『とある誰かの――。』



 少女は眠っています。



 硬い殻に覆われて、幾重にも重なった巻き貝が気まぐれで作るコンクパールのように。彼女は深い眠りに落ちています。



 少女は眠っています。



 故に彼女は夢を見るのです。



 愛してという信号を発しながら、他者の愛を拒み続けるヘイゼルは、無垢な瞳を夢に照らし、王子の帰りを待っています。



 誰の手にも触れず、いまだその貞操を守り、憐れに帰りを待ち続けるのです。

 けれども、取り巻く小人にも気付かない眠り姫の瞳は、決して開くことはありません。



 なぜなら、彼女は眠っているのです。



 ここは鏡の国。このシナリオに王子はいません。彼女自身で物語を終らせなくてはならない。



 ですから、僕は彼女にこびりつく殻を取り除いてやるのです。



 ■という殻を除き、■という殻を除き、■という殻を除く。

 つぶれたバターのように淡い輝きを放つ真珠に、外の光を当てやるのです。



 このシナリオに結末はありません。



 あるのは老父と■■のみ。


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