だ。」

男性にははっきりと見えている。精霊たちも笑顔で男性と隊員に手を振って歩いて行く。

「精霊!? 何を言っているんだ!? そんなものいるはずが・・・ええ!?」

隊員は目を疑いたくなるが、言っている矢先に目の前を小さな何かが手を取り合い踊っているかのように風に流されるように楽しそうに過ぎ去っていく。

「風の精霊と空気の精霊だ。他にも花が咲いているからには、花の精霊がいるし、湖の水面では水の精霊がお昼寝している。人間が汚す前の地球は人間には精霊が見え、普通に一緒に暮らしていたのかもしれない。」

男性は昔のきれいな地球では精霊が見えることが普通であったと言う。豊かな水の惑星と言われた地球を人間が地球環境を自分たちの生活のために破壊し続け、最後は核戦争で地球を放射能の霧に覆われた死の世界に変えてしまったのだ。

「ち、地球が、こんなにも美しい星だったなんて・・・。人間はなんて愚かなことをしてきたんだ!? 人間は取り返しのつかないことをしてしまったんだ!?」

隊員は気づいた。自分が悪い訳ではない。それでも人間がこの水と緑の美しい地球を壊し続け、命の育めない星にしてしまったのだと。もう後悔しても遅いのかもしれないが後悔することしかできなかった。

「おまえは、どうして俺を助けたと聞いたな。」

男性は絶望にも近く生き場のない感情を爆発させている隊員に言う。

「んん!?」

隊員は関心があるからか、男性の方を首だけ向けて見る。

「おまえは自分なんかが生きていても仕方がないと言った。俺もここにたどり着いた時に同じことを思っていた。」

男性は隊員を助けた理由を言う。男性は隊員が昔の自分と重なったから隊員を助けたのだった。

「え!?」

隊員は目の前の放射能人間レディエーションヒューマンの男性が自分と同じく絶望や後悔、悲しみを感じていたと知り驚く。

「そんなに驚くなよ。俺だって元々は人間だ。ただ放射能に汚染されたというだけだ。」

そう、男性は元々は人間だったのだ。隊員となんら変わらない人間なのだ。

「そうだな。普通に言葉も通じてるもんな。ワッハッハー!」

隊員は男性が放射能に汚染された人間としても怖いと思わなかった。それよりも自分の命を助けてもらった命の恩人だと感謝と親しみを感じていた。

「俺がここに来た時は、まだ水も緑も生まれたばかりだった。もう俺の放射能汚染は完治することはない。だが、これだけ水と緑が成長した豊かな地球に少しの間いれば、おまえの放射能汚染は、地球の自然治癒力が治してくれるだろう。」

男性は水と緑の惑星は人間の放射能汚染された体も自然に治療する力があると言う。

「何を言っているんだ? 俺は放射能になんか汚染されていないぞ?」

隊員は男性のいう言葉の意味が分からなかった。しっかりと放射能汚染防護服を着ていたので汚染することはないと思っていた。

「あんな服で放射能を防げる訳がない。放射能は地球すら蝕んでしまう恐ろしいものだ。気軽に考えてはいけない。」

男性は放射能を甘く考えている隊員を注意する。放射能に覆われ死滅する人類、失われていく水と緑と生命を分かっているからだ。

「そ、そんな!? 俺は放射能に汚染されたのか!?」

隊員は自分が放射能に汚染されたと知った。放射能汚染防護を着ていても、放射能に汚染されていた。人間の作る物に完全や絶対というものはなかった。

「お客さんなの?」

その時、騒いでいる隊員の声を聞きつけて、1人の女性が現れた。女性はまるで太陽のように幸せそうな優しく笑いながら男性たちに近づいていく。

「さくら。」

男性は女性のことをさくらと呼んだ。隊員は女性を一目見てきれいだと思い騒ぐのをやめた。女性は男性と隊員の現在の状況を何も聞かずに理解している様だった。

「もう!? 飛鳥ったら!? また初めてここに来た人をからかっていたのね!?」

女性は男性の行いに呆れている。きっと今までに何度も怒ったことがあるのだろう。女性はあきれ顔になったが、それでも可愛かった。

「また!? まただと!? じゃあ俺が放射能に汚染されたという話は嘘か!?」

隊員は思わず声を荒げて男性を睨んだ。自分は男性に騙されていたのかと憤りを覚える。

「チッ、バレたか。」

男性は隊員に自分が嘘をついていたように思えるように技という。男性は2段構えの作戦で男性を騙そうとしているのである。

「てめえ!? 許さないぞ!?」

そうとは知らない隊員は男性を追いかけまわしそうな勢いがあった。

「ごめんなさいね。でも、あなたが放射能に汚染されているというのは本当よ。」

女性は2度からかわれている隊員が不憫で笑いそうにもなるが、隊員が放射能に汚染されているということは本当だと言う。

「ええ!? そんな・・・。」

一気に男性は意気消沈して、暗い顔をしてその場に座り込み動かなくなった。

「落ち込まなくても大丈夫ですよ。ここは空気も澄んでいてきれいですから、地球の自然治癒の力で、あなたの体の放射能も消えていきますよ。」

女性は落ち込んでいる隊員に優しく笑顔で語りかける。

「は、はい!」

隊員は不思議と女性に声をかけてもらうと気持ちの良し悪しのバランスが落ち着き平常心を取り戻すことができた。

「私はさくら。あなたは?」

女性は自己紹介した。そして男性に連れてこられた初めて見る隊員に名前を聞く。

「氏家といいます! さくらさん! よろしくお願いします!」

隊員は女性に一目惚れしたかのように顔が赤らみ声が上ずっていた。

「氏家さん、よろしくお願いしますね。」

女性はニッコリと隊員に返事を返す。

「はい!」

女性の返事に深い意味は無いのだが、隊員は女性の笑顔や声を聞いただけで気持ちが高ぶってしまう。

「おい、言っておくが、さくらは俺の妻だ。妙な気を起こしたら殺すぞ。」

男性はヘラヘラしている隊員に釘をさす。男性と女性は結婚していたのだった。

「は、はい・・・。」

隊員は女性が男性と結婚していると聞いてガッカリする。

「俺とさくらは放射能に汚染されて、2人一緒に日本国から捨てられたのさ。」

男性は女性とここで暮らしている馴れ初めを語り始める。

「え!?」

隊員は知っている。日本国では放射能汚染防止シールドの中で放射能が拡散しないように、放射能に汚染された人間を準日本に移す。準日本国とは名ばかりで、放射能の霧が広がる死の世界に死ぬために捨てられるのである。

「でも、俺とさくらは2人だから、2人だから諦めて死ぬことを選ばずに、生きることを選んだんだ。」

死の国に捨てられた人間は普通ではいられない。捨てられるまでの恐怖で精神がおかしくなり始め、捨てられて目の前に何もない放射能の霧が立ち込める死の世界で完全に狂い壊れ人間では無くなってしまう。

「そして、俺とさくらはここにたどり着いたんだ。この水と緑と元の美しい地球に再生しようとしている、この奇跡の谷に。」

もしも死の世界で人間が正気を保っていられるとしたら、それは愛しかない。日本国で放射能に汚染されて捨てられる人間同士が初対面で愛し合える訳もなく、男性と女性は愛する者同士が2人同時に捨てられたことが奇跡だった。

「すまない。何て言ったらいいのか分からなくて、言葉が出ないんだ。」

隊員は素直に自分の今の気持ちを男性と女性に伝える。何だか申し訳なさそうな顔をしている隊員だった。

「気にするな。命があるだけでお互い儲けものだろ。」

男性は隊員の素直そうな性格が気に入っていたのかもしれない。軽く声をかけて隊員を気遣う。

「お父さん! お母さん!」

その時、男性と女性と隊員の居る元に小さな女の子が現れた。女の子は4、5才の活発そうな女の子で、男性を父親と呼び、女性を母親と呼んだ。

「お父さん!? お母さん!? 放射能で汚染されていても子供を作ることができるのか!?」

隊員は放射能に対して正確な知識は持っていなかったようだ。放射能に汚染されて、放射能人間レディエーションヒューマンになったとしても子供を産むことはできる。ただ子供も放射能人間になるだろう。

「地球と書いてちたまっていうんだ、かわいいだろう?」

男性は隊員に娘の名前を言う。

「ちたま!? あんなにカワイイのに、なんて残念なネーミングなんだ・・・。」

隊員は女の子がカワイイだけに残念がる。

「あなた、嘘を言わないで!」

女性が男性に拳をあげて起ころうとする。男性は拳の届かない所まで静かに移動している。

「噓なのか!?」

隊員は騙された。それでも男性が放射能のレディエーションヒューマンなのだが、どこか人間よりも人間らしく感じていた。

「何をやっているの? お父さん! お母さん!」

娘が何だかもめている両親の元にやって来た。せっかく呼んだのにやって来ない両親の元に怒りながらやって来た。

「ごめんごめん。娘の愛子です。愛子、ご挨拶しなさい。」

女性が娘に新しく谷にやって来た隊員に挨拶するように促す。

「愛子です。よろしくお願いします。」

女の子は母親と同じように可愛らしい笑顔で自分の名前を言い礼儀正しくお辞儀をする。

「自分は氏家です。こちらこそよろしくお願いします。」

隊員は相手が5才の女の子だが、どちらが大人なのか分からないぐらい、女の子を見る隊員は緊張していた。

「おい、言っておくが、愛子は俺の娘だ。妙な気を起こしたら殺すぞ。」

放射能人間レディエーションヒューマンの父親として、カワイイ愛娘に近づくものは誰であろうと許さない。

「そのカワイイ娘をちたまと呼んだ奴が父親顔するな!?」

颯爽と戻って来た男性を隊員が人間として注意する。

「ちたまって何?」

女の子が不思議そうにお母さんに聞く。

「なんだろうね。お母さんにも分からないわ。」

女性はちたま話をはぐらかす。

「それよりお腹も空いてきたし、ご飯を食べに行こう。」

女性は女の子が関心があり食いつきそうな話題を提供して話を逸らす。

「わ~い! ごはん! ごはん!」

女の子はお母さんと手をつないで谷の奥に戻っていく。

「おまえもさくらたちについて行け。日本国に戻るにしても放射能に汚染された状態で戻っても捨てられるだけだ。体の放射能が消えてから帰ればいい。」

男性は隊員に少し谷で療養していくように言う。

「いいのかな。」

隊員は何と答えていいのか分からない。自分が本当に放射能に汚染されているのかどうかも分からない。

「構わない。おまえがこの谷のことを誰にもしゃべらなければな。」

そう言うと男性は女性の向かった谷の方ではなく、放射能の霧の方に歩き始める。

「どこに行くんだ?」

隊員は男性に聞く。

「招かざる客だ。この谷を出れば、おまえに地球のご加護はない。足手まといだからついてくるな。美しい地球の自然環境やここで生きている人々の暮らしでも見て来い。」

男性は地球の谷に隊員を残して、放射能の霧の中に消えていった。

「何なんだ!? 人をからかったり!? 急に真面目なことを言ったり!?」

隊員は怒りたいが怒れない。

「待ってください! さくらさん! 愛子ちゃん!」

谷の入り口で1人になって立っていても心細いので、急いで女生と女の子の後を追った。



ここは谷から近い放射能の霧の中。歩いていた男性が立ち止まる。放射能の霧の中から男性らしき黒マントの男の姿が現れる。

「来たか、飛鳥。」

黒マントの男は男性が来ると歓迎するように出迎える。

「円城寺か?」

男性は黒マントの男を知っている。この黒マントの男が男性への連絡役だった。男性は何度も何度も黒マントの男の集団に誘われている。

「俺たちに手を貸す気になったか?」

黒マントの男は男性に何かを提案しているようだ。黒マントの男は男性のことを放射能人間レディエーションヒューマンと知っていて力をとても貸してほしそうだった。

「いいや。おまえこそ恨みを捨てて平和に生きる気になったか?」

男性も黒マントの男に提案をしていたようだ。男性は黒マントの男の問いかけを断ると逆に男性の提案の答えを聞こうとする。

「俺たちは捨てられたんだ。放射能の霧の中で生きるために、人を食らった。」

黒マントの男は人を食べたという。純粋な人間しか住むことを許さない日本国から放射能に汚染され放射能汚染防止シールドの中から追い出されたのだ。そして放射能の霧の中で精神が狂い捨てられた者同士が戦い殺し合った。食料が無くなれば食べれるものを食べなくてはならなかった。

「おまえが俺たちを受け入れても、美しいさくらの意志は人の道から逸れた俺たちを受け入れはしないだろう、逢坂の時のように。」

黒マントの男は自分たちはさくらの居る美しい地球に再生しようとしている谷は、禁忌を犯した放射能生命体レディオアクティビティクリーチャを受け入れはしない。罪を犯したものは受け入れない。

「そうだな。なんとかして俺みたいに放射能人間になる方法はないのか?」

黒マントの男は放射能生命体レディオアクティビティクリーチャ。男性は自分みたいに放射能人間レディエーションヒューマンになることはできないかと聞く。

「無理だ。この世界に愛はない。放射能に汚染されたと分かった時に、家族とは別れている。放射能の霧の中に1人で捨てられる頃には孤独と絶望、人間であることを自ら捨てた。それが死ぬことを前提とした放射能の世界だ。おまえたちのように1人が汚染されて、もう1人も汚染されて一緒に放射能に汚染された世界に行く選択など誰が出来ようか!? またこの世界では愛は生まれない。」

黒マントの男は本心を述べる。人でなくなり生きているのか死んでいるのかも分からない。このような状態で誰かを愛するなどあり得ないのだ。

「・・・。」

男性は何も言えなかった。黒マントの男の言うことが分かるからだ。一緒についてきてくれたさくらに感謝している。もしさくらがいなければ、自分も目の前の黒マントの男のように放射能生命体レディオアクティビティクリーチャの化け物になっていただろう。

「放射能汚染防止シールドの中にいる連中に復讐したいと思わないのか? もう俺は放射能の霧の中でしか生きられないだろう。中の人間は放射能に汚染されれば死に絶えるだろう。自分らだけ助かればいいと思っている人間なんて消えてしまえばいい。それもさくらのためになるじゃないか?」

黒マントの男の目的は自分を捨てた日本国の人間たちに対しての恨みからくる復讐だった。決して晴れることのない復讐。何をどうしても自分が人間の姿に戻れることはないだろう。

「さくらは復讐を望んでいない。さくらは、さくらはただ、もう一度美しい地球を見てみたいだけだ。」

男性はさくらの目的を言う。さくらの希望は水と緑の惑星であった地球の再生と男性を守り続けることだ。

「それでも俺たちは同じ放射能に汚染された者同士だ。飛鳥、おまえの力を貸してくれ! 一緒に放射能汚染防止シールドを破壊するのを手伝ってくれ!」

黒マントの男は純粋な人間が生き残っている日本国を覆う放射能汚染防止シールドを破壊しようとしていた。自分を人ではない異様な姿に変えた者たちをゆるせないのだった。

「無理だな。俺の欲しいものは、まだ日本国の中にある。だが、おまえたちの気持ちも分かる。やるなら2カ所以上で行え。数は多ければ多いほどいい。ただし1カ所は俺が確実に鎮圧する。それが嫌なら俺以上の手練れを配備するんだな。暴動が起きている間に、俺は日本国内部に潜入し、俺の欲しいものを手に入れる。それでいいか?」

男性は自分の欲しいものを手に入れるために譲歩したつもりだった。日本国内部の構造も日本国の陛下に呼ばれて内部に入れたおかげで、自分の欲しいものがどこにあるのか目星がついた。

「ああ、そうしてもらえると助かる。俺たちが怖いのはきれいな世界でも放射能の世界でも生きていける放射能人間レディエーションヒューマンのおまえだけだ。」

黒マントの男は男性が参戦してくれないまでも、敵にならないと約束してくれたのは大きな成果だった。

「逢坂に伝えてくれ。さくらが必ず水の惑星と言われた地球を甦らせるだろう。きっと放射能生命体のレディオアクティビティクリーチャだって、人間に戻れる方法があるはずだ。絶対に無理するなと。」

男性は黒マントの男のリーダーである男と面識があるみたいだった。そして男性も黒マントの男のリーダーも水と緑の地球に憧れていた。この放射能で汚染された地球から、いつか放射能が除去される日を夢見ている。その可能性があるのが、男性やさくらが住んでいる奇跡の谷である。徐々に水と緑が再生していく新しいちきゅうである。

「分かった。泥は俺たち放射能生命体が被る。飛鳥、おまえやさくらたちはきれいに生きろ。おまえたちが俺たちの希望なのでから。さらばだ。」

そう言うと黒マントの男は放射能の霧の中に消えていった。

「すまんな、円城寺。・・・ありがとう。」

男性は揉め事を起こさずに、自分たちも純粋な人間から捨てられた同士として、危害を加えずに受け入れてくれている黒マントの男のリーダーに感謝していた。



ここは放射能生命体レディオアクティビティクリーチャの本拠地。黒マントの男は放射能の霧の中にある本拠地に帰って来た。そして男性との会談の内容を黒マントの男のリーダーに話している。黒のリーダーは右腕が無かった。しかし、それ以外は可能な限り人に近い形をしていた。そして他にも黒マントを羽織った者たちが10人前後いた。

「飛鳥らしいな。円城寺、ご苦労だった。」

黒のリーダーは男性と話をつけてきた黒マントの男を労った。

「どうする逢坂?」

放射能生命体レディオアクティビティクリーチャを圧倒的な強さで統率している逢坂である。その強さと全員に目的意識や規律を課している。人では無くなった化け物たちを人として接してくれている姿に他の放射能生命体たちも忘れていた人の感情を取り戻し感謝をしている。他の黒マントの男たちもリーダーの声を待っている。

「俺たちの目的は、俺たちを捨てた人間たちに復習することだ。同じ人間でありながら放射能に汚染されたからといって、俺たちに死ねと放射能の霧の中に捨てたんだ。許せるはずがない。人類は一度滅びなければいけないんだ。青かった地球に戻すためにも。」

リーダーは放射能生命体の最終目的は、人類滅亡だと言う。恨みを晴らすことでしか、もう自分たちの存在意義を見出すことができないのだった。

「みんなは放射能汚染防止シールドの周囲を破壊し、シールドの中に放射能を流し込むんだ。作戦名はウォータープラネット。水の惑星のために。飛鳥の相手は俺がする。」

リーダーの号令で黒マントの男たちは放射能の霧の中に消えていく。放射能生命体たちも勝負をするからには命懸けなのだった。


つづく。

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